スピリッツ・サイド 新生B√ 幼馴染から始まる恋

第2話 良くできた小蔭

聡「初めまして。

　小蔭ちゃんから話は聞いていると思いますが、私が志方聡（しほうさとる）です」

蛇姫「聡殿、よくぞ参られた。

　儂（わし）がこの国を治める蛇姫じゃ」

黒い甲冑の女性「玄武です。　以後、お見知り置きを」

聡「勿論です。

　御城の前まで出迎えて下さるなんて、小蔭ちゃん想いなんですね」

蛇姫「正しくその通りじゃな。

　本当に、シェリナ殿の様な殿方なのじゃな」

　白無垢と白装束を合わせた様なこの格好はこの外観には不釣り合いだし、各国の姫君が湖に顔を見せる今日は早めに切り上げて僕等の事を待っていたとしても、普段は深窓の令嬢なのだろう。

　体格でも玄武さんに見劣りしない美人だし、きっと白蛇の大型種だね。

朱雀「（小声）とても柔和な御兄さんという意味ですから、気にしないで下さいね。

　蛇姫様も、ああ見えて女性意識の人なのです」

聡「そう言う事だね」

　僕が二人に向けてそう返すと、蛇姫様は少しだけ棘の有る少女の様な瞳をした。

　御付きの人の立回りも考えると、実年齢は年下なのかも知れないね。

蛇姫「なあ、玄武。　二度も小蔭を救って頂こうと言うのは、流石に虫が良過ぎると言う物であろうか？」

玄武「異世界の殿方ですし、最終的には当事者である彼の御意向次第でしょう」

蛇姫「女性たるもの、やはりそうであるよな」

　そこは姫君ではなく女性たるものなんだね。

（確かに、王道戦記物の男性なら有力者としての務めに言及して我等も尽力するので力を貸して欲しいとか言いそうだけれど、この世界では彼女程の御方でも花嫁修業の御姉さんなんだね。

　古典的な流れは批判されがちだけれど、さっきの様な謙譲表現のできる御淑やかな女性を立てる御相手が居てこそのそれと言うのであれば、敬意と礼節でできている東洋らしくて良いんじゃないかな）

聡「その御話についてですが、僕はシェリナさんと小蔭ちゃんのどちらかの国を選べる条件下で、この子や貴方様の助けとなるためにこの東洋怪異の国に降り立ったのです」

蛇姫「それは真（まこと）か！」

小蔭「お兄ちゃんは、昔から優しいの♪」

聡「ですから、東洋と縁の有る男性という理由で他国から警戒される事は重々承知で、護衛を伴った少人数での全国視察をするつもりで僕はこの地に来ております」

　硬い言い方にはなったけれど、この位言ってあげた方が彼女も安心できるだろう。

朱雀「良かったですね、蛇姫様」

蛇姫「誠にそうじゃな」

聡「後、僕は見掛け上全くの部外者なので、遠方の他種族の目を掻い潜るという意味では、できれば護衛はこの国以外の方が望ましいのですが」

蛇姫「御主が言わんとしている事は良く分かるが、大型種の国同士は互いに距離を取り合っての三つ巴（どもえ）の状態に有り、他に大型種以上の影響力を持つ種族と言えばマグノリア(モクレンの意)じゃが」

