しゅらららば07/自宅と幼馴染み



 喪われた過去を探すと決めたカケルであったが、調査の結果は芳しくなかった。

 事故現場の住所を聞いても、どうして其処に行ったのか誰も知らないし分からない。

 リラが其処に行った理由は、どうもカケルが歩いて行った気がするから。


(堂々巡りしてしまった……、全て俺が原因なのに肝心の記憶がなぁ……、何か手がかりがあればいいんだけど)


 手掛かりゼロでの帰宅後、カケルは自室にて何かないかと見渡してみたものの特に変わった事がない。

 夕食前のみならず、夕食後、念のために日付が変わる瞬間まで探してみたが、事故の前と己の部屋に良くも悪くも変化などなく。


(明日は祝日で休みだから、まだまだ探せるけど……)


 カケルは己の部屋を見て、少しばかり途方にくれた。

 気合い入れて家捜しした割に綺麗に整っているのは、そもそも年頃の男子としては物が少ないからだろう。

 ――本当にそうなのか?


「何かがおかしいと言われれば違和感はあるんだけど……」


 この違和感も事故に関係しているのだろうか、しかしカケル一人ではこれ以上できることがなく。

 ならば今宵はもう。


「………………寝るか、風呂は明日の朝入ろう」


 という訳で、彼はパジャマに着替えてベッドに入ることにしたのだが。

 五分後である、――がららら、と窓の開く音が。


(――――おい、おい?? こんな時間にか???)


