高校三年生の僕

 高校三年生になり、学校生活も後一年で終わりを迎える。


 何事もなく過ごしてクラスでいじめられることもなく平和な毎日を送っていたはずなのに、気持ちは常にビクビクしていて、教室内では居心地が悪く、友達が居るはずなのにこの教室内に自分の居場所はないんだという疎外感に襲われていた。

 この時から、誰かの一番になりたいという気持ちと必要とされたいという気持ちが溢れだし、人に依存するようになっていた。

 少しでも声のトーンが違ったり、いつもと態度が違うだけで全て自分が原因の様な気がして、嫌われないように必死に取り繕って相手の機嫌取りに徹して自分の気持ちは隠す様になった。

 自分の意見は反映されない。自分の意見を言うことで周りが機嫌を害すのなら、僕の意見なんて必要ない。と考えるようになった。

 僕の言葉足らずな性格は更に悪化していった。

 たまに友達と喧嘩した際に僕も勢いに任せて自分の思いや気持ちを吐いてしまうことがあったけど、どうも僕の意見は一回も通ったことは無く、必ず僕が相手の意見に納得した振りをして折れることしかなかった。

 段々自分の意見に自信が無くなり、僕の意見は全て間違っているんだと思うようになっていた。

 それは、進路を決める時でさえ起きた。

 成績は学年で一桁に入れる程には優秀だった為、返済不要の奨学金を借りて大学に行く事は出来た。農業の教員を目指していた僕は担任の先生との二者面談では奨学金を借りて大学に行くという方向で話が進んでいた。

 しかし最後の三者面談の日、今回も親は来ないから二者面談だろうと思い教室の扉を開けると、そこには母親の後ろ姿があった。

 僕は息をのんで先生の方を見たが、先生は満面の笑顔で「この間昼に家に電話したらお母さまが出てな、最後なんで是非って言ったら来てくれたんだぞー」と言い放った。

 僕は先生の善意を無下にすることが出来ず、笑顔で「ありがとうございます」と返した。

 僕は上手く笑えていただろうか?

 このやり取りの間も一切僕の方を振り向かない母親に恐怖心を抱きながら僕は母親の隣の椅子に座る。

 先生が二者面談で進んでいた話を母親に説明している最中、母親は話を遮って「この子は就職します」と言った。

 僕も先生も弾かれた様に母親を見た。が、母親は確固たる表情でもう一度「この子は就職します。大学なんて行きません」と言った。

 先生は、奨学金の話や成績、推薦の話もしたが母親は頑なに「行きません」と言っていた。

 先生は最後に僕の方を見て「それでいいのか?」と聞いてきたが、僕が口を開くよりも先に母親が「それでいいんです。この子の人生なんで、先生が決めないでください」と言った。

 僕は母親の方を一度見てから先生の方に向き直り違和感が無いように微笑みながら「僕も就職の方がいいと思います」と答えた。


 後日、先生に「お前の人生なんだぞ。あれでよかったのか?」と聞かれたが、元はと言えば母親をあの場に呼んだ先生のせいであってと八つ当たりの言い訳ばかり浮かんでしまい、今さら何を考えるのも面倒臭くなって「大丈夫です」とだけ答えた。


 結局就職先を考えるのも嫌になって担任の先生に決めてもらった。


 面接も試験も無事に終わり内定をいただいた。


 そして僕は、最後まで自分の意見を通せなかったまま卒業式を迎えた。

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死にたいなんて考える暇もないくらい忙しい日常 紅あずま @KurenaiAzuma

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