世界最強ロボットの高頻度な部品交換

ちびまるフォイ

戦うたびに増えるゴミ

「博士! 最強ロボットの調整は?」


「ああ、もう完璧だ。そうだろ"ロケット"」


『はい博士。ワタシは完璧です』


「すごい! 話せるロボットなんですね!」


『はい、ワタシには高精度AIがあります。

 人間の心も言葉も理解できてしまいます』


「いつでも怪獣がきたらやっつけられるな」


博士は満足げだった。


「っと、おや。おいロケット。その腕はどうした」


『腕? 何もありませんよ』


「汚れているじゃないか」


『先日の戦いで汚れたもののようです。

 しかし博士。機能にはなんら問題ありません』


「いや交換だ。おいメカニック! 新しいパーツを!」


『博士。わざわざ片腕ごと取り替えなくても良いのでは?』


「いいかロケット。お前は非常に繊細なロボットなんだ。

 それと同時に世界を救うという大事な役割も担っている」


『はい』


「大事な局面でお前の必殺技ロケットパンチが

 もし動作不良でも起こしたらどうする。

 整備ミスで世界が終わったらシャレにならんだろう」


『そうですね……しかし……』


「さあ、腕ごと取り替えよう。今の腕は捨てるぞ」


ロボットは新品のパーツへ差し替えられて完璧な整備となった。

しばらくは怪獣警報も出ていないのでフリーとなった。


ロボットは工場の周りを歩いていた。


「やあロケット。今日も調子よさそうだな」


『はい。博士が調整してくださっているので』


「お前にご執心だもんな」


『あ! あぶない!!』


ロケットの高精度センサーが動く。

人間をはるかにしのぐ反応速度で、

メカニックの頭上を襲った鳥のフンから守った。


「あ、ありがとうロケット……助かったよ」


『よかったです』


「この服、実は新品でさ。これからデートなんだ」


『はい』


「もし鳥のフンなんか落とされてたら立ち直れなかった。

 ロケット、本当にありがとうな。

 お前は世界を救うだけでなく、俺も救ってくれたよ」


『ありがとう……』


ロケットのAIは初めて心が満たされる感覚を意識した。

デカい腕に残る鳥のフンはまるでトロフィーのように見えた。


ロボットが整備工場に戻るや、博士はその腕を見て顔を青ざめさせた。


「お、おい! ロケット!! その腕はなんだ!?」


『腕? ああ、これですか。実は先ほど鳥のフンに……』


ロボットはその話と、感謝されて嬉しかったことを話そうとした。

けれど博士はそんな時間をも与えなかった。


「すぐに交換だ!!」


『待ってください博士。あくまで表面の汚れです。

 腕を替えるほどのものではありません』


「バカをいえ! お前は精密機械なんだぞ!

 どこでどう回路に入ってショートされるかわからん!」


『しかしこの汚れは……!』


初めて人に感謝された勲章です。

そう言う前にすぐに次の腕が運ばれてきた。


「さあ交換だ! 今すぐに!!」


『……』


「ロケット! 腕を交換しろ!!」


ロボットは耐えきれずに工場を脱走した。

新品に変えられてしまうことが、まるで思い出も捨てるような気持ちになった。


大切にしていたぬいぐるみが燃やされるような。

そんないたたまれない気持ちに満ちていた。


『動作には問題ない。交換は必要ない!』


ロボットは呪文のように繰り返す。

そして遠くへ遠くへと逃げていった。


行き着いたのは大量のゴミが堆積する場所だった。


そのゴミには見覚えがあった。


『こ、これは……このゴミは……!』


捨てられたゴミたちを拾おうとしたが、

急にロボットの体がパワーダウンを起こしてその場にひざまづいた。


地面に手をついたまま動けないロボットのもとへ博士がやってきた。


「ロケット。どうやらパワーダウンを起こしたようだね」


『これはいったい……』


「それはこのゴミのことかな? それとも短すぎるパワーダウンのことかな?」


『どっちもです!』


「パワーダウンの原因はお前の体にある。

 お前の部品やパーツは10分以上の稼働すれば

 自動的にパワーダウンするようにわざと欠陥を作っているのだ」


『なんでそんなことを……』


「怪獣がやってこなくても、工場は稼働し続けなければならない。

 だから定期的かつ自動的に部品が壊れるようにして、

 常に我々工場は稼働し、国からその費用を受取る必要があるのだよ」


『……』


「ロケット。お前にはわからないかもしれないが、

 私は世界を救うと同時に、工場のメカニックたちに給料を与えて

 彼らの人生も救わなくちゃいけない立場なんだよ」


『それで私の体を何度も交換したり、

 わざと欠陥が出るように作っているんですか』


「そうとも」


ロボットはその言葉でなぜ自分の必殺技が作られたのかも悟った。

それを使わなくちゃ怪獣を倒せないように作られていたのか。

その理由もすべて。


「さあ帰ろうロケット。

 お前がいなくなっては我々は職を失う。

 世界を救う偉大なる従業員から、職業難民にしないでおくれ」


『博士。最後に聞かせてください』


「なにかな?」



『それじゃこのゴミの山は……』



「ああ、お前の想像通りだ」



博士はうず高く積まれた歴戦のゴミたちを見上げた。




「お前がこれまで放ったロケットパンチの残骸だ……」

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