第3話 面接

 タクシーに乗ってからのマオは、客になっていた。客になった彼には、やることがなく暇だった。ラジオからは、ずっと音楽が流れているが、お気に入りの曲は、一曲もかからずそれどころか、あまり好きになれずにいるジャンルの曲ばかりが流れて続けている。


耐えられなくなり窓の外を見る。


 タクシーの窓から外の景色を見ていた彼は、そういえばと思い出す。

ヨークタウンに来てから、ゆっくりと辺りを見ることは、少なかった。そんなことを思い出したのだ。


観光の時間—元々そんなつもりで訪れたわけでは、ないが—を取り戻すかのように窓の外。その景色を食い入るように眺めている。


 乗車中ずっと窓の外側を眺めていたが、マオの、この街に対する印象は、変わらない。


 巨大なビル、止まることのない人や車の往来、それから辺りを埋め尽くすほどの建物。

飲食店や洋服店、ショッピングセンターから宝石店まで、珍しいものでいうと探偵事務所まである。こんなに巨大なんだ、もちろん暗い路地だってある。そんな暗い路地裏からは、あまり良い印象を受けなかった。


 乗車してから15分ほど経った頃、運転手がふと口を開いた。


「もうそろそろで着くから、支度しといて。」


 初めから思っていたことだが運転手がかなりフレンドリーだ。人と接する仕事柄、親しみやすさは、大事なのだろうか。

運転手のプロ意識を勝手に想像していたマオは、意外と重くなっているリュックと肩掛けカバンを背負い、降りる準備を整えていた。

マオは、バック二つ持ちである。


「到着だよ、お客さん。で、代金なんだが…ざっと5000グロスだよ。」

ニヤニヤ顔の運転手。


 ん?やっぱりタクシーは、高いな。長時間の乗車では、ないにも関わらずこの値段。

そりゃ利用しやすい交通機関では、ないなと思いながら、肩掛けカバンをあさる。

マオは、財布を持つタイプでなかった。だからお金をだすことについては、一苦労どころか二苦労だ。


 やっとのことで5000グロスを取り出す。そしてそれを渋りながらも運転手に渡そうとする。


すると運転手が焦った様子で

「まさか本当に5000グロスも払う気か?

冗談に決まってるじゃないか。

冗談だよ、冗談。

これでもし、本当に俺が5000グロスもとったら、詐欺じゃないか。

いいか?俺は、金が欲しいが罪人には、なりたくないんだよ。」


 本当の金額は、3750グロスだそうだ。

”冗談”と初回割引を含めての金額らしい。それを支払い、車外に出た。


……ん?

 そんなことより、何故俺が注意を受けなければいけないんだ?とマオは、考える。

いや、謝ったりするなら解る。だがあの運転手は、注意をしてきた。


 冗談を言って混乱させたのは、運転手のはずだ。それなのに何故自分は、注意を受けなければならない?

それも純粋な善意からではなく、自分の立場が悪くなる、という理由の為だ。


 文句を言おうと振り返ったが、タクシーはもう、走り出していた。


(クソ!次、会ったら絶対に悪口を言ってやる。)


 だが、そんなことでモヤモヤしている場合では、なかった。


 目の前には、面接先であり勤めて先—採用されればのはなしだが—となる店である便利屋ワトソンがあったからだ。


 面接のやり方ガイド、それと、面接の受け答え質問全書をサラッと読み返してから、深呼吸をして店のドアを開けた。

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便利屋ワトソン 四いい色 @sorcererISIDA

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