先のいつか:昼下がり:直原ユミ

 伯母さんに見つかると大目玉を喰らうので、ユミは下校時に友人と別れた後で、自宅のある神社へ上がらずこっそり一人でここまで来た。『私有地』と書かれていても気にしない。伯母さん以外に怒られたこともないので、構わず柵を乗り越える。

 目的地までは小学校三年生のユミの足では三〇分ほどもかかった。綺麗に掃除されたお社の中から木製の樋が突き出し、綺麗なお水が流れている。お社の奥には艶やかで大人が抱えるほども大きな『石』が置かれている。

「こんにちは」

 もちろん、石は言葉で返すことはない。しかしユミには、こんにちは、と返されたような気がしている。

「お水、ユミにもくださいね」

 ぜひどうぞ、と言われた気がしてユミは水筒を樋の下に差し入れる。これも、伯母さんには絶対内緒だ――このお水を飲むと、いじめっ子のけんちゃんはちょびっといじめを止めるのだ。らんぼうものの小糸くんは明るく大きく笑うのだ。

 とぽとぽと水が溜まっていく。その音に合わせてユミは、『石』がうたっているように感じている。遠い場所からやってきておおきな一つになるのだと。思い出をみんなに知ってもらって、この場所にずっといるのだと。こどもをつくりこどもは世界にひろがっていく。ひろくあまねくどこまでも。

 ユミには正直よくわからない。だけど嫌じゃないなと思うようになっている。みんな仲良し喧嘩はしない。みんな同じお空の下で、なかよくずっと暮らして行く。

 ずっとずっとユミが死んだずっと後、お日様が全てを飲み込んでしまうその日まで。

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隕ふるスケルツォ 森村直也 @hpjhal

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