聡「その種族は、そんなに強力なのですか？」

蛇姫「そうじゃが……いや、種族を理由に怖れていては、大国である我等を深く考えずに疑いおる他種族と同じじゃな。

　それに、木本である事を理由に彼女等を怖れる時代は、もう終えても良いと思うのじゃよ」

　彼女にここまで言わせるなんて、相当色々有ったんだろうな。

小蔭「流石は、蛇姫様なの」

聡「それでは、僕は木本の国を目指しますが、どの位の距離感でどの様な大型種なのですか？」

小蔭「お兄ちゃん、木本プリバドは御隣の小型種なの」

　御隣の……小型種！？

　一瞬、小蔭ちゃんが何を言っているのか分からなかった。

蛇姫「そうなると、次の行き先は左下で木本プリバドと連立国をしておるシュクレになる訳じゃから、道中の案内は朱雀に任せるとしよう」

玄武「それが一番ですね」

　左下？　この世界では方角を湖を中心とした地図上での方向で呼ぶんだろうね。

小蔭「蛇姫様……我儘になっちゃうと思うけれど、小蔭も付いて行って良い？」

蛇姫「そんな目をされて断れる女がおろうか。　じゃが……」

聡「シェリナさんを培ったこの世界なら、東洋系でも小型種のこの子だけ連れている分には大丈夫だと思うので、僕からも御願いします」

蛇姫「それもそうか。　それでは聡殿、小蔭の事を宜しく頼んだぞ」

聡「任せて下さい」

　深々と御辞儀をする蛇姫様に、丁寧に答える僕。

　御互いに、本当にこの子想いなんだね。

蛇姫「それでは、異世界の者にこれだけの重責を任せる訳じゃから、視察団相当の活動費は工面（くめん）するべきじゃな。　見た所、聡殿は貴族の様でもあるし」

聡「そう言って頂けるのは有難いですが、僕等の国には貴族制は既に無く服装も技術が進んでいるだけですから、そこまで大層な扱いをして頂かなくても大丈夫ですよ」

朱雀「（小声）そう言う所が、シェリナ様みたいなのですよ♪」

小蔭「そう言えば、さっきからのお兄ちゃんはお姉ちゃんみたいなの」

聡「距離感と言う意味では、むしろ黒いドレスのあの子だと思うけれど」

玄武「黒いドレス……」

　何か思い当たる節が有る様な玄武さんと蛇姫様を見送った僕等は、小蔭ちゃんの案内で入口の広い茶室に招かれた。

（僕等の世界での茶室が屈（かが）まないと入れない造りなのは、位の高い人でも等しく御辞儀をする形になるからだし、元々身分の差を現世程意識していないこの世界ならではの造りなのだろうね）

　一時の後、僕等は火水氷等が軽量の魔法具だけで賄（まかな）える、席以外の角を丸くした小型のホバータンクの様な魔道気球である風珠（かざたま）を用意して頂けた。

　中には勿論、地図や魔力の実と呼ばれる食料等冒険の必需品も備えられている。

（流石にこれで市街地を通る訳にも行かないから隣の御堀を超えての出発となった訳だけれど、これだけの設備と活動費を用意して頂けた分も、彼女等には是非とも結果で報いたい。

　向こうの世界への偽装のために持って来た重たい荷物置き場にも、これなら困らない訳だし）

朱雀「申し訳有りませんが、このまま進めばシュクレ属の地域に着きますので、ここから先は二人で進んで下さい。

　湖から見た地図上での下側はとても温厚な地域ですから、きっと大丈夫ですよ」

　通信用の魔法具で玄武さん辺りと話していたらしい朱雀さんがこう切り出したのは、出発してから二時間近く経ってからの事だった。

（あれからの小蔭ちゃんの事を話していたら時間の経過も早かったけれど、穏やかなこの人も重役だし昔木本の地域と何か有ったと言う事は、間に居るシュクレとも何か有った様な物だからね。

　英語的に言うとシュガー属な訳だから、きっと砂糖菓子の様に可愛い女の子達なんだと思うけれど）

聡「こちらこそ。　隊長格で忙しいのにここまでして頂いて、有難う御座いました」

朱雀「それについては御構い無く。

　四聖獣の中でも唯一の中型種である私の担当は主に護衛ですし、稀に来て頂ける国賓（こくひん）の御相手も私達に任せられていますからね。　それでは♪」

聡「朱雀さん、またね」

　通りで柔和な訳だね。　色々と冴え先が良いけれど、風珠みたいな東洋怪異の高級品にはやはり諸刃（もろは）の剣の様な側面も有りそうだね。

　いくら小型種のこの子を連れていても、これに乗ってやって来ると言う事は余程の財力が有るかこの国の重役と繋がりが有る事が予想される訳だし。

聡「ねえ小蔭ちゃん、シュクレは避けて先に木本の地域に向かおうと思うんだ」

小蔭「え、どうしてなの？」

聡「シュクレの女の子達は何も知らない可能性すら有る訳だし、木本プリバドに協力者になって貰えた暁（あかつき）にはその子達も友好国になる訳だから、名前からして小型種らしくしている筈のその地域はその後の方が良いでしょう」

小蔭「確かに、理解の有るツリピフェラちゃんに先に話を通した方が、他の子達も安心できるの。　それじゃあ、先に下側の森に向かうの」

　その一時間後、僕等は南の森伝いにプリバドの地域に続くと思われる一本道を探し当てた。　見付けたは良いけれど……これ、どう見ても間伐された熱帯林だよね。

　地球の方でも初期の頃の植物が居た中生代は高温多湿だったみたいだから、花に特化した被子植物に移行した頃の原初森林という意味であれば、それはそれで筋が通るのだけれど。

