宴会前に
「ギェェ……」
死にかけに慣れてきたのか、今回は日が暮れる前に起きる事ができた。
「あ、チビタ起きたんだ」
「最初からああいう戦い方してくれればよかったのにぃ」
そうだね。子供相手ならガチバトルでも死にかけたりしなかったろうし、ビビり過ぎてたわな。ワンチャンそこで倒れていれば、大人達の戦いに連れ出される事もなかったろうし。
それで、今は何の時間? まだ祭りの会場にいるから、祭りの最中だってのは分かるけど。
「戦いの後は宴だよ!」
「すんごいご馳走いっぱい食べれるよー!」
「今年うちの村は全勝だったからね」
「一番良いお肉貰えるんだって!」
やっふー!と喜ぶ双子ちゃん。
肉は俺も嬉しい。なんせ大怪我で血が足りていないんでね、補充せねばなるまいよ。ジュルり。
「……むぅ」
「ギ?」
視線を感じて振り向いたら、ムスッとした表情の子……たしかクロミちゃんだったかな? にジト目で睨まれていた。
「何かご用で?」
「……なんでちゃんと戦ってくれなかったの?」
そう言われてもね、魔法なしだと生存優先でああなっちゃうのよ。
「なら魔法ありで戦って!」
「えー……」
怪我は治ってるけど、血反吐大量に吐いた後なんですが?
「いーじゃんチビタ、戦ってあげなよ」
「そーだよチビタ、付き合ってあげなって」
「ギィ……」
ったく、他人事だと思って適当言いやがって。こっちも疲れてるからさ、せめて後日とかにならない? 万全の状態でやり合おうよ。
「そうだ! タダで戦わせるのもかわいそうだしさ、チビタが勝ったらエッチな罰ゲームね!」
「うんうん、怪我人に挑むんだからそのくらいのリスクは当然だよ」
ちょっと双子ちゃん? 君達、いきなり何を言い出してるのかな?
「なっ⁉ なんでそんな事しなくちゃいけないの! てか、あんた達関係無いでしょ!」
「関係ありますー!」
「チビタはうちの子だもんねー!」
「それにさ、負けなければ良いだけじゃん」
「あれれー? もしかして自信無いのかなー?」
「はぁ⁉ そんな訳無いし! エッチな罰ゲーム? 別に勝つからそれでいいし!」
えぇっ、いいんだ……。
いや、大人しく断りなよ。これで俺が勝っちゃったら、まるでエッチな罰ゲームの為に本気出す変態みたいに見えるじゃないか。
俺はロリコンじゃないんでね、そういうのはもっとおっぱいボインボインなオネーさんとかとしたい。内容そのままで5、6年後にってならんもんかね。
「ほら! あっちに空地あるからそこで戦うの!」
「ギィ……」
拒否権はないみたいだ。
仕方がない。飯を食い損ねたくはないからな、さっさと終わらせてやるぜ。
「わくわく」
「ドキドキ」
「なんであんた達までついて来てるの⁉」
「罰ゲーム見たいだけだから気にしないで」
「そうそう、邪魔は絶対しないから。あっ、スタートの合図もしてあげるよ!」
「私が負ける前提なのがムカつくんだけど……」
双子ちゃんの相手を諦め、クロミちゃんが戦闘モードに切り替える。魔力の揺らぎが感じ取れるので、既に強化を使用しているな。
「準備はいい?」
「それじゃあ始めっ‼」
「シッ!」
スタートの合図と同時に、クロミちゃんが加速し迫る。さっき戦った時も思ったが、なかなかのスピードだ。
おそらくこの子は雷鳴態寄りの強化が得意なんだろう。速さはあるが、しかしその分一撃の威力は低い。
「やっ!」
「ギ」
こっちも強化していれば、難なく受け止められる威力だ。
「せっ、はっ!」
何発か攻撃を受けた感じ、うちの村の子の平均よりは強そうだな。
ホーク君や双子ちゃんみたいに、
「うんうん、余裕だね!」
「どんな罰ゲームにするのかな?」
くっ、手を抜こうにも普段から
各なる上はドロー狙いだ。宴の料理がちゃんと残っているか心配だが、時間を掛けてダブルノックアウトを狙うしかない。なーに、血は足りてないんだ。このまま戦い続けていれば、そのうち貧血でぶっ倒れるさ!
「わっ⁉」
狙いの甘い突きを掴んで投げる。やっべ、ついいつも子供達と遊んでる時の癖で無意識に決めに行ってしまった。急いで手を離したおかげで、地面にそのまま叩きつける所まではいかなかったが、いきなり攻防が入れ替わったのは結構な衝撃をクロミちゃんに与えただろう。
「あー惜しい! いつもならあれで勝負決まってたのに!」
「むぅ。チビタ、今自分から手を離してなかった?」
「そう? チビタも疲れてるからそれで離しちゃっただけじゃない?」
「怪しい……チビター、手加減しちゃダメだからねーっ!」
「ギ、ギィ」
ふぅ危ねぇ、さすがに今のは露骨過ぎたか。手を抜いたのがアオメちゃんの方にバレる所だったぜ。
「……」
「ギ……」
うっ。観戦しているアオメちゃんが気付きかけたのだから、実際に戦っているクロミちゃんにはバレて当然か。額に青筋浮かべてこっちを睨んでいる。
「チッ」
舌打ちをするとすぐに組み付いてきた。これまで打撃しか使って来なかったので、不意を突かれて躱せずに組み伏せられてしまう。そして双子ちゃんには聞こえないだろうドスの効いた小声で耳元に囁かれた。
「手加減するとかさ……そんなに私にエッチな事したくないって訳?」
「ギィ⁉」
そう受け取っちゃったの⁉
手加減に怒るのは分かるけどさ、そこは喜ぶべきなんじゃないか⁉
ハッ! しまった、まさかゴブリンが手を出さない程魅力が無いって脳内変換したのか⁉ いやいやだとしてもちょっと冷静になろうよ! ゴブリンにエッチな事されるんだぞ? 絶対嫌でしょう⁉
「ふん!」
「ヒエッ」
ちょっ、何故俺の服をひっぺがす必要が⁉ 落ち着け、落ち着くのだ少女よ! 君は今、一時の怒りに身を任せてとんでもない事をしでかそうとしているぞ⁉
「キャー! クロミちゃんってば大胆過ぎぃ!」
「まさか自分から押し倒すなんてね!」
見てないで止めようぜ⁉
こ、このっ! 体格さのせいで上から抑え込まれるとはね除けられない! い、イヤーッ‼ レーティング壊れちゃうぅ‼
「こんな所にいたか。クロミ、もうすぐ宴の時間、に……」
ら、ラモン戦士長! 間一髪、いい所に来てくれたぜ! さあ、言葉を失ってる場合じゃないぞ。ビシッと叱っちゃってくだせぇや!
「……」
「……こ、これは違くて!」
「……普通、逆なんじゃないか?」
分かる……それは分かるんだけどさぁ。再起動した脳で必死に捻り出した言葉がよりによってそれかよ‼ それでいいのかアンタ⁉
ちなみに双子ちゃんは声が聞こえた時点で逃げていった。あの愉快犯共め……。
鬼人の子? だと思ったらゴブリンでした。俺はまともな生活を手に入れるぞーッ‼ 牡羊座の山羊 @ohituzizanoyagi
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