〈第6話〉血に染まった雪……

 ────???

 

 雪……。

 雪が降っている……。

 雪は嫌い……。

 寒いから……。

 嫌なことを思い出すから……。

 雪を思い出すから……。

 "血に染まった雪……"を思い出すから


~>゜~~


 9月7日白崎高校────放課後


 キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン


 「さてさて、今日も一日が終わりましたっと。佐々木帰ろうや」

 そう言いながらいつもの3人組が帰り支度をして俺の席までくる。


 「うん、帰ろう帰ろう。勘九郎は今日も部活?」

 3人に倣って鞄に教科書とノートを詰め込み帰り支度をし、斜め前の席の勘九郎に声を掛ける。


 「当たり前じゃ、秋大会は絶対に優勝せにゃならんからな」

 勘九郎は自分を奮い立たせ言い聞かせるように、俺達に言ってくる。


 「そっか。それじゃ悪いけどお先」

 「勘ちゃん、また明日」

 俺達4人はそれぞれ勘九郎に別れの挨拶をして教室から出ていく。


 「あ、俺図書室に寄りたかったんだ」

 教室を出たところで俺は図書室に用があることを思い出す。


 「あれ、そうなん?俺達先帰るけど大丈夫?」

 「うん、いいよ、それじゃまた明日な」

 俺は3人と別れ、図書室へ向かう。


 (えっと、図書室は確か3階の渡り廊下通って左奥だったよな……)

 俺は校内の地図を頭の中に思い浮かべ、自分の記憶を頼りに階段を昇って図書室を目指す。


 (お、あった)

 迷うことなく図書室に辿り着いた俺は、静かに戸を開ける。

 生徒は数名いるが、誰一人喋っている者が居ないせいか室内は静まり返っている。

 最近は電子書籍が普及して検索を掛ければ一発で目的の本が見つかる。故に本棚から目的のものを探すことも最近は少なくなってきているのだろうが、俺は敢えて自分の足で目的の本を探すことにしている。

 というのも紙の本の匂いが好きだし、紙媒体の本は読み終わった後に、達成感?見たいなものがある。

 とはいっても今日は特に目的の本があるから来たわけじゃない。

 家で時間潰しに読む本で適当なものがないか探しに来ただけだ。



 しばらく本を物色していると、背伸びをして高い位置にある本を取ろうとしている女生徒が居た。

 俺は近くまで寄ってどの本を取ろうとしているのか女生徒の後ろから確認する。


 (これか……?)

