エピローグ

 俺は遅刻することなく後輩の結婚披露宴の会場に着くことができた。どうやら、ループしている間は時間は経過していなかったらしい。


 こんな風に正装して参列者席に座っているものの、俺はその後輩とさほど関わりがあるわけではない。結婚相手となる女性に至っては、顔すらも知らない。「人数合わせ」といったところか。そんなことは間違っても口に出せないが。


「一体どうしたんだ? もう時間過ぎてるだろ?」


 隣の席に座る同僚が、空いている新郎新婦の席に向かってつぶやく。


 どうやら何らかのトラブルが発生したらしく、肝心の主役が二人ともまだこの場に姿を現さないのだ。


「ねえ、あの二人っていつから付き合ってたんだっけ?」

「詳しくは知らないけど、確か高校の同級生だったはずだから、そこからじゃない?」


 そんな状況にしびれを切らしたのか、近くのテーブルに座る二人組の女性が会話を始める。多分、新婦の方の友人だろう。


「私が聞いた話だと、通学途中にぶつかって知り合ったとか」

「何それ? そんな漫画みたいな出会い方って実際にあるの?」


 ……どこかで見たような、エピソードだな。


 その時、会場の扉が急に開いた。俺を含む参列者達の視線が一点へと集中する。


「いっけな~い、遅刻遅刻~!」


 俺達の目の前に現れたのは、純白のウェディングドレスをまとった新婦だった。どこかで聞いたような言葉を、その口から発している。


「まだ出ないでください! 旦那さんの準備が終わってないので!」


 会場のスタッフに注意されて、彼女はUターンして扉を閉め、その姿を消した。


 ……あまりにも、似ている。


 「あの食パン女子高生」と「後輩の結婚相手」は、うりふたつと言っても差しつかえなかった。より正確に表現するならば、前者が十歳くらい年をとったら後者になりそうな感じだ。


 よく似た姉妹か? でも、ここまでしゃべり方が同じになるものだろうか。耳にタコができるくらいあのセリフを何度も聞いてきたんだ。同一人物じゃないと割に合わないと思う。


 そこで、俺はある一つの可能性に思い至った。


 俺が過去にタイムリープして、「高校生時代の新婦」にぶつかったんだ。


 そうなると、あの後彼女と交差点でぶつかった男子は、「高校生時代の新郎(俺の後輩)」ということになる。


 あまりにも突飛な発想だが、あんなことを体験した後では、納得してしまいそうになる。さっきまで新婦がいた扉の辺りを見つめながら、俺はそんなことを考えていた。


 あと、もう一つ思うことがある。


 ……大人になっても、遅刻癖は治らないらしい。

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食パンダッシュ女子高生 ~接触注意~ DANDAKA @dandaka

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