彼女の過去
白川津 中々
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中途で入った女が元セクシー女優だと噂になっていた。
なんでも摘発された事のあるレーベルと過去専属契約しており、かなりエグい撮影もあったそうだ。噂が広まると男は色めき立ち女は軽蔑の視線を彼女に向けていた。一部「興味ない」「どうでもいい」とフラットな姿勢で接する人間もいて俺もその中に属していたわけだが、やはり心の中では"あわよくば"という非常に気持ち悪い欲望が首をもたげていた。プロとして活動していたんだからそんな発想は失礼だろうと思う自分と、プロだったんだからそんな目で見られるのは覚悟していただろうと正当化してしまう自分がいた。どちらにしろ邪があるわけで、俺も本質的にはその辺の男連中と変わりがない。残念だが、リビドーに抗えないのである。
そんな俺と彼女が二人きりで会社に残る事となった。社員の一人が紙媒体で記録していた頃のデータを消してしまったため、再度スキャナーで取り込み整形する作業を任されたのだ。
人選は上司の采配だった。中途である彼女に仕事の機会を与えるのが目的だろうと推察される。そして、真面目で彼女に対して差別意識もないという風を装っている俺がアシスト役に選ばれたのだろう。なお、データを消した張本人は風邪で欠勤していたが恐らく虚偽である。無責任甚だしい。
終業後、二人で事務的な会話を挟みながら取り込みとデータ整形を行っていく。静かなオフィスに、機械音が響く。そんな中、これはもしかしたらという勝手な妄想が俺の脳内で再生される。自身の下衆が浮き彫りとなり自己嫌悪するも、止められない。彼女のスカートから覗く足を、引き締まった腹を、丸みを帯びた胸を見ると、頭に血が上り、衝動が走る。
「あ、もうすぐ終わりそうです」
彼女の笑い声に「よかったです」と返す。俺の不埒な考えが露見してはいないかと不安になるも、すぐにスキャナーへ向き直したあたり、不信感は与えていないようだと胸を撫で下ろす。
終わったら、食事でも誘おうか……
馬鹿な考えだ。その後どうするのか、しっかりと想像してしまっている。
「終わりました」
彼女の声で我に帰る。笑顔が眩しく、罪悪感に駆られる。
「お疲れ様です。じゃあ、後はやっておきますので退勤していただいて大丈夫です」
「いいんですか?」
「はい。小池さん(上司の名である)への連絡もしておきますので」
「すみません、ありがとうございます」
その後、簡単な会話をして彼女は退勤。互いに「お疲れ様でした」と言って別れた。
一物の後悔を残し、昂まりを抑えられなくなった俺は女優時代の彼女の名前を検索してデジタル商品を購入。仕事を終わらせて帰った。明日は、彼女の顔をまともに見られないだろう。俺は、最低な人間だ。
彼女の過去 白川津 中々 @taka1212384
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