第2話 目覚め②

 夏樹は村の祠の前にいる。村はそれほど大きくはないが、中央の大きな祠を囲うように並んだ綺麗な石畳と木で造られた家が調和していて、どこか懐かしいような温かみのある雰囲気がある。しかし、そこには1つだけ違和感があるのだ。  

それは、祠の根本に異形の怪物が横になり寝ているではないか。

その怪物は見た目は犬のようだが、目は3つあり、下顎から出る牙が上に向かって鋭く飛び出ている。


「こいつは迷宮生物ってやつだね。どうやって連れ出したんだ。」


夏樹は呟く。そして、なにかの気配を感じて、横になる怪物の頭の後ろにある岩陰に目をやった。そこには岩に隠れながらこちらを見ている男の子がいる。


「奏斗!そんなところで何してるの!」


夏樹の横で雪音は叫んだがその声量は押し殺されていて小さい。怪物が起きないように細心の注意を払っているようである。

奏斗はこちらをじっと見ながら、少しずつ岩陰から身を乗り出して来た。このまま怪物を起こさないように雪音達のところへ来ようとしているのだろう。

夏樹と雪音は静かにそれを見ている。雪音の拳は強く握られている。

奏斗の身体が岩陰から全て出てきた。途端に奏斗は走り出そうとした。しかし、石に躓いて勢い良く転んでしまった。


「きゃっ!!」


雪音が悲鳴を挙げる。

奏斗は顔を上げて怪物の様子を伺おうと横を見た。怪物の額にある目と目が合った。

その瞬間、地響のような怪物の唸り声があたりを覆った。


うおおぉぉぉお!


雪音は耳を塞いで、奏斗に向かって叫ぶ。


「早く!こっちに来なさい!走って!!!」


怪物は起き上がり、奏斗を踏み潰そうと足を大きく上げた。


「早く!!」


雪音は手を伸ばして叫ぶ。

その時にはもう怪物の左足は奏斗の頭上1メートル上まで来ていた。

雪音と奏斗は目を瞑る。


どがぁぁぁん!


大きな衝撃とともに響く音。

雪音と奏斗は目を空ける。すると、さっきの怪物がひっくり返っているではないか。

雪音は奏斗に駆け寄る。すると空から、2人の足元に何かが落ちて来た。

奏斗が拾ってそれをみると、赤い木の実の欠片だった。

雪音ははっとして夏樹のいたところを振り返るとそこには誰もいなかった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハイディス・シヴィンズ 皐月飴朔 @heikenonamekuji_22

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