03. 交流

 そんなわけで、あたしはギルティナお姉さんと馴染みの酒場に訪れた。

 店主さんやウェイトレスのお姉さん達があたしを睨んでくるせいで、居心地がすっごく悪い……。


「ウチが奢ったるから、好きなもんを頼み!」

「はぁ」


 そうは言われても大食いで失敗した身。

 これからは心とお腹を入れ替えて、腹八分目で済ませるように心がけないと……!


「大食いって噂は知っとるけど、気にすんなって!」

「では、お言葉に甘えて――」


 あたしはメニューを開いて早々、傍にいたウェイトレスさんを捕まえた。


「――マタンゴのヒートチーズ添えリゾットに、デビルスクイッドのテンタクルス焼き、ホーンゴートのラーヴァ煮シチューライスと、西海岸産ビッグボア肉のテリーヌ、それと蜂蜜スライムのフローズンタワー、あとついでにジャイアントモア肉のフライドチキン」

「……こりゃ想像以上の大食いやな」


 ギルティナお姉さんの顔が引きつっているような気がする。

 でも、好きなものを頼めって言っていたし、構わないよね?


 それからしばらくして、テーブルに収まらないくらいの料理が運ばれてきた。


 あたしは料理が来た傍から皿の上のものを口へと掻っ込み、しっかり噛んで喉の奥へと飲み込んでいった。

 計り知れない満足感があたしの心とお腹を満たしていく。


 はぁ~、幸せ。

 あたしの至福の時間はやっぱり料理を食べている時だな。


 皿が空になり次第、あたしは次々と新しい料理を頼んでいく。

 何度目かのオーダーの時、店主さんが出てきて両腕でバッテンを組んだ。

 ……まだ腹四分目くらいなのに。


「よぉ食うなぁ。一体どんな胃袋になってんねん?」

「もぐもぐっ。あたしのお腹は底なしのアビスですからっ」

「けったいな奴や。そやけど嫌いやないで、あんたみたいな奴」

「んぐんぐっ。ギルティナお姉さん、変わった喋り方しますね。どこの人?」

「よぉ言われるで。ここからずっと東の方にあるちまい島国出身や」

「ふぅ~ん」

「聞ぃといて興味なさそうやな」

「それより、どうしてあたしにこんなに良くしてくれるの?」

「あんたのおかげで、あの高名な勇者のパーティーに入れるわけやからな。このくらいの礼はしておかんと、罰が当たるってもんや」

「あたしのおかげ?」

「あんたが格闘士ウォーリアとして前衛でバリバリやっとらんかったら、後任にウチが選ばれることはなかってん。前からどうすれば勇者のパーティーに入れるか考えとったから、今回の件は渡りに船やったわけやで。あんたには悪いけどな」

「リーダーと一緒に冒険したいんだ?」

「そりゃディグ・ロードは由緒正しき勇者の家系やからな。先祖伝来の神聖武装やったか? 本人の実力に加えてそんなもんまで持ってりゃ、まさに剣聖に聖剣(鬼に金棒の意)やんけ。そないな御仁のパーティーなら、リスクも少なくお手軽に冒険者としての名声が得られるやん」

「リーダーが勇者だから、ねぇ。そんなのあたしは考えたこともなかったなぁ」

「やったらなんであんたは勇者と同じパーティーにいたんや。名声が目的やなかったん?」

「あたしがお腹空き過ぎて行き倒れてた時に助けてくれて、前衛が足りないってパーティーに誘われて……それから何年もずっと一緒にやってきたの」

「そうなんや。そない長い付き合いやのに、あっさりクビとかえげつない話やな」

「まぁ、仕方ないよ。あたしが迷惑掛けちゃってたんだし。ギルティナお姉さんには、あたしの代わりにこれからリーダーを支えてあげてほしいな」

「あんた、ええ子やなぁ。お姉さん、あんたの代わりに頑張んで!」


 テーブルの皿がすべて空になるまで、ギルティナお姉さんとはパーティーのみんなのことをたくさん話した。


 冒険者パーティー〈アライバル〉での冒険――みんなとの思い出。

 故郷の村を飛び出して、行き倒れて、リーダーに助けられて、それからあたしの冒険者生活は始まった。

 楽しいことも辛いこともたくさんあった。

 二年半くらいの旅だったけど、その経験はあたしにとって一生の宝物。


 リーダーのディグさん、フィー姉、ルシアさん、マホちゃん。

 追い出されたって、みんなへの恩は忘れないよ。

 たまにはあたしがいたことも思い出してね……!


「ぐすんっ」

「ちょ、いきなりなんで泣いてんねや⁉」

「今までの冒険を思い出したら、つい……」

「さよか。まぁ、まだ若いんやからあんたの人生はこれからや。よその町で養生して、また新しい仲間を捜すんやな」

「うん。頑張る……!」


 そうだ。あたしの冒険はまだ始まったばかり!

 これからもっと素敵な仲間達と出会えることを期待して、新天地へ旅立とう。

 腹八分目で頑張れば、食費で失敗することもないはず!

 やるぞぉ~‼


「ナゾベームのノーズ肉丼おかわりください‼」


 勢いあまってつい追加注文を頼んでしまったところ、店主さんから入り口を指差された。

 ……もう帰れってことかな?


「ははっ。ウチは元気のええ子はめっちゃ好きやで。頑張り‼」


 ギルティナお姉さんのその一言に合わせて、あたしは彼女とジョッキをぶつけあった。

 あたしが飲んでいるのは果汁水エードだけど……。


 そして、解散。

 お店の代金は、約束通りすべてギルティナお姉さんが払ってくれた。

 店主さんはあたしが出ていくまで嫌そうな顔をしていたけど、食材はまだ余っているだろうし経営に支障はないよね?


「ごちそうさまでした‼ リーダー達によろしくね!」

「ああ。あんたも元気でな!」


 酒場の前で、にこやかにギルティナお姉さんとお別れした。


 その翌日のことだった――勇者ディグ・ロード率いる冒険者パーティー〈アライバル〉が、ダンジョンで全滅したことを聞いたのは。

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ダンジョンで拾ったパンが最強のパワーアップアイテムだった R・S・ムスカリ @RNS_SZTK

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