11/26企画参加

-ion

ショートショート企画3『思いもよらないプレゼント』

No.7682スライディング土下座

No.4911おめでとう

No.4079金管楽器

 11月が終わって、世の中はクリスマスだなんだと、誰もが浮かれる時期に差し掛かっていた。 そろそろ雪も舞い散る頃合いだろうが、今年は、まだ空から降り注ぐあの忌まわしい白色の物体を目にはしていない。ただ、吐く息は白くなってきていて、はぁ、と息を吐けば、白色の吐息を宙空へと消えていく。

 冬という季節はそこそこに嫌いだった。厚手のコートとマフラーを装備し、耳当てなんかも付けて、防寒対策を強いられる。ごてごてとした衣装を身にまとわなければいけない程度には、寒さに弱かった。

 

 こんな時期は、外出するのも億劫なのだが・・・。


一週間前、大学の講義を終えて、帰り支度をしていた矢先に、肩を叩かれた。

「ねぇねぇ、今度の日曜日に遊びに行かない?」

「・・・唐突に何だ」

私が振り向くと、同じゼミに通っている女性からのお誘いがあった。

「あっ!私だけじゃなくて、他のみんなも呼んでるよ!試験も終わる頃だしぱーっと遊ぼうよ!」

「あー、俺その日はちょっと」

「最寄りの駅に集合!時間は9時くらいね!じゃよろしく!」

「え、ちょっと待っ」

某俳優のように、待てよとまでの言葉を吐くことはできないまま、まるで季節外れの嵐の如く彼女は去っていった。


「用事があるからって断りたかった・・・」

別段、用事などはないが、折角の日曜日に、しかもこんな寒い日に、外出などしたくはなかったのに・・・。

 何故か、大学で彼女に巡り合えなかった。同じゼミに通うヤツに伝言でもと思ったのだが、直接言われたことに関して、伝言で断るのも気が引けたし、一週間の期間はあると、高を括っていたことが敗因だったのだろう。

一週間の間に、彼女と鉢合わせすることがあれば、やんわりと断ろうとしていたのだが、どうにもタイミングが合わなかった。そして、断れないまま、当日がやってきてしまい、現在に至る。


「はぁ・・・」

駅の中央にある年季の入った時計に目をやると、現在時刻は、8時55分程。日本人ならではの5分前行動に準じていることに誇りを持っておくか、などと意味不明な思考で現実逃避をする。現実といえば、他にも、この駅には、前衛的な現代アートがあって、そのタイトルは【究極の祈り】らしい。スライディング土下座しているのっぺらぼうにしか見えない。なぜ、公共の場において、こういった謎の芸術が点在しているのだろうか?


無駄に、色々と考えていながらも、寒さに震えて待つこと暫く。暫く。暫く。

・・・・

・・・

・・


「全然来ねぇ・・・」

一方的な約束であったものの、断ることができなかったから、待ち合わせ時間を遵守して、待っているわけなのだが、既に30分は経過していた。ゼミで一緒とはいえ、彼女とは連絡先を交換をしていなかったのもあり、連絡ができない。仕方なく、同じゼミの知っているヤツへと連絡をしてみたのだが・・・。


『は?待ち合わせ?爆ぜろ』


と、何故か、爆発呪文を唱えられた。意味が分からない。そうやって、知っているヤツに連絡をしては、何が何だか、呪詛のまがいな言葉が返ってきたり、爆弾マークのスタンプが送られてきた。なんか流行しているのか?


そうして、寒さに震えつつも待っていること1時間。もう、帰ろうかなぁと思っていたところを、残念ながら、肩をぽんっと叩かれて。


「おはよう!待った!」

「・・・おはよう。1時間くらい待ったが?」

「えっ嘘!ごめん!そんなに待たせちゃったの!?って、そんなに早くきてくれたんだぁ」

「・・・なんで嬉しそうなのか意味が分からんのだが」

9時くらいと、待ち合わせの時間帯を述べておいて、何を浮かれているのだろうか。

「べ、別に嬉しそうじゃないし~って、めっちゃ冷たいじゃん!どっかお店入ってあったまろ!」

「いやいや、他の奴らまだ来てな・・・」

「ほらほら早く早くっ!」

相変わらずに、人の話を聞かない彼女に引っ張られるまま、喫茶店へと連行された。他のゼミの奴らはいったいどうなっているのかどうか、問いただす前に、「ここは私がおごるよ」の一言で、有耶無耶になってしまった。

コーヒーあったかおいしい。


「じゃあ、そろそろ行こうか」

「いや、どこにだよ」

「あ、そ、びに!」

そうして、何故か彼女が主導の下、街中を回る羽目になった。


寒い、寒いと思っていたものの、色々と連れ回されて、動き回っていると、そこまで気にならなくなっていた。むしろ、店の中は暖房が聞いているせいか、暑いまである。決して、彼女と二人きりになってしまったことが原因であるという事ではないと思いたい。


駅にある時計は、夕刻をしめしており、既に街灯がちらほらと点灯しているくらいには、薄暗い。そろそろ、唐突な日曜日のお出かけは、終了の時間であろう。

「今日は付き合ってくれてありがとうね~!」

「ああ、結局、他の奴らは・・・」

「そ、れ、で、はいこれプレゼント!」

改めて、他のゼミの連中についての問いただそうと口を開こうとして、さえぎられた。四角い箱に包まれた、何か重そうな物体。


「・・・これは?」

「君さぁ、誕生日でしょ!これは、私からのプレゼント!」


そういって、満面の笑み浮かべる彼女の顔は、とても輝いており、誕生日は先月ですと、言い出せない雰囲気だ。

「おめでとう~君が楽器やってるなんて知らなかったよ~まさかトランペット吹けるなんてさー」

「あー、なんか、うん、まあ、ありがとう」

誰と勘違いしているのか、どこの情報かは知らないが、トランペットが金管楽器とかいうものという知識くらいしかないのだが・・・。

ずしり、と両手にかかる重量のプレゼントの箱に、人生において使用したこともない楽器を持っているこの時間は一体・・・。

えへへーと満足気に笑う彼女は悪気はないのだろうし、可愛いらしいと思うからこそ、何も言えない。ふいに、現代アートを横目に見れば、変わりに土下座して謝っているように見えていたので、兎にも角にも、これで良しとしようか。


とりあえずもらったものは、返さないといけないからなぁと、息を付いた。白い息が空へと舞う。彼女に、誕生日を聞くところから始めることとするか。


















 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

11/26企画参加 -ion @arukariwater

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画