第3話 誕生日と悔恨
俺はカルロスが部屋を出ていくのを見届けた後、部屋の椅子に深く腰かけた。今朝の夢といい、ヘルマーの件といい、俺は疲労がますますたまっていくのを感じた。椅子の前にあるデスクをちらっと見てみると、次の標的、つまり夢追い人に関する書類があった。きっとカルロスのやつが、さっき俺が来る前に置いていったんだろう。俺はその書類に目を通した。
ターゲットは、ホバーカーの製造を行う小さな工場の工場長。名前はハントン・ジェスター。夢検査(夢追い人かどうかを判断するための定期検診)を、最近こいつは行ってないらしい。年齢は58で、ふくよかな体型をしていて頭ははげかかっている。家族構成は、未婚のため独り身。最近は、夜に工場近くのバーで酒を飲み明かすことが多い。
ざっと書類を読み終えた後、その書類をしまいこみ、先週処理した複数の夢追い人についての報告書の作成に取り掛かった。
報告書の作成が終わる頃には既に夕方になっていた。「もうこんな時間か…」
俺は立ち上がり背伸びをした。外を見ると太陽は沈みかかり、仕事終わりの人間が疲れきった顔で帰宅していくのが見えた。俺もそろそろ帰ろうかなと、デスクの上を整理し、厚手のコートを着て部屋を出た。
ホバーカーで家に着いたときには、外はすっかり暗くなっていた。
「ただいま。」
靴を脱ぎ、リビングに入るとカトリーヌが待っていた。
「おかえりなさい。晩御飯はもうできてるわ。」
机にはいつもより豪華な食事が並んでいた。エルの誕生日を祝うためだ。
「帰りにケーキを買ってきたよ。ロウソクは6つ用意しといてくれ。」
俺はカトリーヌにケーキを渡し、着替えを済ませてから夕食の席についた。
「それじゃあ、いただきます。」
俺とカトリーヌは黙々と食べ始めた。最近は仕事のせいで帰りが遅くなることが多く、一緒に夕食をとったのは久しぶりであった。
長い沈黙のあと、カトリーヌが思い出したかのように尋ねてきた。
「そういえば、今朝はどうして早く出勤したの?また緊急の指令があったとか?」
「実は、ヘルマーが亡くなったんだ。」
「なんですって?」
カトリーヌはとても驚いていた。
「夢追い人として殺されたそうだ。詳しい内容は分からんが。」
少し間が空いたあと、彼女は食事の手を止めた。
「あなたはどう思うの?」
彼女は意味深な質問を俺にしてきた。
「どう思うって、どうゆうことだい?」
俺は彼女の方を見た。
「エルロットを殺した張本人が死んでどう思った?気持ちがスッキリした?それとも、長年のパートナーが亡くなって悲しい?」
彼女はこちらをじっと見つめている。いつもより感情的になっている妻に対して、俺は困惑した。少し考えたあと、彼女をまっすぐ見て言った。
「確かにヘルマーはエルを殺した。でもそれはあいつの意志じゃない。命令だった。俺にもあいつにもどうすることもできなかったんだ。だから俺はあいつを憎んでもいないし、恨んでもない。あいつが亡くなったことに関しては、うん、そうだな、悲しく思うよ。」
カトリーヌは小さく頷いた。
「そうね。あなたやヘルマーさんは、どうすることも出来なかった。そうなの。どうすることも出来なかったのよ!だから私は、私の悲しみは、どうすることもできないのよ!」
彼女は泣いていた。こんなにエルに対して思いを背負っていた事を、俺は知らなかった。俺は深く後悔した。悲しみを背負っているのは俺だけじゃない。彼女も等しく背負っていたのだ。それに気づくことができなかったなんて、俺はどんなに間抜けな男なのだろう。
「ごめんなさいね。せっかくエルの誕生日なのに、こんなことを言ってしまって。」
「いや、俺のほうこそ今までごめんよ。さあ、誕生日ケーキを一緒に食べよう。」
ケーキを食べ終わった後、カトリーヌはすぐ寝室に行き、眠りについた。俺はさっとシャワーを浴び、寝室のベッドで横になった。背後にいる彼女は、きっとエルのことを考えながら眠りについたのだろう。しかし俺はどうだ。もうすでに頭の中は、次の標的について考えていた。
ドリームハンター ちゅにゃ @tyunya
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