第10話『結実』

 どうしようもなく無機質で、果てしなく無表情な病院の待合室で、私と菜緖は身を寄せ合って待ち続けた。

 

 ごめんね、菜緒。

 今日、学園祭なのに。

 私は声を上ずらせながら懸命に菜緒に伝えた。

 

 ううん、いいの。

 菜緒はうつむいたまま、唇をわずかに震わせた。

 

 でも菜緒は、学園祭に招待したい人がいるって言ってたじゃない。

 

 私の言葉に、菜緒は両手で顔を覆った。

 

 もう、こんなことに。

 だから、もう。


 菜緒が喉の奥から、耐えるようにうめいた。

 

 菜緒を泣かせるヤツは、そんなヤツは、私が許さない。


 これ以上、菜緒を泣かすなら、赦さない。

 

 本当に。

 

 私は痛む瞳で、赤いランプの灯る手術室を見上げた。

 と、ランプが消えて暫くして私たちの前に、手術を終えた先生たちが現れた。

 

 私はなぜか、春先に撮った弟の写真を、思い出していた。

 中学生になったばかりの弟の。


 真新しい制服に袖を通し、少し気取って髪型やネクタイを気にしていた。

 初々しく、爽やかで、期待に溢れていた。

 

 私はシャッターを切るように、そっと・・・静かに目を閉じた。  

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あなたが生きているかぎり ひろ @HIRO5094

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