おてんば × おとぼけ = 死角なし

 時は大正。
 たった十五年という、短いながら唯一無二の空気を醸した期間。

 明治に流れ込んだ西洋文化が根付き始める一方、江戸以前より続く日本文化も根強く残る。
 新旧両者が混ざりあって、花開いて――――まさしくロマンがあり、モダン。

 けれど……遺物と切り捨てられた物もあったようで。
 たとえば拝み屋、すなわち陰陽師だとか。

 ヒロインの亜寿沙も、ハイカラな考え方をする一人。
 "あやかし"などデタラメ。それらをダシに商売する陰陽師は、ささいな手品を大袈裟に喧伝するペテン師、と。

 でも、本当は……。
 帝都の長屋に住む優男との出会いで、すべてが一度に動き出す。

 頭と口は回るものの、霊力皆無の亜寿沙。
 無類の術は扱えるものの、生活力皆無の維吹。
 凸凹コンビが繰り広げる長編退魔ファンタジー。

 本作で特筆すべきは説得力。
 当時の風習はもちろん、実際の気象データまでをも織り込んだストーリーは、歴史と創作の境界がわからないほど。

 かといって理屈っぽくならず、ちゃんと物語に活きている。
 入魂の時代感に浸りたい人、次々と起こる事件の謎解きを楽しみたい人、ピュアなロマンスを味わいたい人、誰もが満足できるはず。

 オススメいたします。

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