第10話 桜雅 VS エリーゼ

 俺は決闘開始の合図と共に、エリーゼ突貫した。


 ゲーム中の描写や設定資料集から、鬼咲桜雅のバトルスタイルは超接近戦であることは知っている。

 そしてこの身体に染みついた動作が、俺を突き動かす。


「ガアアアアアアッ!!」


 獣じみた雄たけびと共に、風属性の魔力を込めた拳を繰り出した。


 エリーゼはそれをわずかな体捌きでかわす。

 予想通り。


 俺は軸足に力を込めて回転。

 裏拳を見舞う。


「チッ!」


 舌打ちして彼女が展開した魔法障壁が、その攻撃を防ぐ。

 だが、俺は構わず障壁を殴った。


「ウラァアア!」


 バキバキに砕いて、さらに踏み込む。


「ガアァッツ!」


 地面を踏み砕きながら、俺は腰だめにした左拳で彼女の腹部を殴った。


「くっ!」


 彼女はインパクトの瞬間、風を弾けさせて、後ろに飛んでダメージを殺す。

 距離が空いた。

 エリーゼはお腹を摩る。


「良いわね。アンタ。そういう獣じみたオス。嫌いじゃないわ!」


 瞳孔をカッ開いて、彼女は火炎剣で突撃してきた。

 そこから激しい攻防。


 切、斬、打、撃、蹴、撃、閃、閃、熱、斬、熱。

 目まぐるしく攻防が入れ替わる。


 俺は殴って、殴って、蹴って、蹴りまくった。

 対するエリーゼは切り、斬り、属性が異なる光線を撃ちまくった。


 彼女の体を破壊するように拳を打ち込み、俺の体を切り刻むように刃が奔ってくる。

 互いに傷を負い、痛みが全身を貫く。


 体はアバターに入れ替わってるが、痛みは伝わる。

 それを気合と魔法でねじ伏せて戦う。


「アハハハハハ! 楽しい! 子宮にビンビンくる!! 良いわ。アンタ、気に入った!!」


「そりゃ嬉しいねぇ!! 俺も楽しいよ! お姫様ぁ!!!」


 ぶっちゃけ、楽しい。

 そりゃあこれだけ動けて、バカバカ戦えたら楽しいわ。

 でも、めっっっっっっっちゃ、俺が死にそう!


 エリーゼのテンションが上がってきて、一撃一撃の殺意が増していく。

 それに伴って、加速度的に速さが上がり、俺が押され始めた。


「もうへばったの? 早漏は嫌われるわよ!」


「お姫様がそんな言葉使ってんじゃねええええ!!」


 俺は苦し紛れに大振りに蹴りを放って、距離を空けた。


「はぁはぁはぁはぁ」


 俺は息が上がる。

 アカン。やっぱヒロインの方が一枚も二枚も上手だわ。


 でもまぁ彼女が楽しそうで満足そうだ。

 悔しいが、シナリオ通り負けるな。これは。

 ここらで終いか。


 だが、エリーゼは飛び切りの笑顔で言った。


「ふふふふ。良いわ。貴方とても良い。だから特別にアタシの本気の本気、見せてあげる」


「ん? その言葉は……」


 このセリフ。大和とのバトルで出るセリフだ。

 おーっと、これはマズいのでは?

 シナリオとかそういうんじゃなくて、俺の生命がヤバいのでは?