　この様な土地をこの子と進むのは流石に怖いけれど、柔和な世界みたいだし不敬が無い様にと風珠を後ろに連れて進んでいると、一本道の向こうから花の冠を被（かぶ）った様な女の子がやって来た。

　草本か木本は分からないけれど、想像以上に日光の入る明るい森林に似付かわしい下の尖った黄緑色のワンピース姿だから、きっと植物系のプリバド属だね。

　2cmの蕾も含めると155cmは有るけれど、大人が170cmの東欧目線なら小5サイズの筈だから、やはり可愛い蕾と言う意味のプリティバドを冠した蕾幼女なのだろう。

菫（すみれ）の冠を被った女の子「東洋怪異の風珠を連れて来るなんて、まるであの国との縁が深い天界からの移住者みたいなの」

　ああ、この子はきっと木本プリバドだ。

　表情も含めて寡黙な雰囲気だし、小蔭ちゃんと比べても冴え過ぎているからね。

聡「僕は天使ではないけれど、地球って言う別世界から来たから大方合っているよ」

　きっと内向きな種族だし、直感とは言えここまで見抜いているのなら隠す必要は無いだろう。

小蔭「こんにちはなの。　ラミフロルスさん」

　知り合い？　いや。

　菫の樹の名前だし、種族名と個体名の複合で名前が付いているのかな。

菫の冠を被った女の子「こんにちはなの。　この分ならきっと大丈夫だし、自己紹介するの。　ラミ達はラミフロルス。　木本プリバドの一系統なの」

聡「僕は志方聡（しほうさとる）って言うんだ。　宜しくね」

ラミフロルス「宜しくなの。　何か事情が有るみたいだし、ツリピフェラちゃんにも知らせておいた方が良いと思うから、付いて来てなの」

聡「御願いするよ」

　無表情ながらも、ぺこりと御辞儀をしてから道案内を始めた木本の女の子。

　この子よりも小型種らしい草本らしき女の子は、木陰から風珠を眺めているだけで近付いて来ないから、その昔色々有ったと言うのはやっぱり本当みたいだね。

　そんな風に思いながら、規則的に枝分かれしている道を進んだ僕等の前に見えて来たのは、いかにも小さい女の子が描く様な御家（おうち）と言った雰囲気の三角屋根の付いた白とピンクの直方体だった。

