惑星

大星雲進次郎

惑星

「はぁ?「勝手に惑星シリーズ」?」

 若手編集者ザンジばるすっとんきょう・・・・・・・な声を上げた。

「ええ、昨日ふと思いついて!」

 若手作家の大星雲は19本ある触手のうち、「執筆腕」と呼ばれる第1腕を興奮でウネウネ動かし、昨夜降りて来たアイデアを披露した。

 見るからに人外なのだが、ザンジ原の出版社は作家の出自を気にしない。売上が延びるのであれば、人外、異星人、ゆるキャラ、何でも来たれ。日本語が操れるならば来る物は拒まず。

「太陽系の各惑星を擬人化して、SFかつラブコメを目指す?」

 世は大擬人化時代!旧時代の戦闘艦艇から競走馬、各時代のエアコン、何でも来たれ。ただし美少女に限る。

「そうなんです。まあ、今までにも惑星の擬人化は数多くされてきたけど」

「確かに、すぐに思い出すものでも3作品はありますね」

「しかしそのどれもが美少女がキャッキャするだけ。人気の源はストーリーよりイラストレーターさんの力によるものだと思うんです」

「そうでしょうか?壮大な転生ラブストーリー物もあったような……」

「ただし美少女戦士バイブルは除く!」

 大星雲は第2腕と第4腕と第6腕と第10腕の先端を光らせて力説する。この組み合わせの意味は、何だっけ。

「まあ、降りて来たのはそれだけなんで、ラストはどうしようかなと」

「そうですね。着地点は重要です」

「実は二つに絞り込んであって。17人全員でソルに戦いを挑むか、プロキシ魔ケンタウリからシステムを守るか。この場合第11惑星、第12惑星が死ぬんだけど」

 聞いたことないな。

 ザンジ原は自分が知っている太陽系の惑星の数と違うなと思った。仕事柄、その辺りは間違えないハズなのだが。

「先生、ちょっと追いついていけません。舞台は太陽系なんですよね?」

「いや、擬人化なんで予備校ですよ?あくまでも太陽系をモデルとした擬人化小説なんですから。第1と第2のアステロイドベルトの子達はいわゆるモブですけどね」

 大星雲はケラケラと笑った。

 疑問に質問したら別の疑問が湧いたぞ。ザンジ原は混乱を深めた。

「え~っと、17人って事は、オリジナルキャラが9人?」

「いえ、オリジナルは出さない方針です」

「先生、失礼ですが、惑星を内側から順に言ってもらえます?」

「はぁ」

 認識の違いは、早いうちにすり合わせておくことが肝心だ。

「水星、金星、地球……」

 順調だ。

「ヤハウ……」

「ストップ!ストップです!」

 仕事柄、そちらのヤベェ方もインプット済みだ。

「つ、続けて下さい」

「びっくりした。えっと……次は、火星、ケレス、木星、土星……」

 ああ、それも入るのね。だとすれば数に納得できる。色々と言われるだろうけど。

「それで、完全に僕の趣味なんですけど。主人公は木星の子にしても良いですかね。マコちゃんって言うんですけど」

「そこは先生の作品ですので……ただ名前にはチェックが入ると思いますよ」

 何事もオマージュが過ぎれば単なるパクリだ。商用では気をつけなければならない。ザンジ原は強く思った。

 大星雲のカウントは続く。

「……エリス、セドナで17人!」

 まあ、大騒ぎになるほどでもないとザンジ原は判断した。カロンを入れる辺り、分かってるな!とコアな読者の心にも響くだろう。でもヤハウ○はアウトだ。

「じゃあ、もう少し詰めたら、編集長のところに持って行ってみますね」 

 大星雲はあからさまにホッとした様子だった。小ヒット作を何作か出せたとはいえ、まだまだ駆け出しなのだと自覚はある。まずは編集者に興味を持ってもらわねばならないのだ。

 一息ついて、大星雲は大事なことに気が付いた。 

「あ、ごめん18人でした!ニビルを抜かしてた」

 ザンジ原は恐怖した。


 いろいろ問題はあるが、とりあえずアイデアを持ち帰り、編集長に相談することにした。

「ニビルか懐かしいね~」

 編集長はまるで見てきたかのように、ニビルの様子を懐かしそうに語るのであった。

 ただ、ラスボスには注文が付いた。

「ケンタウリはダメだよ、外交問題になりかねない。そうだな、やはりテンプレのシリウスに変えてもらえないか先生に確認して」


 かくして、「勝手に惑星シリーズ」は世紀の大ヒット作となり、作家大星雲は一つのジャンルで一時代を築くことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

惑星 大星雲進次郎 @SHINJIRO_G

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る