第11話 概念魔法『奪う』
この世界には概念魔法という体系がある。
誰もが使えるわけではないが、使えれば反則級の力を発揮する。
主人公である龍胆大和はもちろん、エリーゼや他のいくつかのキャラクターはこの魔法を物語の中で習得していく。
鬼咲桜雅というキャラクターもまた、この概念魔法を習得する。
彼が獲得した概念は『奪う』である。
俺はそれに賭けることにした。
■□■□
迫りくる破壊の球。
「うおおおおおおおお!!」
俺はその球を殴りつけた。
桜雅さんの概念は『奪う』だ。
設定資料集じゃ、概念魔法は「認識」し「理解」すれば「発現」するとされていた。
俺はこの力を認識しているし、知っている。
「だったら! 今、この時に発現してもおかしくねぇ!!」
奪うのは属性!
一つだけ。どれか一つだけ奪えれば、霧散するはず!!
エリーゼの【全てを一つに】は、相乗と相反する九つの属性を異次元じみた演算力でコントロールして、収束させて放つ必殺魔法。
奇跡的なバランスで成り立つこの破壊の球は、崩れる手前のジェンガと同じだ。
「ぬおおおおおおおおお。獲ったぁ!!」
ガォンと豪快な音が鳴って、俺は雷属性を奪った。
「っしゃあああ。成功ぉ!」
魔法球はボールのように弾けて飛んでいく。
「え!? 舐めるなぁ!!」
エリーゼが、崩れそうになった魔法球をコントロールして、再びぶつけてきた。
げぇ! まだ来るの!?
一個奪っても、まーだ威力が落ちてねぇ。
「ぬああああ。もう一個ぉ!」
今度は風の属性を奪う。
さっきの雷属性の魔力を強化に回したから、幾分か楽だな。
魔力球はまたまた弾けて飛んでいく。
「へぇ。それじゃあ、これならどうかしら!」
魔法球に雷と風属性が足されて元に戻る。
「いや、それ反則ぅ!」
「魔法を分解するアンタの方が反則よ! さぁ根競べと行きましょうか!!」
エリーゼは楽しそうに笑って、魔法球を投げ飛ばしてきた。
「だああああ! やってやろうじゃねぇか。地獄の卓球だ! この野郎ぉ!!」
そこから大変だった。
俺は飛んでくる物騒な球を必死に奪っては返し、奪っては返し。
エリーゼもオリジナル笑顔を浮かべ、演算による脳への負荷で鼻血を出しながら、球を維持し続けた。
「うはははははは。楽しくなってきたぁ!」
「そうね! すっごい楽しい!!」
俺とエリーゼはテンションが上がって、笑い合う。
永遠に続くかと思われたこの勝負。
だが、足された魔力を奪って力に変える俺と違い、彼女は奪われる側。
エリーゼの魔力がとうとう底を尽き、魔力球が霧散した。
「しまった!」
エリーゼがヘロヘロでふらつく。
勝機!
「よっしゃあ! これで終わりだぁ!!」
俺は全力全開で魔力を解放。
俺の両サイドに風神と雷神の格好をした大鬼の【魂影】が二体出現。
そして俺は空に高々と跳躍して一回転。
見よ、これぞ桜雅さんの必殺魔法。
「【
跳び蹴りの体勢のまま一直線に彼女へ向かって弾丸のように飛んでいく。
そのまま、彼女に魔力を込めた蹴りを見舞って蹴り飛ばした。
俺は反動を利用してバク転し、華麗に着地。
「きゃああああああああああああああ」
彼女は溢れだした魔力によって爆散した。
はっはー!
これぞファンからシナリオライターの趣味と呼ばれた、ラ●ダーキックならぬ桜雅さんキック!
綺麗に極まって、
『BATTLE・OVER BATTLE・OVER Winner・桜雅!』
審判精霊が俺の勝利を宣言する。
周囲から拍手が起きている。
「いやぁ。どうも、どうも」
俺は手を振りながら、ハタと気づいた。
「あ、勝ってしまった」
時すでにお寿司。じゃなくて遅し。
テンションが上がって、勢いで勝ってしまったぁ!!
自分からシナリオ壊してどーすんだよオイ!
決闘フィールドが収束して、元の空間に戻ってくる。
「凄いわ! 貴方!」
エリーゼがキラキラした目で、飛びついてきた。
アバターが爆散したのに平気とはタフだ。
「お、おう。そうだな。うん。ナイスファイト」
俺はとりあえず彼女の健闘を称える。
「ええ、ナイスファイト! 私の本気を受け止め続けるなんて! 情熱的な人ね!」
心なしか顔が紅い。
あ、マズイ。
これは非常にマズイですよ。皆さん。
「いや、その。必死だったからな。あと、ちょっと離れてくれると嬉しいんだが」
俺はやんわり彼女を遠ざけようとした。
「もう! 照れちゃって可愛い! これからもっと凄いこともするのに」
すりすりと俺の腕を取って離れない。
ていうか、凄いことってなんですか!?
周囲の声が聞こえる。
「おお、スゲーな。お姫様の旦那はあの男になるのか」
「うわーもうラブラブかよ。チクショウ」
「きゃー、情熱的ねぇ」
「桜雅さん……そんな……」
囃し立てる声に混じって、クリキチの声が聞こえた気がした。
「これから幸せな夫婦生活を送りましょうね。ダーリン♥」
どうしよう。
本来、主人公がこの立場になるはずなのに『奪って』しまった。
エライことになったぁ!!
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【学スト豆知識】
桜雅さんの【魂影】は風神と雷神。
原作ゲームで、二体の鬼を従える桜雅さんの一枚絵は、ファンからも人気がある。
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大好きなエロゲーの世界に転生したはいいけど、必ず死ぬ悪役だった。せめて攻略ヒロイン全員の女体を拝むまで俺は生き残りたい! 沖彦也 @oki_hikoya
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