　看板もチューリップ印だし、この国の姫君は草本なのかな？

　シュクレと仲良しな草本プリバドを姫君に立てての木本政治なら、筋も通るよね。

ピンク色の蓮（はす）の様な蕾を付けた女の子「東洋の風珠が近付いて来たと思ったら、見慣れない種族のお兄ちゃんだったの」

　木本プリバドって、エスパーか何かかな？

ラミフロルス「そこまで分かるなんて、流石はツリピフェラちゃんなの」

　聖木が聡明と言うのはいつものパターンだし、気配察知と分析レベルの洞察力は基本装備なのだろうけれど、それらを持ち合わせたこの子も中々の強者（つわもの）だよ。

聡「僕はシェリナさんとの縁で地球って言う別世界からやって来た中型種で、志方聡（しほうさとる）って言うんだ。　宜しくね」

ツリピフェラ「ツリはツリピフェラ＝フローリスなの。　宜しくなの。

　つまり、その風珠は小蔭ちゃんとの縁で借りている物なのね」

　何だろう。　この木本とか言う女の子達、有能過ぎるんだけれど。

　シェリナさんとの縁からあの時の小蔭ちゃんとの一件を連想すれば、その伝（つて）で蛇姫様から借りたともなる筈だけれど、僕はまだ名乗っただけだよ。

　例の如（ごと）く冴え過ぎているこの子を相手にどう立ち回るか考えていると、彼女は徐（おもむろ）に通信用の魔法具を取り出した。

ツリピフェラ「チューリップちゃん、もう出て来て大丈夫なの」

チューリップ「はーいなの♪」

　御家の中から走り出して来たのは、正にその家の通りの雰囲気の女の子だった。

　ツリピフェラちゃんの優しみが分かって安心したけれど、きっとあの子がこの国の姫君だね。

チューリップ「チュリは、チューリップ＝ブルーミーなの！

　お兄ちゃん、宜しくなの♪」

聡「可愛らしい名前だね♪

　僕は志方聡って言うんだ。　宜しくね」

チューリップ「ありがとうなの♪　ねえ、ツリピフェラちゃん。

　お兄ちゃんはとっても優しそうだけれど、どうしてチュリを残して行ったの？」

ツリピフェラ「それは……」

　きっと、珍しくも言葉に詰まったツリピフェラちゃん。

聡「その昔、風珠を持っているこの子の国と色々有ったんでしょう？　それでも僕は、木本の女の子の事も東洋怪異の人達の事も信じているから安心してね」

ツリピフェラ「ありがとうなの」

小蔭「ねえ、ツリピフェラちゃん。

　蛇姫様も種族を理由に怖れる時代はもう終えても良い頃合いって言っていたの。

　小蔭も協力するから、今回の一件を……この精霊界を救って欲しいの」

ツリピフェラ「それを聞けて安心したの。

　ツリ達も、他種族の領分と考えないで聡さんの様に生きていたら、もっと早くに分かり合えたのかも知れないの」

チューリップ「そうかな？　ツリピフェラちゃんも、頑張ってるよね」

聡「小蔭ちゃんの前に立つ以上偉そうな事も言うけれど、膨大な力って言う物はそもそも扱いが難しいんだから……もしもそう言う事だったら、過去に何が有ったかよりも、この先をどう生きるかを大切にすれば良いんじゃないかな」

ツリピフェラ「……聡お兄さんには、初めからこの世界に居て欲しかったの」

　そう言ってくれるのは嬉しいけれど、木本プリバドのこの子には、異世界のために奔走する青年はそう見える物なのかも知れないね。

ツリピフェラ「そう言う事ならチューリップ様、ツリは二人と各地を周って来るの」

聡「ありがとう。　ツリピフェラちゃん」

チューリップ「側室になりたいのね！　行ってらっしゃーい♪」

　当然の様にそう言って、ぴょんぴょんしながら両手を振るこの子に、えっ！

　となる僕等。

チューリップ「あれ……好きになったから、付いて行きたいんじゃないの？」

ツリピフェラ「確かに聡さんは良いお兄さんだと思うし、お兄さんさえ宜しければ一緒に隣を歩く中で色々と御手伝いしたいなとも思うけれど」

　こね髪を指先でクルクルしながら、俯いて真っ赤になったツリピフェラちゃん。

　慌てて呼び方も変わっているし、木本プリバドにもこう言った一面が有るんだね。

聡「先にそう言ってくれた小蔭ちゃんと、この世界の他の人々が許してくれるのなら僕としては二人に愛をあげたいけれど、僕の居た世界はそうではなかったから……二人に不敬が無いか心配なんだ」

　小蔭ちゃんは側室にと言っていたし、シェリナさんは王宮の女性だからこの子みたいな子となら元々そう言うつもりの可能性も高いけれど、二人には本来そう言う予定は無かったよね。