 続いて、んしょっ、と聞き覚えのある透明感のある声と、とん、と床に降りた音。

 カケルの部屋は二階だ、深夜ゼロ時をすぎ窓から入ってくる者なんて泥棒か或いは。


「俺寝ようとしてたんだけど? せめて電気つけろよキョミ……」


「ちょっ、ちょっと待ったっ、まだ、まだ心の準備する時間が――」


「なんだよそれ、用があるなら聞くから電気つけるぞ。そういえば窓から直接くるのも一年ぶりぐらいか? 久しぶりだ…………な???」


「っ!? ~~~~ぁ、ぇ、うぅ、その…………カケルのえっち」


「……………………………………どういうコト???」


 カケルは困惑した、何故ならそこには。

 ――肩までのおかっぱ黒髪、いつも通り。

 ――上半身、不思議なことに肌色多めというか服を着ておらず。

 ――下半身、ズボン、スカート、パンツや靴下という概念を忘れてしまったようで。


「なんで全裸なんだ?? 風邪引くから服着ろよ俺のでもいいからよ」


「もうちょっと反応ないの!? 乙女が夜中に素っ裸で忍び込んでるんだよ!!」


「あー……、肌綺麗だよな??」


「ありがとう! でも疑問形で言わないでっ!! っていうかせめて照れるとかしてよっっっ!!!」


 少しばかり小ぶりなおっぱいを右手で隠し、左手で股間を隠しながら全裸のキョミは顔を真っ赤にして怒った。

 その赤さは恐らく羞恥もあったであろうが、カケルといえば比較的どうでも良いことである。

 それより。


「風呂上がりに来るのは止めないけどさ、ちゃんと体は拭いたのか? 濡れた手で俺の漫画さわんじゃねーぞ。つか俺の漫画返せよ、殆どお前の部屋にあんじゃねーか」


「カケルの物はあたしの物ってね、っていうかカケルも勝手に取りに入るんだから…………じゃなくて! 風呂上がりでもなくてぇ!」


「あ、もしかして寒い? なら暖房入れるけど」


「分かってて言ってる??? 分かってて言ってるなら殴ってもいいよね???」


「お前、リラに毒されてない??」


 リラの気持ちに気づかなかったとはいえ、カケルはそこまで鈍ちんという訳ではない。

 だからこそ、分からないのだ。


「なぁキョミ、なんで夜這いなんてしに来たんだ? お前って俺のこと好きでも愛してもいないだろ、あるのは幼馴染みとしての友情とかそーゆのだけだろ?」


「ああ、そこは理解してくれてるんだ」


「何年幼馴染みやってると思ってんだよ、ガキの頃にお互いを恋愛対象に見れないよなってなって、それにお前は――」


 その続きを口に出していいか、カケルは迷った。

 個人の性的趣向をどうこう言うつもりはない、否定する気もない。

 ないが、気軽に口にしてもいいのかと。


「――女の子の方が好きで、愛する対象も女の子って、簡単に言葉にしないカケルちゃんの気遣い好きだよ」


「ありがと、……んで、そんなお前が夜這いって趣味でも変わった? いいや違うな、リア大好き人間でデフォルメ人形まで作っちまうキョミが俺が好きだからって夜這いにくる訳ないよなぁ? 何しにきやがったテメェ」


「セフレになって欲しくて、って言ったらどうする?」


「……」「……」


 目的が不可解すぎると睨むカケル、羞恥心に頬を赤く染めながらも挑発的な態度で胸を張るキョミ。

 お互いを理解し合っている故に、そこに甘い空気や淫靡な空気など一切なく。

 故に。


「スマン、あと3カップおっぱい成長したら言ってくれ」


「はぁ……やーっぱりそう言うんだ。カケルちゃん巨乳好きだし、いくら可愛くても美しくても、自分一人で生きていけるような子はセフレすら考えないよね、そこがカケルちゃんの良いところではあるんだけど…………」


「けど?」


「今日はそうは問屋が卸さないッ! なんとしてでもセフレになってもらう!! おらぁ脱ぐんだよ勃起しろおおおおおお!!!」


「リラならともかくお前に力負けしねーからっ! そぉいっっっ!」


「ぎゃふーっ!? ちょっとぉ! 女の子はもっと繊細に扱うべきでしょーがっ!!」


「だからベッドに投げただろ、つーか股おっぴろげのままだぞ、女の子言うなら閉じろ」


「ッッッ!? このバカっ! 変態!!!」


「お前が全裸で夜這いに来たんだけどぉ???」


 なんという理不尽、確かに透明感のある清楚な美少女なキョミの全裸となれば目に嬉しいし。

 夜這いに来たとなればエロティックにも見えてくる訳でもあるが、しかし、今のカケルにとっては特段嬉しいことでもなく。

 彼はため息をひとつ、ジト目を彼女に向けた。


「――はぁ、どーせリラを取られたくないから先に俺を寝取ろうって腹だろ?」


「あーあ、カケルちゃんが下半身おバカだったら上手くいったのに……やっぱり無理だったかぁ」


「キョミお前ね、成功してもリラに恨まれるだけだろ? 親友なら応援するのが普通なんじゃ??」


「もちろん応援もするつもりだよ? でも……リラにカケルちゃんは絶対に似合わないから万が一を考えてアタシの体で繋ぎ止めておこうかなーって、そっちの方がバレた時に面白いし!」


「お前さぁ……、その方が面白いからって最悪の方向へ舵取りすんの止めない???」


 そういう所がキョミが美少女だっていうのに、まったくモテない理由の大きな要因だ。

 幸いにして彼女が同性しか愛せないという事は誰にもバレていないが、邪悪な悪戯っ子の側面が男子の評価が低い原因でもあって。

 まったくこいつは……とカケルが呆れた顔をする一方、キョミは失敗しちゃった事はしかたがないとクローゼットを漁りはじめ。


「Tシャツ借りるねー、洗濯しとくから勝手に取りに来てよ」


「あいよ」


「…………あれ? ねぇカケルちゃん、Tシャツ半分ぐらいに減ってない? 古くなったから捨てた……違うな、見覚えのないのもあるし、減ってるのは古いのも新しめのも混じった感じ?? ――本当に泥棒にでも入られた?」


「は? 何だそれ知らないぞ??? マジで言ってる? Tシャツ減ってんの!? 全然気づかなかったんだけど!?」


 キョミの発見に、カケルは目を丸くした。



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罰ゲームの告白を断ったら、急にモテ始めて修羅場ってる件 和鳳ハジメ @wappo-

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