サイレントクーデター

赤キトーカ

ある国のサイレントクーデター

 アジアの、とあるD国は平和で、戦争なんか久しく起こっていない。

 そんな国でも、それなりに人が多ければ、なかには権力を奪い取ろうというやつや、団体が出てくるものだ。

 30年くらい前になるが、地下鉄に毒ガスを撒き散らす事件があった。

 権力を奪い取ろうという、ある宗教団体がテロを起こしたのだ。

 もちろん、ただちにやつらは制圧された。今でも当時の教祖をほそぼそと崇めているやつらもいるらしいが、もともとが、うさんくさすぎる活動ばかりしていたので、常に国の監視対象におかれているし、こそこそと同じことをたくらんでいるとしても実際に行動に移すことはできない。今では教祖以下、主だった幹部も死刑になった。


 その国では、他に宗教団体がたくさんいて、活動をしている。

 そして、その国で政権を握っているのが、「ジコー」というふたつの勢力が組み合わさったものだ。


 ジコーの「コー」は巨大宗教組織の名前から取られている。


 地下鉄に毒ガスを撒き散らした宗教団体は、まったく国民の共感も信頼も得られることはなかった。

 しかし「コー」は、そうではなかった。

 信じられないことに、「ジコー」として、その国の権力を握ることに成功してしまった。宗教が、その国の権力者なのである。


 この「コー」のやり口は、きわめてうまいやり方だった。


 宗教団体「コー」はある程度の信者を国会に送り込むことはできた。しかし、それだけでは、国会で多数決を取ることはできない。

 そこで「コー」が取ったのは、「ジ」でも、他の党でも、どちらでもいいから、「コー」の信者議員を、他の党に提供するという手法だった。


 つまり、過半数が300だとする。

 Aという党に議員が200いる。Bという党に議員が250いる。「コー」は議員が80人いる。


 Bという党が過半数を取ろうと思えば、「コー」がいれば、330議席を取ることができ、その国を支配できる。


 当然、「コー」も支配者の一人として君臨するのだ。


 Bという党が力が弱まり、Aという党が力を伸ばし、220人の議員を抱えるなら、「コー」はAにつくし、A党も「コー」に力を貸してくれ、と頼むのだ。


 つまり、「その国」がどうなろうとも、「コー」は、権力者で居続けることができるのである。

 Aとか、Bが単独で300、400議席を取れるということがない限り。


「コー」は、宗教団体である。


 その国では、総理大臣とか、内閣が、裁判所の支配者を、選ぶことができる。

 つまり、宗教団体が、裁判所の支配者に口を出せる。なんなら、選べる。「嫌なら、わたしたちコーは議員を出さない」と迫ることができるのだから。


 かつてテロを起こしたおろかな宗教団体は、目立ちすぎた。

 誰もが彼らの活動をひとめみて、眉を顰めた。


 「コー」はそんな愚かな真似はしなかった。

 静かに静かに、信者たちで議員を増やし、国会に送り込み、

ついには、その国の最高権力の座を掴んだのである。




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サイレントクーデター 赤キトーカ @akaitohma

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