小蔭「そこは小蔭と同じなのね。　いつかシェリナ様の隣を歩く聡お兄ちゃんに小蔭なんかがと思った事は何度も有るし」

聡「小蔭ちゃんも、良くできた子だと思うよ。

　僕達、恋に関してもきっと初めて同士だし、三人で色々覚えて行こうね」

ツリピフェラ「木本プリバドだけれど、宜しくお願いします」

聡「こちらこそ。　ツリピフェラちゃんが種族を理由にそう思わなくても済む様に僕も頑張るから宜しくね」

チューリップ「やっぱりそうだったのね♪　三人共、良かったね！」

ラミフロルス「ラミ達は、どうすれば良い？」

　話が纏まった頃、先程案内してくれた子が脇道から現れた。

　仲間に話しながら頃合いを伺っていたと言う所だろうか。

ツリピフェラ「まずはツリが事情を聞いて来るから、チューリップ様とラミフロルスちゃん達はいつも通りにしていてなの」

ラミフロルス「あの時に動いたのはラミ達なのに、ありがとうなの」

聡「込み入った御話なのに、協力してくれてありがとう」

ラミフロルス「ラミ達こそ。

　それじゃあ三人共、行ってらっしゃいなの」

チューリップ「いってらっしゃーい！」

聡＆小蔭「チューリップちゃん、ラミフロルスちゃん、行ってきます」

　僕等は対極的な二人に手を振り返してから、風珠に荷物を積み込んだこの子と共に出発した。

聡「ねえ、ツリピフェラちゃん。　その重そうな物は、何かな？」

　出発した僕の第一声はこれだった。

　と言うのも、風珠に積み込まれた装備は……。

ツリピフェラ「原初属性の三元素メイスと魔力増幅の小盾なの。

　事情が事情だと、護身の武具も必要なの」

　最強。　ディフェンダーソードみたいな幅広のガード部分を含む木本専用なツーメイススタイルに、両下腕部に小盾を併用する物理魔法の両立型。

　余程の腕力が無ければ扱えない所を見ても、マグノリア属の異名が付く訳だね。

聡「僕にも護身用の装備とか必要かな？」

ツリピフェラ「風珠に積んで有った身代わり石だけ持っていれば、後はツリが何とかするの」

小蔭「ツリピフェラちゃんの場合、素手でも大丈夫だと思うの」

　苦笑いをしながら、そう語る小蔭ちゃん。

　多分土属性の魔法盾を出せるか魔法耐性が高いかするのだろうけれど、それなら敵意が無い事を示しながらも護身を確保できるよね。

聡「それでも、属性感を共有すると言う意味では、僕にどんな魔法の適性が有るか知っておいた方が今後のためになると思うんだよ」

ツリピフェラ「そう言う考え方も有ったの。　それじゃあ、聡お兄さんの場合火属性と攻撃魔法は無いと思うから、残りの補助魔法を唱えてみてなの。

　三元素・土属性・第一攻撃……この森でも、この風珠の中でも使う訳には行かないの。　それに、そう言えばツリ達には直接唱える補助魔法は無かったの」

　確かに、この地域の子達は攻撃魔法に敏感だろうし、風珠は土属性に弱そうだからね。　もしも三元素の土属性が地殻が重力を決める理論で重力魔法なら尚の事。

聡「それじゃあ、三元素・土属性・第一補助魔法」

小蔭「流石に三元素魔法は難し……」

　小蔭ちゃんがそう言おうとした矢先。

聡「オリジンソイル？」

　いかにも原初の土と言った雰囲気の光沢を帯びた土の破片が正面で周り始めた。

　カーテンみたいな物を開けている以上、上の方は外からも見える訳だから即座に引っ込める。

ツリピフェラ「三元素魔法を使えているの。

　つまり水と大地と光の補助魔法を直接発動できると言う事なの」

小蔭「淡々と言っているけれど、光の補助魔法ってアスピスの人達が持っているやつなの」

ツリピフェラ「確かに、天界からの移住者もそれを使えるの」

聡「音響の性格に関しても氷と光は近い所が有るし、元々光水サポート適性が有った人間が小蔭ちゃんを救いたいとこの地に降り立ったから、土の適性も付いて来た。

　そう考えれば、三元素の補助魔法も扱えそうだよね」

ツリピフェラ「聡お兄さんの場合、光属性・第一回復魔法と唱える信仰魔法も扱えそうなの」

聡「試してみよう。　光属性・第一回復魔法」

　僕がそう唱えると、辺り一面に淡い光が舞った。

　これならシェリナさんとも相性良さそうだけれど、性格で信仰魔法適性っていつもの主人公らしさではないよね。

小蔭＆ツリピフェラ「もしかして、思ってたよりも凄い人だった？」

　思わぬ一致に、三人で笑い合う形となった。

小蔭「ところで、風珠に乗ってシュクレの地域に入るのなら、外の席みたいになっている所に皆で座っていた方があの子達も安心できそうなの」

ツリピフェラ「それもそうなの」

聡「小蔭ちゃんも、あの子達想いなんだね」

　良い子良い子と髪を撫でてあげると、とても安心した様子で赤くなる小蔭ちゃん。

　ツリピフェラちゃんも、その姿に関心が有る様子だったから、この子にもしてあげると。

ツリピフェラ「不思議な……気持ちなの」

聡「小型種同士の繋がりだとこう言う機会も少なかったと思うけど、僕に嫁ぐと言う事はこれからはこれが普通になるんだよ」

