スパナ

ましまろのきもち

スパナ

「お゛お゛お゛お゛い!!はよ飲みもん買ってこいや!!!」


クラスに不良の怒鳴り声が鳴り響く。


このような生活には慣れっこだった。


入学式の日からこの生活は始まった。


陰気な僕はなんの手違いか、町唯一の不良高校へと入学してしまった。


案の定、パシられ、殴られ、この間は顎が外れた。


一度6人から袋叩きにされ死にかけたことがあったが、その時は先生に見つかって不良たちが逃げたため最悪の事態を回避することができた。


勿論、親からもものすごく心配される。


「あなたどうしたのよ、そのあざだらけの顔は!?!?!?誰かに殴られたの?いじめられてるの??」


毎度僕が殴られ跡ができた時にはこう訊かれる。


「転んだだけだよ。」


と、僕はいかにバレそうな嘘をついてその場を離れている。


ただ素直にこの事実を伝えるにも抵抗があった。


もし仮に話したとして、親が学校に連絡したとする。


そうなったら不良たちが停学や退学になるだろう。


僕の高校の不良たちは何をするかわからない。


もしかしたら、停学や退学にした僕や親を恨んで殴り込みに来るかも知れない。


そう考えるとまだ僕だけが殴られている方がマシだと考えていた。


ただ、僕も1人の人間だ。


こんな生活に憤りを強く覚えていた。


しかし、体格的にも俗にいうガリガリな僕は喧嘩で勝とうにも勝てないことは明白だった。


こうしてまた次の日、次の日を迎えていくのであった。


とある寒い日。


「おい!!!」


またあの不良に呼ばれた。


「……な…なんですか………?」


「今から購買行ってパン買ってこいや!」


「え…あ……そ…っその………」


「おお?なんか文句でもあるんかごるるるるるるあああ!!」


「……お金…な…ないです…。」


「んなこと関係ねえよ!パクってこいや!!さっさと行け!!!」


僕の貯金は底をついていた。


我が家では、食費代や通学代を含めた一ヶ月の初めにお小遣いを貰うという仕組みだった。


そのためお小遣いがなくなるとまともに昼食を取ることもできなくなるのだ。


しかも今は月が始まってまだ半分しかたっていない。


パシられるどころか、自分の生活すら怪しくなった。


ただ、バックレるとボコボコにされてしまう。


親に迷惑をかけたくなかった僕は、同じく隣のクラスのパシりにされている人にお金を借りた。


相手も相当な顔で僕を見てきたが、仕方のないことだった。


やっとの思いで買ったパンをあの不良に渡した。


「おい、お前遅えんだよ!もっと早く買って来いや!!お前さ、この状況から抜け出せるとか思ってる?んんんんなわけねえからな?お前がこの高校にいる限り、お前は俺の犬同然だ!!わかったかごるるるるあああ!!!ワンワン吠えてみろ!!!」


ずっとお前の犬、、、?


僕の中の何かが切れた。


放課後、学校の準備室の中にあったスパナ(ボルトのナットを回して閉めるための重い金属製の器具の名称)を手に取り、ボロボロになったバックの中に入れた。


不良たちは放課後、バッティングセンターに行ったり、ボーリングに行ったりと遊び呆けているのを知っていた僕は、あの犬呼ばわりした不良の後をつけることにした。


そいつは仲間を3人ほど連れて路地裏の中へと入っていき、タバコを笑いながら吸い始めた。


それから案の定、4人はボーリング場に入っていった。


時刻は22:00。


4人はボーリング場から出てきた。


その後、連れの3人は駅方面へと歩いていき、あの不良は家が近くにあるのだろうか、駅とは真逆の原っぱのほうへと歩いていった。


遂にチャンスが訪れた。


歩いていくに連れ、やがて街灯の少ない静かな暗い場所へと辿り着いた。


僕はバックの中からスパナを取り出した。


そしてそいつの後頭部を目掛けて大きく振りかぶった。


「ボコッッッッッッッッッ……」 


そいつは勢いよく地面に倒れた。


「て、、てめえええ、、、!!!!!!」


そいつの頭から、とてつもない程の量の血が流れ出ていた。


僕はまた大きく振りかぶり、今度はそいつの足首を目掛けて


「バキッッッッッ!!!」


おそらく骨が折れたのだろう。


「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


不良は絶叫し、頭と足首を痛そうに押さえている。


「ゆ、、許してくれ、、、た、たたた頼む、!金ならいくらでも渡すから、、!!