 俺はおそらく女生徒が取ろうと思っている本に手を伸ばす。

 俺が本をとると、女生徒が「あっ」と小さい声を出す。


 「これで合ってる?」

 取った本を女生徒に見せる。


 「あぁ~……、えっとその隣……」

 女生徒が申し訳なさそうにそう言うと、間違えた本を取ってしまい俺は少し恥ずかしくなり、今手に取った本をもとの場所に戻し、その左隣の本を取って上げる。

 後ろから見ていてこの本に手を伸ばしていたように見えたんだがなぁ。


 「こ、これで……合ってる?」


 「え、えっと、ごめんなさい。さっきの本の右隣……」

 一度ならず二度も間違ってしまった自分が落ち込んでしまう。

 格好をつけて親切に取って上げていた訳じゃないが、二度も間違ってしまうと恥ずかしいものがある。


 「こ、これ……ね?」

 俺は女生徒が言った本を手に取り、今度こそ女生徒に手渡す。


 「ありがとう。佐々木君」

 女生徒は俺にお礼を言って、差し出された本を受け取る。


 「あれ?俺名前言ったっけ?」

 名乗ってないはずなのに女生徒が、俺の名前を知っていることが不思議に思いつい聞き返してしまう。


 「あ、えっと、同じクラスの山本早苗やまもとさなえです」

 そう女生徒は自分の名を名乗る。


 「同じクラスだったのか……。ごめん、まだ皆の顔と名前覚えられてなくて……」

 俺は同じクラスの男女の名前をまだ全員覚えてはいないのは事実。

 だが目の前のクラスが同じと言う女生徒、早苗に失礼だったと思い俺は謝罪をする。


 「いいよいいよ、佐々木君転校してから日が浅いし、皆自己紹介してたわけじゃないから」

 そう言って早苗は俺をフォローしてくれる。


 「それより、本取ってくれてありがとう。踏み台が見つからなくて困ってたの」

 改めて早苗はお礼を言ってくる。


 「2回も間違えたけどね……」

 俺の言葉を聞いて、早苗は思い出し笑いを浮かべる。


 「それにしても……、すごい量の本だね」

 俺は早苗の抱えている本の束に視線を向ける。


 「あぁ、うん。一週間分かな」

 「い、一週間分!?」

 早苗の返答に俺は驚き、思わず大きな声が出てしまい咄嗟に手で口を閉じる。

 確かに言われてみれば7,8冊はありそうな量を抱えている。


 (一日に1冊読むペースか……)

 俺も自分で本を読む方だと思ってはいるが、それでもい冊読み終わるのに一週間はかかってしまう。

 早苗は所謂文学少女ってヤツなのか。


 「佐々木君はどんなジャンルの本読むの?」

 「ん~、ジャンルとかは別に気にしないなぁ。それこそ恋愛小説とかだって読し。あ、そうだ、山本さんのおすすめの本とかあったら教えてよ」

 適当に本を物色して帰ろうとしたが、思いがけず文学少女の早苗に出会い、おすすめの本を教えてもらう事にした。


 「ん~、そうだなぁ……。伝記とかは?」

 早苗は少し考えこみ、伝記系の本を勧めてくる。


 「伝記?」

 「そうそう。こっち」

 そう言って早苗は俺の前を歩き、伝記のある本棚を案内する。


 「ここ」

 案内された先には、色々な伝記の本があった。

 俺は確かに伝記も悪くないと思い、本の背表紙を眺めていく。


 「ありがとう山本さん。ちょっと面白そうなの探してみるよ」

 「うん、お役に立ててよかったよ。それじゃ私貸出の手続きして帰るね」

 俺が案内してくれた早苗にお礼を言うと、役に立てたことが嬉しかったのか満足そうに微笑み、貸出・返却口の方へ向かっていく。

 早苗が立ち去るのを見届けた俺は、本棚に目を戻し、背表紙のタイトルを視線で追いかける。


 (う~ん、どれにするかな)


 「あれ、小太郎?」

 どれにするか悩んでいたところに聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 声のした方に視線を向けると、白愛が居た。


