第2話 アニメ ルックバック
〇総評
原作は2021年、アニメ映画は2024年です。原作既読でアニメを見ました。原作は感動しましたが、それは中心に「京アニ事件」があるからでした。アニメ作品になってその意味性が薄くなったように感じました。
映像は、作画・美術とも素晴らしい出来で、その点では手放しでほめられます。ただ、演出過剰な気もしなくはないです。
〇あらすじ(ネタバレ注意)
学級新聞で漫画を連載し、皆からもてはやされているヒロイン藤野。ある日、自分よりも格段に上手い京本の漫画が掲載される。その才能に打ちのめされて、藤野は漫画への道をあきらめかける。だが、京本が藤野の漫画にあこがれていることを知り、2人で漫画を描くことになる。
京本は漫画ではなく美術の道に進むと言い出した。別々の道を歩む2人。美大に進んだ京本はある日、事件に巻き込まれて死んでしまう。そのニュースに藤野は自分が京本が死んだ原因になったと悩む。
〇考察
藤野と京本。あわせて、藤本です。そして、京本という名前。「きょうもと」の「も」を抜けば「きょうと」です。ですので、京アニは絵が美しいので有名ですし、犯人が盗作という思い込みをしていました。つまり「京アニ事件」そのものです
このことから「京アニ事件」は単にショッキングな事件として取り上げただけでなく、京アニ事件そのものを描きたかったのだととるべきでしょう。この点を忘れてこの作品の評価はあり得ないと思います。単なる漫画家論、創作者論ではないと私はとっています。
漫画家論としては、絵が抜群に上手い京本に藤野は嫉妬しますが、京本は藤野の漫画の面白さにあこがれます。どちらの才能が上ということではなく、漫画とは絵と中身の両方から成り立っているということでもあります。
そして、事件後に藤野が漫画を描き続けるシーンをわざわざ見せたのは、漫画家は何があっても書き続けるしかない、ということだと思います。ただ、このシーンの意味を咀嚼すると、やっぱり「京アニ事件」のショックが描かれているととらざるを得ません。
「京アニ事件」被害者の無念とか優れた才能が失われたやりきれない気持ちを消化するシーンだと思います。つまり、これは鎮魂、追悼という意味もあるでしょうけど、漫画家として同じ創作者としての何か得体のしれない気持ち・感情・衝動をなんとかしたかったととりました。過去には戻れないということ。この「京アニ事件」類似の美大の事件をどう解釈するかだと思います。
それと本作発表の時期が「ダンダダン」の作者、龍幸伸氏が藤本氏のアシスタントをやめた時期とも重なります。絵の上手い京本は「京アニ被害者」であると同時に「龍幸伸氏」ではないかとも思います。背景を描くというのも同じですから、これも待ちあっていないと思います。これも藤本氏のチェンソーマンの絵柄や内容が1部から2部にかけてかなりクオリティが落ちたことを考えると、ショックだったんだと思います。シャーマンキングの作中の表紙も「チェンソーマン」に似ていますし。
あるいは「チェンソーマン」がもてはやされて天才と藤本氏がもてはやされた時期でもあります。その時の死に物狂いの自分を表現しているのかもしれません。「描いても何も役に立たない」というのは、自分の迷いではないかと思います。
つまり「京アニ事件」「アシスタント独立」「天才ともてはやされる」という点では、藤本氏の私小説だと受け取ることができます。
「ルックバック」はこれは背中を見るということでしょう。ずっと藤本を背中から写していました。これは漫画家というのは匿名の存在であると同時に「机に向かってしか生きられない」という意味ではないかと思っています。「京アニ事件」「アシスタントの独立」という精神的に辛い時期でも、机に向かって手を動かすしかないという意味です。
〇アニメについて
2021年の原作漫画を読んだとき、2019年の京アニ事件に対して、創作者としての気持ちを消化するという衝動に私は感動しました。ですが、アニメはどうでしょうね。2024年です。事件が風化しつつある時期です。「京アニ事件」に対するやりきれない気持ちが視聴者から薄れてきている今公開です。すると作品の意味が欠落してしまうのでは?と思います。
また、冒頭で机に向かう藤野の顔を鏡で見せる演出がありました。「ルックバック」つまり背中から見る、という意味からすると余計な演出だったのかな、と思います。
ですので、時間の経過のせいもあって原作コミックを読んだ時ほど衝撃はないし、140ページ程度の原作を60分にした本作は引き延ばし感が無くはないです。むろん、元がいいので素晴らしい話・内容だとは思います。ただ「京アニの事件」が中心にあるという感覚がないと本当の意味で本作は評価できない気がします。
30歳を過ぎてもアニメ・小説・コミックを楽しむための考察 @kuro_shiro_kuro
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