ドア閉まります。ご注意ください

白川津 中々

◾️

仕事行きたくねーなーと思いつつもしっかり支度を済ませて部屋を出る。


朝イチ出勤。電車が大幅に遅延したとて定刻には間に合う時間。会社につけば掃除をして作業開始。始業五分前にタイムカードを切る。そんな生活を五年続けて来たわけだが、今日程怠い日はない。このまま踵を返して帰宅し全裸になって寝たい。寝たいけど、駅まで来てしまった。なんかもう既に疲れちゃった。明日の事とか将来の事とか気にせず思い切り休みたい。世の中仕事よりも大切な事ってあると思う。それがなんなのかちっとも分からないけどともかく今は休みたい。休み続けたい。あぁ、電車だ。電車が停車してドアを開いてしまった。乗るしかない。乗る以外にない。会社に向かって進んでいくしかない。


「ドア閉まります。ご注意ください」


本日遅延なく満員。おっさんの太ももが当たる。凄く近いのに何も知らない人。あんたも毎日大変だ。これから一緒に今から飲みに行かないか。なんて声をかけられたら楽しいのにね。


「ドア閉まります。ご注意ください」


「ドア閉まります。ご注意ください」


「ドア閉まります。ご注意ください」


停車発車。入れ替わり立ち替わり。駅で人が降り、また入る。毎度毎度違うおっさんの太ももを感じながら職場最寄りの駅到着。このまま降りずにどこか行っちゃおうか。行っちゃお行っちゃおサボっちゃお。今日は昼から知らない土地の知らない酒を飲んで酔っちゃお。きっと楽しいぞそんな事したら。乾杯だ。自由に乾杯。俺に乾杯。クソみたいな会社と逃避行に、乾杯、乾杯。


「ドア閉まります。ご注意ください」


……なんてね。


プラットフォームから電車が出発。

「あーあ」と呟き改札へ。

今日も仕事だ、頑張ろう。

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