 「珍しいわね、図書室に居るなんて」

 そう言って教室では見せない人懐っこい表情を浮かべ、白愛が近寄ってくる。

 俺は近寄ってきたその笑顔に一瞬ドキッとしてしまう。


 「確かに珍しいとこで会うね」

 俺は本の物色を止め、白愛に向き直る。


 「何か探し物?」

 「うん、ちょっと家で読めるような軽いものでもないかなと思って」

 白愛の問いに俺はそう返答する。

 白愛は俺の隣まで来て「う~ん」と悩み始める。


 「これは?」

 と言って白愛が一冊の本を差し出してくる。

 その本には『岩国史』と書かれたものだった。

 本のタイトルを見るからに、おそらく岩国市の成り立ちなどが書かれた書物なんだろうと思う。

 正直な所、市の成り立ち等にはあまり関心がなく、俺は白愛の勧めてきた本に対して、「う~ん」と唸ってしまう。

 そんな俺の様子を見た白愛は手に取った本を元の位置に戻し、俺の好みとするところの本を探し始める。

 「ん~」と悩み始め、俺が眺めていた伝記の背表紙を端から順に追っていく。


 「じゃあこれは!?」

 と白愛が俺の方に表紙を見せてくる。

 その表紙には『武蔵伝』と書かれていた。白愛はもしかしたらにちなんだものを選んでくれたのだと思う。

 だが、それは引っ越す前の学校でも読んだことのある伝記と同じ物だった。

 俺が「ん~」と申し訳なさ気に首を傾げると、白愛は残念そうにその本を棚に戻す。


 「そういえば、なんで白愛はここに居るの?」

 残念そうにしている白愛を見兼ねて俺は話題を変えることにした。


 「私?私は美沙の仕事が終わるのを待っているの」

 白愛が俺の問いにそう答える。

 やっぱり白愛は帰りは篠原先生と一緒に帰っているのかと俺は思った。


 「篠原先生の仕事終わりまでここで待ってるの?」

 俺の質問に白愛は首を縦に振って「うん」とだけ答える。

 俺と白愛はお互いの時間潰しを兼ねて、俺が読みそうな本を図書室を歩き回っていた。


~>゜~~~


 9月11日白崎高校────放課後


 「今日も今日とて終わりましたよっと、さぁ帰ろうや」

 そう言っていつもの田中、杉谷、皆口の3人が俺と勘九郎の周りに集まってくる。


 「ごめん、俺ちょっと図書室に返す本が……」

 俺は鞄の中から先週借りた本を出して見せる。


 「そっか。俺達も付き合おうか?」

 そう田中が言うが、杉谷に岩徳線の時間がある。下校時間の一本を乗り遅れると一時間以上杉谷は時間を無駄にしてしまうため、俺は「大丈夫」と3人に断りを入れ先に帰るよう促す。