「はああああああああああああああああ」


 気合を入れて、魔力を全力開放。

 天に立ち昇る虹色の魔力柱。

 白金の髪が逆立ち靡く。


 後ろに現れる左右非対称の翼を持つ天使が現れた。

 ビリビリと空間が震えて、彼女の体からあふれ出た魔力が、シュウシュウ鳴ってる。


 纏った魔力が空気に擦れてスパークが散っていた。

 スーパーサ●ヤ人かな? いや、スパークしてるからスーパー●イヤ人2か。


「ちょ、ちょっとまて! それはシャレになってないぞ」


 俺は引きつった顔をした。

 アバターでの戦闘は致死ダメージを受けても死なないと言われてるが、実は違う。

 魂ごと消し飛ばすほどの威力の魔法を受けると、マジで死ぬ。


 ソウルバトルモードは死に難くなるだけで、死なないわけではないのだ。

 まぁそんな理不尽な力を発揮する人間は限られているので、実際は気にする必要が無いのだが、彼女は違う。


「ストップ! ストップ! それは俺の魂が死ぬ。落ち着いて、落ち着いて!」


 俺は必死で宥めにかかる。

 俺は大和じゃないから、このモードの彼女と戦ったら普通に死ぬぞ。

 だが彼女は口を尖らせていう。


「そんな萎えること言わないでよ。私より強いってところ魅せてね?」


 笑顔で告げられ、そして始まる一方的な戦い。

 火、土、水、風、雷、重力、音、光、闇属性の魔法光線が雨のように降り注ぐ。

 無数の斬撃が飛んできて、大気が殴りかかってくる。


 彼女の真骨頂。

 常人が三属性くらいが限界のところ、彼女は全属性を同時に扱える。

 尋常ではない才能と処理能力が合わさって、一人で要塞じみた攻撃をしだす。


 燃費悪いけど、ゲーム中じゃ全体攻撃で便利だったなぁコレ。


「ほらほら、かかってきなさい!」


「いやあああああ。死ぬうううううううう」


 俺はその天変地異がごとき攻撃を、必死に逃げながら避ける。

 一撃でも当たれば、そこから怒涛の攻撃が来て、魂が消し飛ぶ。


 けれど俺が使える属性は風と雷。

 つまり速さは一家言持ちだ。


 この体の優れた反応のおかげで何とか生きている。

 たぶんこれが無かったら、十回以上死んでるぞ!


「姫様ぁ! やり過ぎですうううう!!」


 彼女の付き人のライラが慌てて叫ぶ。


「桜雅さん、棄権してくださいっす!!」


 クリキチが涙目で叫ぶ。

 棄権したくても、デバイス操作する暇がねぇ!!


 ビキキッと不穏な音が聞こえた。

 あ、決闘フィールドが壊れかけてる。


「まて! ちょいタンマ。エリーゼ、結界が壊れかけてるから! 周囲に被害が出るから!」


 俺は横から飛んできた火炎光線を拳で弾き、飛んでくる瓦礫弾を転がって避け、縦横無尽に飛んでくる斬撃を、思いっきりダイブして回避する。


「あら、ほんとね。じゃあ、これで最後よ。生きてたら、キスくらいはしてあげるわ」


 エリーゼは両手を天に突き上げた。

 そして周囲に渦巻く魔力が収束して、一つの輝く球となる。


「あ、それは……!」


 エリーゼの必殺魔法。

 全属性を束ねて放つ【全ては一つのためオールフォーワン】だ。


 当たれば塵一つ残さず消えるな。

 桜雅さんのお約束。

 必ず死ぬ場面がもうやって来た。


 ヒロインがテンション上がって、桜雅さんがうっかり殺される。

 実に彼らしい最期だ。


「【全ては一つのためオールフォーワン】!!」


 放たれる死の球体。

 地面をえぐりながら飛んでくる。

 それは迫りくる終わり。


 主人公じゃない鬼咲桜雅では、ひっくり返せない事実。


 けど。

 だけど。


「うぉおおおおおおおお! 俺はまだお前のちち、しり、ふとももを拝んでねぇんだ! 死んでたまるかぁああああああ!!」


 俺はまだ学ストを楽しんでいない。


 一か八か!

 全身に魔力を滾らせて、叫ぶ


「やあぁってやるぜぇええええええええええ」


 俺は死の光に飲み込まれるのだった。



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ブレーキが壊れてるエリーゼさん。

バトルジャンキーと呼ばれる所以。


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