　恋愛の歌詞にも、当たり前と特別を掛け合わせた物とかは良く有る訳だし、愛に生きると言うのは元来そう言う物なのかも知れないね。

　こうして、夕日を浴びる魔力の実畑を抜けてシュクレの街道に入った僕等を待っていたのは、案の定な良い子妹達だった。

シュクレと思われる銀髪の女の子「ねえ、チューリップちゃん！　何してるの？」

ツリピフェラ「ツリは木本プリバドなの」

　いかにも小型種と言った雰囲気の可愛らしい白ワンピ姿の銀髪な美少女に対して、全くブレないツリピフェラちゃん。

シュクレの女の子「こっちに出て来る木本の女の子なんて、珍しいのね！」

ツリピフェラ「ツリにも、森の外を歩きたくなる事は有るの」

聡「そう言う事だね。　それじゃあ、僕等は先を急ぐし……」

　僕がそう言おうとした矢先。

シュクレの女の子「東洋のお兄ちゃん、木本の女の子には沢山の魔力の実が必要って聞いた事が有るから、買い出しは多めにしてあげてね」

聡＆小蔭「そうなの？」

ツリピフェラ「ツリには三元素分の魔力が必要なの」

聡「適格な助言をありがとう。　それじゃあ、次に進むのは湖側かな？」

ツリピフェラ「湖の砂浜で待っていれば、あの子が見逃す訳が無いの」

シュクレの女の子「それじゃあ、またねなのー♪」

聡＆小型種の御二方「またね♪＆またねなの♪」

　他の子達も僕等の風珠を特別気にしている様子ではなかったし、やはりこの子達の姿を先に見せておいたのは正解だったと言う事だろう。

聡「やっぱり、シュクレの女の子は良い子揃いなんだね」

ツリピフェラ「そう言う事なの」

小蔭「ところで、湖に居る女の子って、やっぱり……」

平面な氷の塊に乗った女の子「チューリップちゃーん、何してるのー！」

　言うよりも早く、当の彼女がやって来た。

ツリピフェラ「ツリは木本プリバドなの」

　ピンク色の蓮型の蕾とチューリップ位、流石に見分けは付くと思うけれど。

　良く分からない氷の塊みたいな乗り物も含めて、ツッコミ所の多い女の子が出て来たな。

氷の塊に乗った女の子「チューリップちゃん、何してるのー？」

ツリピフェラ「ツリは木本プリバドなの」

　安定感の有るツリピフェラちゃんと、聞こえる距離まで来てやっと木本と分かったらしいシュクレ属の女の子。

氷の塊に乗った女の子「木本の女の子がこっちに来るなんて、珍しいのね！」

　何だろう？　皆して同じ事を言って来るなんて、軽くホラーなんだけれど。

　一部のSFや行動心理学も割とそう言った世界だけれど、小型種はそんなに種族を気にしていないと言う事でも有りそうだよね。

ツリピフェラ「確かにそれは珍しい事なのかも知れないの。

　ところで、ロリポップ様に御願いしたい事が有るのですが」

ロリポップ「なあに？　ツリピフェラちゃんもミックスフロートに乗りたいの？」

ツリピフェラ「そう言う事なの」

聡「ツリピフェラちゃんも、ロリポップちゃんも流石だね。

　改めて、初めまして。　僕は志方聡って言うんだ。　宜しくね」

ロリポップ「ロリポップ＝プチパルフェなの！　初めましてなの♪

　それじゃあ、お兄ちゃんもこれに乗ってなの！」

聡＆小型種の御二方「ありがとう、ロリポップちゃん＆ありがとうなの」

ロリポップ「それじゃあ、出発進行なのー！」

　見た目以上に冴えていながらも、風珠について詮索する事無くミックスフロートに乗せてくれたロリポップちゃん。

　事の発端や属性の相性から察するに、次の行き先はスノードロップを予定しているのだと思うけれど、頃合いを見てシェリナさんの事を切り出してみようと考える。

　僕には、どうしてもあの時の言い回しが清楚な少女としての体裁だったのか、本当に性根で言っていたのか気に成っていたからだ。

　僕は、ある種の緊張感を胸にこの子達のホームとも言える広大な湖に乗り出した。

第二話の後書き

　改めてB√をやってみて思った事は、この話って人物の心の動きや事の詳細を本当に描き切らないと何でツリピフェラちゃんが初動の内から聡さんに好感を持ったのか分からない感じになり兼ねないので、簡単に動いた様に見えて結構実力が要て奥が深いんですよね。

　恋愛は話が纏まっている事と情景に特化する事が両方求められますが、その路線に在る都合か今の所止さぬか木本プリバドとも呼べる別の隠しステータスは影を潜めていて、その発動条件が満たされる事も無さそうなので安心ですね。

　先にその内訳（うちわけ）を話しておくと、1.各種族を戦力ベースで考える事

　2.小型種への愛より自国の防衛のための打算に突き抜ける事

　3.小型種や中型種でもセイレーンを疑うか疑って欲しいと思う事

　と言った別のゲージを持っていたやつやディストピア物の様な条件なので、この√においての悪となるそれらを望まなければ彼等の未来は安泰でしょう。

（これについては番長対岸にシスターメイドリーダーと言う並びが有る様に、立場が違えばその中でのリーダー適性やそれから見た悪も変わって来ると言う話ですね）