 勘九郎といつもの3人と別れた俺は図書室に来ていた。

 返却口で先週借りた本を返却し、そのままの足で今週の時間潰しに読む本を物色する事にする。

 今回は何を借りようかと悩み歩いていると、先週と同じ光景が目に入ってくる。

 早苗だ。

 早苗がまた自分の手の届かない本に手を伸ばしている。

 俺はまたかと思いながら後ろから近づき、手を伸ばしている先の本を手ってやる。

 後ろから手が伸びてきた事に驚いた早苗が「あっ」と声を上げる。


 「これ?」

 と、今度こそ一発で早苗が求めている書籍を手に取る。 

 後ろを振り向き俺と分かった早苗は、申し訳なさげな表情を浮かべる。


 「ごめんなさい……。その左隣の本……」

 早苗にそう言われまたしても間違った俺は、恥ずかしさで顔が赤くなり左隣の本を手に取って早苗に渡す。

 なんだろう……、毎回間違っているのが早苗の手の伸ばし方が紛らわしいのか、それともただ単に自分の見間違いなのかよくわからなくなってきた……。


 「ありがとう。佐々木君」

 早苗はまたしても間違えてしまった俺を見て、苦笑しながら俺の手から書籍を受け取る。


 「はぁ~……。なんかいつもごめん」

 格好をつけて取って上げているわけではないが、毎回間違えている自分が何とも言えない気持ちになり、俺は早苗に謝罪する。


 「謝らなくていいよ。前もそうだったけど今日も助かったよ」

 そう言って早苗は先週同様に俺をフォローしてくれる。


 「それならよかったけど。今日も踏み台は見当たらなかったの?」

 「ううん。今日は図書委員の子が書籍整理で使ってるみたいで……」

 俺は早苗の指さす方に目を向ける。

 俺はなるほどと納得し視線を早苗に戻す。


 「それにしても……、今日もすごい本の量だね……」

 早苗に視線を戻した俺の目にまず飛び込んで来たのが早苗の抱えている本の量だった。


 「……。また一週間分?」

 俺がそう聞くと、早苗は笑みを浮かべて「うん」と答える。

 前図書室で会った時から一週間も経ってないのに……。

 あの時も両手で本の束を抱えていた気がするが、あの物量を一週間も経たずに読破してしまう早苗は素直にすごいと思った。


 「佐々木君はあれから面白い本見つけた?」

 「うん。ありきたりかもしれないけど、読んだことなかったからシェイクスピアのロミジュリ読んだよ」

 俺のその返答を聞いた早苗は「いいね!」と言ってくれた

 その後、早苗のシェイクスピアの熱弁が始まる。

 ハムレットのこの場面がいいとか、リア王のここが面白かったなど……。

 本の事を語る熱量から、さすが文学少女だと思ってしまった。


 「あ、ごめんね……、私ついつい」

 俺を置き去りに熱弁する自分に、早苗はハッとして我に返り顔を赤くして下を向く。


 「さ、佐々木君もまた本の探し物?」

 「あぁ、うん。また適当に時間潰しができるものでもないかなと思って……」

 俺がそう言うと、早苗は今日時間があるのか、俺を先導して図書室の中を案内してくれる。

 ここにはこの系統の本がある、この棚にはこういう系の本がある等、図書室にある本をすべて把握しているんじゃないかってくらい詳しかった。


 「ありがとう山本さん。それより時間とか大丈夫そう?」

 俺は自転車通学だから時間はどうでもよかったが、早苗が杉谷同様岩徳線通学や、バス通学だったらと思い時間の心配をした。


 「あ、そろそろ時間かも……」

 俺の問いに早苗は手首の時計に目を向ける。


 「そっかそっか。わざわざ案内してくれてありがとう。俺はもうちょっと自分でピンとくるもの探してみるよ」

 俺がそう言うと、早苗は「わかった」と言い小走りに貸出・返却口に向かい、貸出の手続きをして図書室を出ていく。

 早苗は出ていく際に俺の方を振り向き手を小さく振り、俺もそれに倣い手を小さく振り返す。

 以前だと本を物色してたら白愛が現れたけど……。

 俺は周囲を見回し、白愛の姿を探した。

 しばらく本を探しながら、白愛の事も探したが、どうやら今日は図書室には居ないらしい。

 白愛が居ないと分かった俺は適当な本を一冊選び、貸出・返却口で貸し出しの手続きをして図書室を出ることにした。


~>゜~~~~


 9月11日白崎高校────放課後


 今日も一日が終わった。

 小太郎が来てから一日が早く過ぎている気がする。

 学校が休みの間に雨が降ったおかげか、この時間帯になると暑さが和らぎ少し涼しくなったと感じる。日が落ちるのも早くなった気がする。これから先一雨振る毎に冬に向かって寒くなっていくのだろう。


 「……」

 私は沈みゆく陽を渡り廊下の窓から眺める。


 (今日はどこで時間潰ししようかな……)

 図書室に行けばもしかしたら今日も小太郎が居るかもと思ったが、今日はどうしても本を読む気にはなれなかった。


 (仕方ない、正臣のとこに行って時間を潰そう)

