公爵ドリル令嬢サーミ・グロイスは異世界をプロレスで生き抜く
めいき~
模擬戦をプロレスで生き抜く
「隣の領地の騎士団長様ノックス様、ご機嫌うるわしゅう」
そういって、荒野に仁王立ちしているのはサーミ・グロイス。虎柄ブーツに虎柄ドレスに、虎メイク。虎柄手袋という出で立ちだ。
「相変わらず奇怪な服を着ておられるな」「戦場に置いて恰好も男女も関係ありませんわ!」「まぁ、模擬戦を頼んだ俺が言う事でもないか……」黒い筋肉光する馬に乗り槍を構えて突撃の体勢を作る。馬もやる気で、前足で地面を二回ひっかいた。
「いざぁぁぁぁぁ!」土煙をあげて突撃するノックス。まるで何もない所で、ロープでもある様な動きで若干後ろに両手を広げてもたれかかる。その様子はまるで挑戦者を待つ王者の様。戦場のビューティタイガー、それがグロイス家長女の呼ばれ方だ。
突撃してきた馬から振り下ろしの槍が来るが、それを両足でジャンプして飛び越え空中で一回転まわって着地。避けられたノックスは直ぐターンして再度突撃するも同じように避けられた。翻るドリル髪がまるでマントの様にふわりと舞う。
気合を入れ、槍を連続で突きこむが素早く頭上に行くとカーフブランディングで馬の頭を押さえて腕の力だけで空中へ。そのまま、落下中にノックスが持っていた巨大な槍をアナコンダバイスの要領で槍だけ掴むと一気に引き下ろす。思わず槍を持っていられず手放すと、まだロックしているグロイスの頭めがけて拳を振りぬく。サーミは、頭をのけぞらせるがそれでも微かに切った。メイクの額が横にきれたのだ。「やりますわね、強い殿方は大好きですわ」そういって、ふんわりと微笑む。「こんな可憐な女の子に素手で槍を持ってかれる時点で三流さ」ロングソードを構えて再び馬上から振り下ろす。それを素早く起き上がって、シューティングスタープレスの要領で空を舞った。
それが、ノックスには夜空にたたずむ月の様に静かに静止している様に見える。「それでは、落ちて来た時的になるだけだぞ」ノックスが叫ぶが、サーミは微笑みを絶やさない。
「空中殺法は、プロレスの花形。それを、貴方に教えて差し上げます!」
サーミはノックスが突き出したロングソードを持っている手を掴んで、そのまま空中で馬上のノックスの腕の力だけで引っ張り上げると体勢を変えてしまう。
見る人が見たら、きっとこう言うだろう。スカイブルー・スープレックスホールド……と。着地が馬上である事から大地で決める事よりも遥かに難しいそれをいとも簡単に決めるとノックスの腕の骨を持っていった。ポロリと落としたノックスのロングソードがサーミの額を縦に切る。「降参だ」サーミに壊された手の手首を触りながら苦笑した。サーミは両手を腰の後ろで組み、自身が連れて来た執事に顎でしゃくると。執事が素早くポーションを振りかけた。「お~痛てぇ」「途中までは、かっこよかったですわよ」と声をかけるがノックスが渋面だ。「槍も剣も落とすようじゃ、戦場じゃ死んじまうな……」「そうですわね、途中で止めなければ頭を下に地面に真っ逆さまで貴方の愛馬に頭を踏まれちゃいます♪」「怖い技だな」そういうと、グロイス家のメイドが「お嬢様! 額に傷が……」素早く鏡を持ってくる。前髪を優しくどけると確かにほんの少しだけ傷が入っていた。「あらまぁ!」虎メイクの上からでも顔が綻んでいるのが判る。「ノックス様、傷ですわよ♪。わたくし、本当に久しぶりに殿方に模擬戦で傷をつけられましたわ!」
そこには非常に小さな十字架の様な傷が……「お嬢様喜んでいる場合ではございません!」早くポーションをとアワアワしているメイドが緑色の液体を持ってくる。しかし、サーミは取り合わない。
「今日は一日、この傷をそのままに致します♪。模擬戦に応じて正解でした」ウキウキで帰っていくサーミに執事とメイドが大きく溜息をついた。
公爵令嬢サーミ・グロイスは強い男とプロレスが大好きな十六才の乙女。だが、周りの男達は思う。「なんであんな悪趣味なんだ!」と。
その日は額の十字架を見る度に、これ以上ない位ご機嫌であったという。
鍛え抜かれたボディと、猛る魂を胸に。
(おしまい)
公爵ドリル令嬢サーミ・グロイスは異世界をプロレスで生き抜く めいき~ @meikjy
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