side:シリウス
仲間に裏切られて刺されたら、フェンリルに助けられた。
シリウスは、冒険者協会に所属する冒険者だ。
その実力は一流。決して誰ともパーティーを組まず、ソロでの活動を貫く、実力派。
有名なのは実力だけではない。彼の容姿を例えた言葉は沢山ある。闇夜の暗殺者だとか、黒の夜叉とか。本人は全く気に入っていないらしいが。
彼は男らしい美形だった。黒い髪、細い眉、黒い瞳、高い鼻、赤い薄い唇。すらりと手足が長く、胸板が厚い。悪魔のようだと言ったのは誰だったか。
そんな彼だが、柄にも無いことをしたのがいけなかったのだろうか。気まぐれにパーティーを組んだ相手に、任務の最後、魔物を倒した瞬間後ろから刺された。普段ならそんなヘマはしない。何故あの瞬間油断したのか、今でも分からない。兎に角刺された後、トドメを刺そうとしてくる奴らを掻い潜り、森に逃げたはいいが血が止まらない。
「(……このままだとやばいかな)」
自分のことながら笑えてきた。いや、全く笑えない状況なのだが。湧いた雑魚魔物を斬って、座り込んでいると視線を感じた。敵意は感じなかったが、一応警戒する。
なんと出てきたのはフェンリルだった。竜と同じく、怒らせれば国一つ滅ぼすと言われている伝説の生き物。この状況で勝てるか分からない。今日はとことんついてない。
だがフェンリルは、俺を攻撃するどころか背中に乗れと言ってきた。いや、言ってはないが、何となく分かる。そのまま俺を背に乗せて、森の外まで連れて行った。撫でると喜んで尻尾を振る。まるで普通の犬のようなフェンリルだった。
俺はその後、近くの家の住人に助けてもらい、無事生還した。傷を直し、久しぶりに冒険者協会の扉を開けると、驚いたような目で見られた。奴らが俺を殺したと触れ回っていたらしい。そして奇妙なフェンリルの噂も。そのときのメンバーの一人をとっ捕まえて、事情を聞いた。
あの人懐こそうなフェンリルのことだ。善意で森に迷い込んだ人間を送り返してやってたんだろうが、そりゃ密猟者共の格好の的だ。
ほら、怪我してやがる。
奴らを追っ払って、案内された湖で取り敢えず応急処置をし、さてこいつをどうしようかと思ったとき、服を咥えて引っ張られた。
フェンリル、ルーカスは一匹でこの家に住んでいるのだという。この家やべぇ。ゴリゴリに魔術が掛けられてある。若しかして噂の「魔女の小屋」か?俺が椅子に座ると、瞬時に食事が出てきた。もう笑うしかない。ルーカスは嬉しそうな顔して俺を見てるし、取り敢えず食った。美味かった。
手のひらに頭を擦り付けて、ルーカスが撫でろと言ってくる。俺はワシワシ撫でてやる。その日はそのまま帰ったが、何か後ろ髪を引かれる。
「あいつとは長い付き合いになる気がすんな。」
宿屋で俺は呟いた。
銀の狼と黒の騎士 初瀬:冬爾 @toji_2929
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