ま、まだ死にたくねえよ、、!!!!!」


不良は泣きながら命乞いをしてきた。


僕の心にそれは響かなかった。


慈悲の心など一寸もなかった。


「死ぬかどうかはお前が決めるんじゃない。僕が決める。」


僕はまたスパナを振りかぶった。


「死ね。」


「た、、頼むから、、、、!!許してくれ、!!!助け、、、、、、、、、、、」

                        「バコッッッッッ」


僕は何度も何度もそいつを殴った。


息をしなくなっても殴り続けた。


体の至る所から血がドロドロと溢れ出てきた。


今まで溜めてきた全ての恨みが一瞬にして晴れた。


不良の顔は血で真っ赤になり、最初に殴った後頭部からは脳みそが飛び出ていた。


関節はありえない方向に曲がり、人間とは思えない容姿と化していた。


僕はその死体を眺め、爆笑した。




時刻は23:00を過ぎた頃。


僕はこいつの処理に困った。


殺したのはいいが、この一件がバレれば速攻少年院行きだ。


なんとしてでもこの死体をバレずに処理する必要があった。


しかし手持ちにあるお金は物が買えるほどの額はなかった。


一旦どっかに隠すか、、、、、


辺りを見回した時、マンホールがあることを発見した。


マンホールの蓋を開け、死体をそこに落とした。


家に帰ると母親が鬼のような形相で


「あんたどこに行ってたのよ!!!!!!」


と訊かれた。


「ごめん、よくわからない他校の不良に絡まれて、、、」


と僕は答えた。



次の日、学校では殺した不良がいないということが話題となった。


欠席の連絡も入っていないということで先生たちも多少焦りの色を見せていた。


その日の夜、事前に調理室から持ってきた包丁をバックに入れ、例のマンホールへと向かった。


そしてマンホールから死体を取り出し、包丁でバラバラにした。


脂で滑るせいか、なかなかうまく切れない。


約3時間ほどかけて死体を5cm程の塊になるまでバラバラにすることに成功した。


そしてそれを大きなゴミ袋に入れ、原っぱ近くにあった川まで持っていった。


そしてゴミ袋に入れた肉の塊を取り出し、川の水で丁寧に洗った。


血が残るとバレやすくなると考えたからである。


そして1時間程かけて綺麗にしたのち、別の新しいゴミ袋に入れ直した。


この町は路地裏が多いことが有名で、しょっちゅう雑誌などに取り上げられていた。


僕はその路地裏をうまく使い、とある有名中華料理チェーン店の食材廃棄物置き場にその死体入りゴミ袋を置いた。


じっと見ても他のゴミと見分けがつかなかった。


それから3日ほど経ったある日、あるニュースを耳にした。


「男子高校生行方不明。」


あの不良の親が捜索届を提出したのだ。


クラスでも大きな話題となり、殺されたのか?と考える勘のいい野郎もいたが僕が怪しまれることは一度もなかった。


やがて時間が経つに連れ、捜査はより拡大し、僕の高校周辺を中心に警察を見ることが多くなった。


ただ、いつまで経ってもニュースでは「殺害」という文字が表示されなかった。


このまま未解決で終わると誰もが思っていた。


しかし、事態は急変する。


それは僕があの不良を殺してから1週間が経った頃だった。


クラスはとある話題でごった返していた。


「お前知ってるか?あの商店街にあったゴミ袋の中からバラバラの死体が出てきたらしいぜ、、」



一気に血の気が引いた。


まさかあの袋が見つかるとは思ってもいなかったのだ。


それと同時に川に周辺から血で染まった石が数多く見つかったそう。


僕は完全に見落としていた。


血のついた石は川に投げ捨てておけばよかったものの、そのままにした。


警察に「ここで殺しましたよ」と言っているようなもんだ。


警察はバラバラの死体に微かに残っていた血と石についていた血のDNA検査を行っているそう。


このままだとバレるのも時間の問題だな、、、


どうやって隠滅しよう、、、


しかし、どう考えても隠滅する方法が浮かばない。


かれこれ考えているうちに1週間が経ち、DNA鑑定の結果が出た。


やはりDNAは一致、また死体は解体してから2週間ほどしか経っていないということも判明したそう。


そして、何より、死体の中から別の指紋が出てきたそう。


僕は完全に追い込まれた。


僕は解体する時に手袋すらつけてはいなかった。


このまま少年院行きなのか、、?


けど家族に迷惑はかけたくない、、


でもバレたくない、、


死にたくない、、、!!!


助けてくれる、!!!!!


一瞬だけ目の前にあの殺した不良の姿が見えた気がした。


僕は学校の屋上のドアを開けた。

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スパナ ましまろのきもち @mashimaronokimochi

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