砂の女を初めて通読したときに思ったこと
結論から言おう。
手のひらいっぱいに掬った砂が指の隙間から一瞬でサラサラと落ちてしまった感覚を味わった。
奇想天外とかどんでん返しといったオチありの大衆文学に慣れていると、こういった純文学作品に出会ったとき、どうしても有りもしないオチをつい想像してしまう。
純文学とは基本的にオチなしで大半が事態が悪化、またはプラマイで一直線の出来事に区間を設けそれを切り取ったようなプロットが多い。
この作品は【他人の顔】【燃え尽きた地図】に並ぶ失踪三部作の記念すべき第一作目がこの【砂の女】である。何故失踪なのか、その基準は当事者本人が不本意あるいは理不尽な状況下に置かれても当初は解決に奔走、以前の状態への回帰を試みようとするも悉く打ち砕かれ、八方塞がりの中、なんとか妥協に漕ぎつこうとした結果、それが落ち着いたとき既に自身の社会的存在は消滅してしまった。と作中で公言或いは失踪届の受理(本作)という直喩が確認可能であることである。
個人的には砂の女よりも次作の他人の顔がコンセプトとして面白く、近年の夏気温かと思うほどの過熱な整形手術ブームに一石を投じた社会派文学作品であり、近いうち感想を投稿したい。
さて主人公についてだが、趣味は昆虫採集で、いつか新発見した虫の学名に自分の名前が採用されて欲しいという、ちっぽけに見えて案外に名望家な男である。彼はいまで言うオタク(独自解釈)なのだが、どこかインテリを感じさせるのは本職の中学教師なのだろうか。
作中でのお気に入りは主人公が村から逃げる場面である。その逃亡劇の結末は、逃亡中砂に飲まれ来たる死を感じた主人公は情けなく助けを求め、追っ手の村人たちに救助されるというまさに不条理の極みといえるのだが、その時の彼らの優しさに主人公は精神を破壊されていく描写は背筋を大いに震わせた。
………といった感じで、この作品は人生(20代)で読むべき本100選に入る。是非書店で買い求めていただきたい。この本を以て純文学のゲートウェイとなれば幸いである。
安部公房についての一考察 紅林ミクモ @kurebayashi-mikumo
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