最終話 やられ役の牢番、ハンバーグを作る





「――とまあ、そんな感じの事がありました」


「お友だちを救うことができたのね。よかったわ」



 メカバウルノウトで魔王城へ帰還した俺は、魔王ルシフェールの母、マリセラに事のあらましを報告していた。


 マリセラは終始俺の話を微笑みながら聞き、話が終わるや否や優しく頭を撫でてきた。


 ちょっと悪くない気分だ。



「ところでマリセラ様」


「何かしら?」


「魔王様をどうにかしてくれませんかね?」


「うふふ、私には無理ね……」



 何を思ってか、魔王ルシフェールは俺の頭にがぶがぶと齧りついている。


 明らかに機嫌が悪いのだ。



「……あの、魔王様」


「なんじゃ?」


「そろそろ機嫌直してくださいよ。というかなんでそこまで怒ってるんです?」


「余も!! 行きたかったのじゃ!!」


「え?」


「余もあのでっかい奴に乗って戦ってみたかったのじゃ!!」



 でっかい奴というのはメカバウルノウトのことだろう。


 あれに乗ってエレットやラーシアと帰ってきた時、ルシフェールはそれはもう目をキラキラ輝かせていた。


 俺はルシフェールを引き剥がそうと悪戦苦闘しながら弁明する。



「いや、別にあれに乗って戦ったわけじゃないですって」


「何でもいいのじゃ!! お主が余を仲間外れにしたことがムカつくのじゃ!!」



 仲間外れて。



「うふふ。ルシフェールったら、本当はルガスくんがいなくて美味しいご飯を食べられなかったから拗ねてるのよ」


「!? なっ、ち、違うのじゃ!! そんなことちっとも思っておらんのじゃ!!」


「あー、えっと。じゃあ今日はハンバーグでも作りますか」


「!? ハンバーグ!? 食べるのじゃー!!」



 俺は厨房へと移動し、ささっとハンバーグをタネを捏ねる。


 さすがに肉挽き機はないので、包丁を使って肉を叩きまくる。

 挽き肉を作るのは面倒だが、それ以外は大して難しくない。



「ピーマンも刻んで入れておくか」



 ルシフェールはピーマンのような苦味のある野菜が苦手だ。


 細かく刻んで仕込んでおこう。


 あとは卵とパン粉、たまねぎをボウルにぶち込み、ひたすら捏ねまくる。


 粘り気が出てきたら空気を抜くために右手から左手へ、左手から右手へ何度も叩きつけてキャッチボールする。


 焼きむらができないよう、真ん中を窪ませておくのも忘れない。


 フライパンに薄く油を引き、中火で焼き色がつくまで三分くらい焼く。

 三分経ったらひっくり返し、弱火で中に火が通るまで蒸し焼きにする。


 ……よし。



「くっくっくっ、完璧だな」


「おお、早く寄越すのじゃ!!」


「ちゃんと手は洗いました?」


「洗ったのじゃ!!」



 そう言って手のひらを見せつけてくるルシフェール。

 俺はハンバーグをお皿に盛り、ルシフェールに渡した。


 お皿を受け取るや否や、厨房から飛び出すルシフェール。


 きっとマリセラと一緒に食べるのだろう。



「さて、と」



 俺はお皿にハンバーグを盛って、本来の職場である地下牢へ向かった。


 牢屋ではエレットが何やら怪しげな魔導具を作っている真っ最中で、ラーシアがその横で涙目になっていた。



「た、助けてくださいまし、ご主人様!! このサイコマッドを止められるのはご主人様だけですわ!!」


「心外だね、らっしーちゃん」


「ラーシアですわ!!」


「……どういう状況?」



 仮にも魔王軍の幹部であるラーシアが泣かされるとは。

 エレットはラーシアに一体何をしようとしていたのだろうか。



「私は君の強くなりたいという願いに応え、君の身体を改造しようとしているだけじゃないか」


「そういう意味で言ったのではありませんわ!! ワタクシは武器がほしいと、そう言ったのですわ!!」


「そう心配しなくて大丈夫だよ。ただ『イー!!』という言葉でしか話せなくなるだけさ」


「……エレットさん。ロケットパンチとか撃てるようになるなら、俺の身体とか改造してもらっていいですよ。何なら全身サイボーグとか」


「ご主人様!?」


「私は君との子供がほしいから全身改造をするつもりはないよ」



 おおぅ、またさらっと言う。


 あまりにもエレットがさらっと言うので少し動揺していると、彼女は不意に牢屋の鍵を開けて出てきた。


 また勝手に合鍵作ってやがったな。あとでしっかり没収して――



「君は私との子供がほしくはないかね? るがす君」


「……え?」



 今、俺の名前を間違わずに……?



「おや、今日はハンバーグか。美味しそうだね。早速いただこう」


「え、あ、どぞ。……というか今、俺の名前……」


「君の名前がどうかしたのかね、るがすっす君?」



 いや、え? 俺の聞き間違いか?


 俺がエレットの言動に少しドキドキしていた、その時だった。


 地上の方が騒がしくなる。


 またしても侵入者がルシフェールの命を狙ってやってきたのだろうか。

 しばらくすると、魔王城の兵士が侵入者を捕らえて地下牢へと連れてきた。


 その女性は見覚えのある人物で――



「ひ、久しいな、ルガス殿」


「何やってんすか、カティアナ嬢」



 どうやら騒ぎを起こしたのはカティアナだったらしい。



「ち、違うのだ!! 少し言い訳をさせてくれ!!」


「別にいいですけど」


「今回は和平の申し出のために来たのであって、戦いに来たわけではなかったのだ!! ただ、それを話す間もなく捕まってしまって……」


「あー、取り敢えずハンバーグ食べます?」


「……いただこう」



 その後も魔王軍と人類はドンパチやってるし、定期的にヒロインがやってくる。


 まあ、俺のやることは変わらない。


 やられ役の牢番らしく、この地下牢で捕まったヒロインたちに美味いものをこれからも食わせてやろうそうしよう。







 完。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「急に終わらせてすまんな」


ル「じゃーなー」


作者「新作『やられ役のヒーラーは主人公が倒してきた悪役たちを復活させました。〜原作知識と裏技チートを駆使して真っ向から破滅エンドを叩き潰します~』を投稿します。是非読んでください(あわよくば★をください)」




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やられ役の牢番が囚われヒロインに優しくしたらシナリオがぶっ壊れてしまったんだが。 ナガワ ヒイロ @igana0510

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