第4話 「黒猫と黒塚先輩の理由」
放課後、校舎裏の道を二人で歩いていると、一匹の黒猫がゆっくりと道を横切った。夕陽に照らされて艶やかに光る黒い毛並みが美しい。
「黒猫だ」
黒塚先輩が立ち止まり、その猫をじっと見つめた。
座白も足を止め、猫が向こう側に消えていくのを見送りながら、何気なく言った。
「そうですね、黒猫ですね」
すると黒塚先輩が、静かな声でぽつりとつぶやく。
「なんで猫って、こんなに可愛いらしいのかしら」
座白は一瞬だけ黙り込んだが、いつもの冷静な口調で応じる。
「……まあ、仕草とか、ふわふわした見た目とか、そういうのじゃないですか」
「でも、黒猫は特別だと思わない?」
「特別ですか?」
「例えばあの毛並み。全身が黒いことで、どこか神秘的で、他の猫より存在感があるわ」
黒塚は猫が去った方向を眺めながら、微笑む。その表情が妙に柔らかく、座白は少し不思議な気持ちになった。
「それに、黒猫って昔から“魔女の使い”とか言われてきたでしょう?」
「ええ、そういうイメージがありますね」
「でも実際は、ただの猫よ。ただそこにいるだけで魅力的で、人間の心を掴む存在」
黒塚はふっと振り返り、座白の顔をじっと見つめる。
「猫に限らず、人間もそういうところがあるかもしれないわね」
その意味深な言葉に、座白は軽く眉を上げる。
「……いや、それはちょっと抽象的すぎませんか」
「そうかしら? 黒猫を見て『なんでこんなに可愛いんだろう』って思う気持ちと、誰かに惹かれる気持ちは、案外似てるかもしれない」
「……また、よく分からない方向に話が行きましたね」
座白はため息をつきながらも、どこか納得したような気分で歩き出した。
一方で、黒塚は相変わらず猫が消えた方向を見つめながら、静かに続けた。
「でもね、座白君」
「はい」
「もし黒塚夏が猫だったら……君はかわいいと思う?」
その唐突な質問に、座白は歩みを止め、困ったように苦笑する。
「……そうですね。たぶん普通に可愛いんじゃないですか」
「ふふ、それなら良かった」
黒塚先輩は満足げに微笑み、ようやく歩き出した。その足取りは、どこか猫のように軽やかだった。
座白は隣を歩きながら、ふとつぶやいた。
「……本当に、猫みたいな人ですね」
黒塚はそれに気づいたのか気づかなかったのか、ただ静かに笑っていた。
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黒塚先輩は後輩男子をからかいたい てきとう @NishioShin
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