第7話 期末テスト

・期末テスト


 期末テストの期間がやってきた。平日は部活が終わってから、18時頃に千明の家で勉強を教え、土曜日は部活の午前練習があるため、昼頃から図書館で勉強会を開いていた。

 テスト一週間前になると部活が休みになり、教える時間が増えたことで、千明の勉強は順調に進んでいった。

 そして、いよいよ期末テストの当日が訪れた。


「今日から期末テストです。一日目は国語、英語、数学、理科、社会と順番に行います。中間テストと同様に、終了のチャイムが鳴ったら筆記用具を置いて、後ろから順に答案用紙を前の人へ渡してください。教科担当の先生が集め終わったら休み時間です。試験時間は各教科50分しかありませんが、最後まで諦めずに全力で取り組んでください。頑張ってください!」


 朝の会が終わり、一時間目の国語のテストが始まった。


 国語(授業中に先生が何度も強調していた発言や、生徒にした質問、それに加えて漢字の問題が十問出題された)


 英語(リスニング問題が数問、教科書にあった文章問題と、単語が三十問)


 数学(ドリルから出題された問題と、応用問題が五問)


 理科(板書に書いた内容と、実験に関する問題)


 社会(教科書に出てきた用語の穴埋め問題と、説明問題が三問)


 大体予想通りの問題が出たため、一日目のテストは手ごたえがありそうだ。

 チャイムが鳴りテストが終わると、答案用紙が後ろから順に回され、社会の担当の先生へと渡った。

 号令がかかると同時に、前のドア付近で千明が俺に向かって手招きしているのが見えた。みんなが帰りの準備を進めている間に、俺は千明の元へと向かった。


「すごいね!ほとんど習ったところしかテストに出なかったよーふぅー楽勝――!」


 千明は興奮した様子で両腕を振りながら俺の方に向かってきた。

 手ごたえがあったらしいが、これが後でフラグになりそうだと、心の中で思った。それにしても相変わらず距離感が近い。大抵の男子はこういう行動にドキッとしてしまう。興味があるのかな?もしかして、好きなのか?・・・なんて勝手に妄想して、振られていく奴英雄たちを何人も見てきた。俺はそんな英霊にはなりたくない。

 だから、千明に気づかれないよう、数ミリずつ距離を置いた。


「一日目お疲れ。その様子だと、問題なさそうだな」


「ちゃんと見直しもしたし、大丈夫だと思う!」


「数学の応用問題はすまない。まさか入試問題から出るとは予想外だった」


 これが唯一の誤算。

 数学のテスト範囲には教科書の1〜27ページ、ドリルの1〜35ページ、そして応用問題と記載されていた。

 授業中、先生は教科書の範囲内で応用問題を作成し、俺たちに五問解かせていた。

 しかし、解けたのはごく少数で、ほとんどの生徒は手も足も出なかった。先生は解けない生徒が多いことを理由に、その問題を課題として後日提出するよう指示していた。

 それほど先生がこの問題にこだわっていたため、多少変えられてもテストに出るだろうと予想し、千明にも教えていた。

 予想外だったのは、そのうちの二問が入試問題に差し替えられていたことだ。これを解けた生徒は、そうそういないだろう。


「いやいや、あれは先生が悪いよー!あんなの解けた方がおかしいって。しかも配点は6点だけだし、平気平気―」


 千明が笑いながら言っている後ろから、先生がいつもより早く職員室から教室に戻ってきた。


「そう言ってくれると助かる。今日も千明の家でいいか?それと、先生が来たから席に戻る」


 千明は後ろを振り返り『いつも通りの時間で』と軽く返事をして、自分のクラスに戻っていった。

 俺も教室に戻り席に着くと、教室の空気が尿に重苦しいことに気づいた。

 先生の顔を見ると、少し強張らせた表情で俺たちを見つめていた。

 一日目のテストが終わり、騒いでいたクラスが一瞬で静かになった。


「先ほど、学校に爆破予告が届きました。『学校のどっかに爆弾しかけた。明日爆発させる』と書かれています。もしこの中に悪ふざけで書いた人がいるなら、今のうちに名乗り出てください」


 先生たちは、テスト期間中であることから、これは生徒のいたずらだと考えているようだ。あるいは、すでに犯人を特定しており、自主的に名乗り出るのを待っているのかもしれない。

 五分くらい静寂が続いたが、名乗り出る人はいなかった。


「この後、警察に調査を依頼します。そのため、明日は学校を休みにし、テストは明後日に延期します。皆さん、気をつけて帰宅してください」


 そう言って帰りの会は終了した。

 掃除も中止となり、予定よりも早く千明の家に向かうことになった。


「テスト勉強に付き合っていただき、ありがとうございますー」


「それ、毎回聞いているから、もう言わなくていいぞ。気持ちは伝わっているから」


「ふふふ、拓海が照れるのを見るのが好きなだけだよー。でも、本当に助かった。まるでテストの答案を事前に知っているかのような気分だったよ。教えてもらった問題がそのまま出た時はさらにビックリしたよ!」


「運がよかっただけだ。浮かれていないで、次のテスト勉強を始めるぞ」


「はーい!」


 残りは家庭科、保健体育、美術、音楽だ。

 これらは中間テストになかったため、今回が初めての試験となる。どんな問題が出るか予想はつかないが、授業中に先生が言っていたことや教科書の内容をしっかり覚えておけば、赤点は避けられるだろうと考え、千明にはそれを教えてきた。

 爆破予告による急行で一日勉強できる時間も増えた。千明なら大丈夫だろうと判断して俺は言った。


「よし、今日はここまでにしよう。悪いが、明日は急用ができたから付き合えない。でも千明なら、これまでやってきたことを繰り返せば、二日目のテストも大丈夫だ」


 千明は少し驚いた様子で尋ねた。


「あっそうなんだ?明日も勉強、教えてもらおうと思ってたんだけど・・・っていうか、急用っていつできたの?帰りの会で明日休みになることが決まったばっかりじゃん」


「家に来る前、駿斗から誘われたんだ。『明日休みになったから遊びに行こうぜ』ってな」


「なんだ、駿斗君かーなら仕方ないねぇー」


 千明は少し残念そうな表情を見せたが、すぐに明るい声で続けた。


「急にすまんな」


 と俺が謝ると、笑顔を見せて返してくれた。


「何度も謝らなくていいよ。分かりました、楽しんできなさい!」


俺は千明の家から出て、距離の離れたところで一本の電話をかけた。


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アルガナイ TT @konokawamizubitasidane

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