第3話 「電話の雑学と黒塚先輩のささやき」
昼休み、校舎裏の静かなベンチ。黒塚先輩が、いつもの黒いタイツに足を組んで座り、手にした缶コーヒーを時折口に運びながら話し始めた。
「座白君」
「……なんですか」
「電話の声って、本当の声じゃないって知ってた?」
また始まった、と思いながらも、座白はいつものように冷静に応じた。
「……まあ、機械を通すから多少変わるのは分かりますけど」
黒塚は小さく首を振り、意味深な笑みを浮かべる。
「変わるどころじゃないのよ。あれ、実は数千もある声のサンプルから、一番似ている声を選んで合成してるの」
「……つまり、電話で聞こえる声は本人の声そのものじゃないってことですか?」
「そう。言うなれば、“君の声っぽい別人”が喋ってる感じね」
その説明に、座白は目を細めて考え込むように首を傾げた。
「……それって、どこまで本当なんですか」
「本当かどうかは、座白君の心が決めるのよ」
黒塚はまたしても適当な方向に話を流そうとしている気配が濃厚だ。座白はため息をつき、あくまで冷静に対応する。
「いや、そういう曖昧な話をしたいんじゃなくて。科学的な話なら、根拠があるはずですよね」
黒塚は小さく笑い、さらに身を乗り出してきた。
「でも、考えてみて。電話越しの私の声が、実は『私の声じゃない』って分かったら――座白君、どう思う?」
彼女の真剣な目に、一瞬だけ答えに詰まる。だが、座白は慌てずに言葉を選んだ。
「……正直、あんまり変わらないと思います」
「へえ、なんで?」
「だって、先輩が言うことは変わらないですよね。その内容が……こういう妙な雑学とかなら」
その一言に、黒塚は一瞬だけきょとんとしたが、すぐに小さく笑った。
「ふふ、座白君、冷たいけど正論ね」
黒塚は立ち上がり、ベンチの上で一度伸びをすると、夕陽に照らされるような仕草で言葉を付け足した。
「でもね……もし電話越しの声が私じゃないなら、座白君に聞いてほしいことは、もっと違うものにするかも」
「……いや、どうなるとかじゃなくて、何を言ってるんですか」
彼女はそのまま微笑みながら歩き出し、振り返ることなく手を軽く振った。
座白は一人、残されたベンチで小さくつぶやいた。
「……なんでこう、毎回よく分からない話になるんだ」
しかし、その表情は、どこか楽しげだった。
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