第2話 美月15歳

 午前七時「ブーッ、ブーッ、」と低い携帯のアラーム音が部屋中に響き渡り、まるで「起きろ!」と叫んでるようだ。毛布で頭を覆い耳を塞ぐが、無慈悲になり続く振動が徐々に眠気を追い払う。アラームを解除しては、五分おきに鳴るアラームを解除するということを繰り返す。

 

「んん……ふぁあ……」


 なんとか重い腰を上げ、ベッドから起きあがりカーテンを開けると太陽が薄オレンジ色の光で街を染めているのと同時に美月を照らす。静かな朝の空気が一気に流れ込み眠気を少しだけ吹き飛ばしてくれる。新品の制服に着替え、顔を洗う。 

 鏡に映る私は、子供の時より少し大人びていてる。


それからリビングに向かい、母と朝食を食べる。


「おはよー、お母さん」

「おはよう、美月」


「いよいよ高校生ね、この間まで子供だったのにすっかり大人になっちゃって……」

「大袈裟だよ、朝から!」

「そうね、でもお母さん嬉しい。」


——前世のお母さんと全く同じ会話したことがあるな………


 ご飯を食べ終わり歯を磨いているとLINEに新着メッセージが2件届いていた。


『おはよー、もうすぐ家出る』

『家に着いたら電話かけるー』


 小学校時代の親友からで、同じ高校に進学する陽奈からだった。


『今歯磨きしてる。』

『忘れ物してないか確認して出るところー』

とお気に入りのクマのスタンプと一緒に送信した。


「お母さんは、入学式に間に合うよう出るね。」

「はーい」


「ブーッ…ブーッ…ブーッ」

どうやら友達が家に着いたらしい。


「行ってきます!」


美月は走って家を出た。



*************************************



「おはよー、まさか小学校から高校まで同じなんてね、クラスも同じだったりして!」


 明るい金髪が印象的な陽奈は、この四月から同じ高校に通うことになった。彼女はうっすらと自然に見える化粧を入学式のためにしたのだろう。


——気合い入ってるなぁ。


 二度目の私は、街を歩いているだけで視線を感じることがしばしばある。陽菜と二人で歩いてると、すれ違う人の視線がいつもより刺さるような感覚がする。


「高校ではさ、花のJKライフ送りたいよね。彼氏作ってさー、体育祭デートとか学園祭デートとか!実際中学生の時は部活が忙しすぎて大変だったしさ。それで赤点取っていつも補習ばっかり受けてたもん。彼氏だって一度も考える暇なかったなぁ。」


「美月はさ、高校入っても恋愛しないつもり?」

「うん、恋愛は現世ではいいかな」

「ん?今世???」

口を滑らせ、誤魔化そうとしたが、陽奈は気にもしていなかったようで会話を続けた。

「人生一度きりしかないんだから恋愛しないと損だって!」


——実際は人生二度目なんだけどね。


 恋愛については理解しがたいけど。どんなに可愛くてもどんなに綺麗でも私にはその気がない。


「私、あんまりそういうの興味なくてさ」


「ルックスの無駄遣いだよ!……ごめんごめん!でも私が思うに恋愛のひとつやふたつ経験するのも悪いことじゃないと思うんだよ。経験する価値があるものだと思うなぁ。」


 仏が教えを説くような顔つきで陽奈が話す


——経験といっても32年生きてる私からしたら犬猫がいればそれでいい。


「ねえ、ところでさ美月、上靴持ってきた?」

「うん、カバンの中に入って……ってあれ?」

「ない!!昨日入れたはずなのに!」

 叫びながら鞄をひっくり返す。


「まさか忘れたの!?」

 驚く陽奈を見て、美月は恥ずかしくなり肩をすくめる。


「大丈夫?遅刻とか一発目からはやばいよ?」

「走って取りに行けば間に合うと思うから先行ってて!」

「わかった、遅れずにね!」


 美月は踵を返し、これまで歩いてきた道を走り急いで戻る。




**********************




 入学式まで残り三十分前。高層マンションに住んでいる美月は、この時ばかりは喜んではいられなかった。


「はぁ…はぁ…息が切れる……」


入学式が始まるには残り三十分前くらいだろうか。上靴を取ってエレベーターで下るまではそう問題ではない。不安なのは、陽奈と歩いていた道の先に、『四月七日から四月十四日までの期間、補修工事があります。大変ご迷惑をおかけします』という看板が立てかけられていたのを目に入っていたからだ。無事に家に着き、玄関に駆け込む。


「お母さん!!!上靴忘れた!!見かけなかった??」


 部屋には美月の大声がシーンと虚しく響いた。どうやらお母さんはもう学校に向かってるらしい。

 急いで上靴をカバンに入れ、エレベーターのボタンを押し、地上に下っている間に手元のスマホで最短距離を確認して勢いよく家を飛び出した。


「まだ走れば、問題ない!!」

その矢先

「…っっわっ!」

 美月は盛大に転んだ。膝を地面に打ち付ける痛みに息が止まる。


「……もう…んな時に限ってなんで転ぶんだろ…」


——起き上がらなきゃ。

  大慌てでバックの中身を拾い上げようとしたが予想以上に痛かったからか、立ち上がれない。


「大丈夫か?………立てるか?」


 手を差し出したのは同じ高校の制服を着た高身長で、クールで爽やかさが印象的な男子だった。


「は…はい、ありがとうございます。」

「血が出てるな、学校に着いたら保健室に行こう。」

 カバンからハンカチを出し、美月の膝にハンカチを巻く。

「ハンカチ汚れちゃいます!!」

「安心しろ、ハンカチ後二枚は持ってる。ちなみに消毒もあるぞ。」


——女子力めっちゃ高っ!


「入学式まであとあまり時間がないな。歩くの支えるから、一緒に遅れてでも行こう。」

「いや!全然大丈夫です!」

「その怪我じゃ歩けないだろ。」

「私のせいで遅刻させるわけには…」

「本当に大丈夫です!歩け………」

 美月はバランスを崩し、地面に倒れそうになる瞬間ふわりと体が宙に浮く感覚がした。目を開けると、彼の腕にすっぽりと包まれていた。力強い腕が美月の背中と膝裏をしっかりと支えている。


「このまま一緒に行くぞ。」

「え…えええええっっ?!?!」

 美月の顔が一気に赤く染まる。視線をそらそうとするがどこに目を向けていいかわからない。


「は……恥ずかしいからおろして…」

 小さな声で言ってみたものの、彼は聞こえなかったのか美月を抱え歩き続ける。

 胸の高鳴りを抑えながら、


——なにこれ、めっちゃ恋愛フラグみたい……


美月は男の子のおかげで無事に学校へ着いて、保健室で絆創膏を貼ってもらい、入学式にも間に合った。


**********************


――入学式めっちゃ緊張したーーー!


「何とか間に合って良かったね美月!」

「うん、転んで怪我しちゃったけど、この学校の人が助けてくれて何とか間に合ったの。」

 照れくさそうに陽奈に話す。


「えー!その人かっこよかった?!名前は!今度紹介してよ!」


「いや、助けられただけで…」


――やっぱ陽菜は恋愛脳だなぁ。そういえばあの男の子の名前聞いてなかったなぁ……お礼だけは言っておかないと…

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美少女転生したけど恋愛フラグは回避します! 星乃ハル @hosino_haru

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