お前は誰だ悪者か?

@Tanao910

第1話 妄想

  僕は桜川斗真さくらがわとうま。小学四年生だ。 感じる。後ろからの視線。誰かが俺を見ている。もしかして、俺のことを狙っている猟奇的殺人者か? 俺は怖くなって暗い夜道を全走力で走る。途中にある街灯は、ぱちっ、ぱちっと 明滅を繰り返す。リュックが走るたびに腰にぶつかり少し痛い。重さで肩も疲れる。 マンションの小道に入るため後ろを確認し、まだ距離があると分かると左の角を曲がる。数メートル走るとそこにはマンションの敷地に入るためのドアロックがある。急いでボタンを押す。


「あ、やべっ」


 慌てた押したため暗号を間違えてしまう。もう一度後ろを確認。まだ来ていない。 次は落ち着いてロックを解除する。

 

「よし!」

 

 扉を開ける。しっかりとロックをかけ階段を数段駆け上がる。家まではあと二十メートルもない。舗装された道を無視し土の道を走りショートカット。

 

 あと少し。あと数メートル。あとちょっと。

 

 リュックのサイドポケットに入っている財布を取り鍵を取り出す。手が揺れるせいで鍵をうまく取り出せない。財布を両手に持ったまま部屋の前の階段まだ着いてしまった。一旦取り出すことを諦め、三段飛ばして上がっていく。

 

 扉の前に着くと落ち着いて鍵を取り鍵穴に向ける。走ったせいか息が上がり手が震えなかなか差し込めない。左手で右手を押さえゆっくりと差し込む。 カチッと鳴った瞬間にノブを握り素早く時計回りに動かし、思いっきり引く。 家の中に入ると足跡がないのを確認し、どこの部屋に入ったか分からないようそっと閉めた。 ふうぅ。一息つき玄関の電気を付ける。靴を脱ぎリビングにいる母ちゃんに声をかける。


「ただいまー」

「おかえりー。すぐに手洗いなさいー」

「はーい」


 そう言ってからリュックを下ろし引きずりながら自分の部屋へ行く。 あぁ、疲れた。リュックを隅に置きベットにダイブする。そして頭を抱える。 またやってしまった......。


 俺には特殊な癖がある。人には言えないものだ。昔からミステリーが好きでアニメや漫画をたくさんみてきた。ーちなみに小説は難しくて手が出せていない。 そのせいか、日常的に殺人に関する妄想をしてしまうのだ。 例えば今日みたいに普通に自分の後ろを歩いてる人を殺人鬼と想定して勝手に、追われていると妄想をしてしまう。 普通の小学生はもっとヒーローになるとか魔法使いになるとかそんな可愛いものだと思う。しかし、俺は家族で旅行した時には旅館内で殺人事件が起きそれを見事に解決する探偵になったりと小学生っぽくない。 今日もそんな自分が恥ずかしくなる。





◆◇◆◇

 今日は学校の委員会活動で帰りが遅くなった。学校を六時くらいに出たが、もうこの時間でもだいぶ暗い。町中の街頭が灯り闇に染まった道を照らし帰路を導いてくれる。 今俺はとても焦っている。いつもは普通の人を悪いやつにして妄想するのだが今日の人はおかしい。 暗くて影すら見えないが足音で人がいるのに気づき今日もやろうと思っていたら途中で違和感を覚えた。それは足音のテンポだ。


 トコトコトコトコトコ......。

  トコトコトコトコトコ......。

  トコトコトコトコトコ......。

  トコトコトコトコトコ......。

 タッタッタッタッ...ピタッ。

 タッタッタッタッ...ピタッ。


 その足音は俺のと同じものだ。俺が走ったら走り止まったら止まる。一気に鳥肌が立ち怖くなってくる。

 え、どうしよう? もしかして本当に悪いやつ? 頭の中で色んな憶測が飛び交う。ただ一つ言えることはこれは妄想ではない。俺は昨日と同じように走り家へ向かう。俺が走るとそいつも走る。汗が額から止まらない。ドアロックを解除し家の扉の前まで行く。 足はあまり早くなかったのか途中でどんどん離れていくのがわかった。

 なんとか逃げ切れたことに安心し何事もなかったように母ちゃんに帰宅したことを伝えた。 今日はベットに飛び込まず椅子に座り頭を回らせる。しかし、答えは見つからない。最初は気のせいかと思ったがあれは確かに人が後ろからついてきていた。 これ以上悩んでも仕方ないのでとりあえず沸いてあるだろうお風呂に入ることにした。





◆◇◆◇

「ふう、気持ちよかったー」

「斗真とうま、今からご飯にするから早く着替えなさい」

「今日のご飯何?」

「あんたの好きなハンバーグだよ」

「やったー」


 俺はさっきのことは忘れ夜ご飯に夢中になっていた。言われた通り着替えるため部屋に戻るとそこには弟がいた。


「お、颯太そうた。帰ってきてたのか」

「うん」

「ん? どうしたんだそれ」


  タオルで股を隠しながら片方の手の人差し指を向けながら言った。 弟の膝には大きく絆創膏が貼ってあり血が滲んでるのが見えた。

「転んだ」

「どこで?」

「帰り道」

「どうして?」

「......段差に躓つまずいた」

「あ、そう。大丈夫か?」

「大丈夫......」


 弟は真面目で静かで俺とは真反対だ。だから、そんな弟が転んだことに少し驚いた。 まあ転ぶことくらいあるか。 特に気にせず俺は鼻歌混じりに着替え始めた。 すぐに服を着て弟を連れリビングへ向かう。扉を開けた瞬間に鼻へと飛び込んでくるハンバーグの匂い。俺の脳は完全に飯に支配されていた。

 そして、その日は今日のことを忘れたまま寝てしまった。

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