第40話 戦う力なら持っている
「――失礼します、カルム様」
冒険者ギルド前の往来、王都中心を貫く大通りにて。
丁寧な口調で声を掛けてきたのはメイド服姿の
上品なロングスカートは主の趣味を反映してなかなか可愛らしいデザインだが、その内側に大量の
ともかく。
「突然すみません。……その様子だと、クロシェット様はやはりダンジョンですか」
「! ……知っていたのか、ダフネ?」
「いえ。ですが、我が姫は〝その可能性が高いだろう〟と」
両手を身体の前で揃えたまま首を振るダフネ。
そうして彼女は、洗練された足取りで一歩だけこちらへ近付くと、その手に持った荷物をカルムに手渡してきた。
「……?」
渡されたのは背負うタイプの丈夫な鞄だ。
意図が分からず中を覗いてみれば、雑多なモノが入っているのが分かる。数本の水筒と球状の
いずれも、冒険者がダンジョン攻略を行う際の必需品である。
「我が姫に配達を頼まれました」
ダフネが静かに口を開く。
「ご安心ください、中のお弁当は私の手作りです。我が姫も作りたがっていましたが、まさかダンジョン内で食中毒を引き起こすわけには参りません」
「……奇妙な話だな。これでは、まるでダンジョン攻略を強要しているような――」
「いいえ、逆です」
「逆?」
「いくら止めてもどうせあなたは行ってしまうだろうから、最低限の物資はお渡ししておこうと。無理やりユナイトに誘った手前、ここで死なれると寝覚めが悪いので」
深い紺色の瞳でカルムを見つめながら、やや冗談めかして言うダフネ。
「…………」
いくら止めてもどうせ行ってしまう――。
ダフネの、否、元を辿ればスクレの指摘は正しいのかどうかよく分からない。何故ならカルムは自分でも迷っているからだ。確かに、クロシェットは危険なのかもしれない。このままだと最悪の結末に辿り着いてしまうかもしれない。
だが、しかし。
(僕が行って、何が変わるというんだ……?)
――カルム・リーヴルは落ちこぼれの《謎解き担当》だ。
モルソーの罵声がフラッシュバックする。赤の他人に何を言われても全く気分を害さないカルムだが、それはそれとして【知識】で魔物を倒せないのは紛れもない事実だ。カルムでは雷光コウモリの一匹すら倒せない。
そんな駆け出し以下の冒険者が、単身でダンジョンへ挑むだと?
(……馬鹿げている)
ぎゅっと右手を強く握る。
それは、カルムにとって久方ぶりの感覚だった。フィーユを失って以来なら確実に初めて、もしかしたら生まれて初めて、カルム・リーヴルは〝自らに戦う力がないこと〟を心の底から悔いていた。
もし自分に、ほんの少しでも力があったなら。……それこそアンやダフネの一割程度でも戦闘系の技能が使えたなら、きっと迷うことなく駆け付けられただろう。だがそうでないなら、死体が一つ増えるだけだ。
「カルムさん……」
不安そうにカルムを見上げるメア。そういえば手を繋いだままだったため、カルムの迷いが指先から伝わってしまったのかもしれない。
そんな中で。
「……?」
対面に立つダフネの方はと言えば、どこか不思議そうな顔をして、紺色のショートヘアと一緒に頭の上のホワイトプリムをわずかに
「何を迷っているのですか、カルム様?」
呆れや挑発ではなく、純粋な疑問。
当たり前の事実を告げるかのように、いかにも涼しげな声が紡がれる。
「表ならともかく、裏なら《謎解き担当》の主戦場です。クロシェット様や私よりも、何なら
「……しかし」
「もしかすると〝謎解きギミック以外〟の心配をされているのかもしれませんが、そちらも問題はありません。……何故ならば」
「何故ならば……?」
「あなたはもう、戦う力を持っているのでは?」
「!?」
ダフネに告げられた瞬間――バヂッ、と。
カルムの中で、眠たげな雷鳴がされども確かに
♭♭ ――《side:クロシェット》――
王都近郊、〈落葉の樹林〉。
世界に何百とあるダンジョンの中では比較的探索が進んでいる部類。広大な森全体が敷地という扱いになっており、視界が悪く魔物からの奇襲を受けやすいこと、戦果を持ち帰るには長時間の
「ん……」
そんな場所を、クロシェット・エタンセルは一人きりで探索していた。
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次話は【1/10(金)20時】更新予定です!全力で急げカルム……!
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次の更新予定
2025年1月10日 20:00 毎日 20:00
【知識】オンリーで謎解き無双 ~無能と呼ばれた謎解き役職、実は世界最強の勇者でした~ 久追遥希@既刊『ライアー・ライアー』など @haruha
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