 そう考えた私は校長室に向け歩き出す。


 コンコンッ


 校長室まで来た私は、扉を軽くノックをして中に正臣が居るか確認する。


 『はい。どうぞ』

 正臣からの返事を確認し、私は校長室に入る。


 「あぁ、白愛か。どうした急に来て」

 「美沙の仕事が終わるまで暇だから……。迷惑だったかしら?」

 私は正臣にそう尋ねながら、来客用のソファに腰掛ける。


 「いや。ここに来るのが珍しかったものでね。ちょっとお茶を入れて来よう。少し待っててくれ」

 そう言い残し、正臣が校長室を出ていく。


 しばらく待っていると、急須と湯呑を2つ載せたお盆を持って正臣が戻ってくる。

 正臣はテーブルにお盆を置き、私の対面のソファに腰掛け湯呑の一つを私の前置き、お茶淹れてくれる。

 私の湯呑にお茶を淹れると今度は自分の前に置いた湯呑にお茶を淹れる。


 「生憎茶菓子はないが、お茶だけで我慢してくれ」

 「別に構わないわ」

 私は正臣が淹れてくれたお茶に手を伸ばし、一口啜る。

 温かいお茶というのはどうしてこうも落ち着いた気分にしてくれるんだろう……。


 「最近学校生活はどうだい?」

 正臣がお茶を啜りながら私の最近の学校生活について質問してくる。


 「別に。いつもと変わらないわ」

 私は少々強がって見せるためにそう答えた。

 だが、小太郎が転校して来てから私の学校生活は大いに変わっている。

 授業中は背後に小太郎の存在を感じて授業に集中できないこともあるし、何より昼休みに小太郎と並んで昼食を食べるのが一日の楽しみだ。


 「そうか。それならよかった。最近は佐々木君と仲がいいって噂を耳にしてね」

 噂がどういった感じで正臣の耳に入っているかはが、人と言うのはどうしてこう噂好きなのであろうか。

 まぁ人目も考えずに毎日昼食に誘っていれば噂にもなるのか。


 「そうね。仲良くはしているわ」

 噂になっているのなら別に隠す必要もないと思い、正臣にそう答え私はお茶を啜る。


 「佐々木君が関係しているかはわからないが、最近遅刻もしてないそうじゃないか。美沙ちゃんや他の先生方から聞いているよ」

 正臣の言う通り、小太郎と少しでも長く居たいがために、最近は遅刻は少なくなっている。

 むしろ朝早く起きるようになってからの登校は、美沙の運転する車で一緒に学校に来ているくらいだ。

 それだけ小太郎と言う存在は私の中で大きなものだ。


 「そう。美沙もおしゃべりね」

 私は平静を保ち極力澄ました顔で正臣に答える。


 「いいことじゃないか。今年もそなんだし、無遅刻無欠席で先生方の心象上げてポイント稼ぎしておかないと、来年の進級に響くぞ」

 私は「そうね」とだけ返しお茶を啜る。


 今年もまた冬が来る。


 私の嫌いな季節が。


 私の嫌いな雪が降る季節が。


 私は湯呑のお茶を飲み干し、このまま校長室で美沙を待つことにする。


~>゜~~~~~


 9月13日白崎高校────昼休み


 「小太郎、お昼行きましょう」

 そう言って前の席の白愛が弁当箱を持ち昼食を誘ってくる。


 「お前なぁ、そいつは”小太郎”じゃなくて”小次郎”じゃって何遍言わすんじゃ」

 勘九郎が白愛に俺の名前が間違っていると指摘する。


 「お前は私に話しかけてくるな」

 白愛は勘九郎の事をよく思っていないらしく、話しかけるたびに強く冷たい一言を言う。

 俺が転校して来てからは、もうこれが日常風景になりつつある様で、杉谷達3人も他の生徒達からも注目しなくなっている。

 俺は顔の前で手を合わせ勘九郎と3人に「ごめん」と言い残し、自分の弁当を持って先に教室から出ていく白愛の後ろを追う。

 白愛は屋上の扉を開け、いつもの長椅子に陣取る。

 先に座った白愛の隣に腰を下ろし、弁当箱を開く。

 弁当箱を開けるとすぐさま白愛が俺の弁当箱を覗いてくる。


 「あれ、今日は卵焼きないの……?」

 そう言って白愛が残念そうな表情を浮かべる。

 どうやらあの日以来俺の作る卵焼きがお気に入りになったようで、必ず一切れ摘まんでいく。


 「あぁ、ごめん。今日はスコッチエッグ作ったから卵被りしないように作らなかったんだ」

 「スコッ……何?」

 スコッチエッグが何かわからなかった白愛が俺に聞いてくる。

 俺は指をさして「これがスコッチエッグだよ」と教える。


 「へぇ~、美沙はこういうの作らないから初めて見たかも」

 白愛がこちらに目を向け、食べたそうにしている様子だったので、俺は「どうぞ」白愛の方に弁当箱を寄せる。

 白愛は嬉しそうにスコッチエッグの半分を箸で取り口へ運ぶ。

 卵にウズラを使っているから女性でも一口で食べられる大きさだ。

 白愛は初めて食べるスコッチエッグに舌鼓を打つ。


 「美味しい!小太郎って料理上手だね」

 前の卵焼きの時もそうだったが、今までは家族にしか自分の料理を食べてもらったことがなかったから、他の人から美味しいと言ってもらえるのは嬉しかった。


 「それにしても、最近は日差しが緩くなってきたね」

 俺は料理の話しから、最近の天候の事に話題を変える。


 「そうね……少しづつ秋らしくなってきたわ」

 そう言って白愛が空を見上げる。

 俺もそれに倣い空を見上げる。


 「こうやって少しづつ涼しくなって今年も冬が来るのね……」

 白愛は悲しそうな表情のまま空を眺め続けた。


 (なんだろう……。こんな悲しそうな顔する白愛は初めて見る……)

 冬にいい思い出がないのだろうか……。

 俺と白愛は昼食もそこそこに、秋の空を眺め続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シロヘビ少女〜白蛇と白い少女〜 深村美奈緒 @minaofukamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