第6話 いざ退学

すぐに退学できる前提で、僕はバクパクに最小限の荷物だけを詰め、その中に女神様に入ってもらって家をあとにした。

バクパクから外にひょっこり顔を覗かせる女神様は、見知らぬ通行人にとって可愛らしく見えるのだろうか。いや、可愛らしく見えないわけがない。


「やっぱりこの薄着じゃ寒いね…。人間と同じ感覚を味わえることにも欠点はあるんだなぁ」

「手袋でも買おうか?それとも、下に何も履いてないよりはいいし、パンツとあったかいスカートの方がいい?」

「いや、眷属であるジード君のお小遣いからは買わなくてもいいよ。ジード君が冒険者になって活動のための資金に余裕が出てきてから私のお小遣いとして“主神への献金”をくれればそれで買うから」

「いやいや、僕の小遣いもすでに信仰世界ファイスヲルド計画の資金だと思うけど。それにもし風を引いて、それをこじらせて肺炎になって死んじゃったら元も子もなくなるぞ」

「そんなこと言って、本当は別なコトが狙いなんじゃないのかい?」


ん?どういうことだ?


「もしかして、私のあんなトコやこんなトコが見えそうになるのがじれったいのかい?それとも、私に巷で噂のろりぃたふぁっしょんとやらを着せようとしてるんじゃないのかい?」


そんなことは考えてなかった…のだが、言われるとそんなことを考えてしまう。


「…どうやら私が君の思考回路を穢してしまっているようだね。嬉しくも悲しいものだよ、眷属が主神の色に染まっていくというのは」

「それ自分で自分がエッチなこと考えちゃう、って言ってるようなモンだけど」

「そ、そんなことないし!ほら、早く行かないと。退学できなくなったらどうするの?」

「退学できなくなるって…。とりあえず、朝のホメロームが終わってからでいいか?」

「ほめろーむ?ああ、今日も1日頑張りましょう的なヤツね」


僕は女神様を背負ったまま歩き出す。バクパクが小刻みに震えるのは、女神様の震えが伝わっているからだろう。


「女神様、やっぱり僕の上着を着た方がいいと思う。僕は下にも着てるし、最悪の場合は熱魔法の応用で体感温度を変えるだけだし」

「それなら私にその魔法を使ってくれればいいじゃないか」

「…それもそうだな」


一度バクパクを下ろし、女神様の額に手を当てる。


「[クニミラノチモニンラ、ノチミラモラミラミニミナノナモラスニテラチカチイカチモチイ]」

「おお、急に温かくなってきた!けど、そんなに長い魔法を唱える必要はあったの?」

「僕、詠唱は全文で覚えるタイプだから端折るのに慣れてないっていうか」

「なるほど。冒険者として生きていくならそこも課題だね。例えば、今の魔法だって[シチミコラナ]っていう言い方もできたでしょ」

「ああ、そっちがあったな」

「え?もしかしてこっちのやり方を忘れてた?」

「…まぁ」


とにかく、これからは魔法の詠唱にも気をつけようと思った。



「それじゃ、出欠取るぞ…、ってジード、学校に魔工人形のカノジョでも連れてきたのか?それとも妹か?」

「いや、どっちも違います先生」

「じゃあ、一体何だっていうんだ?生徒と教師以外は基本この学校に立ち入らないってことになってるんだが」

「この人は…」

「私は<始祖の女神>ナギ!つい先日俗に言う天界でやらかしてしまって地上で2000年過ごすことになってしまったんだ。ジード君は私の最初の眷属だけど、他に眷属になりたいって人はいる?」


僕が女神様を紹介しようとした途端、彼女はバクパクから飛び出して机の上に立った。

もちろん、クラスは静まり返った。担任も呆れたような、驚いたような顔をしている。多分、心のうちは前者なのだろうけど。


「…ジード、結局このがどんな娘かは分からないけど、今すぐ家に帰すか職員の子供用の託児所に預けてくるかしなさい」

「なっ!?失礼な!ジード君は私が神だと名乗ったら土下座をしたぞ。それに、私にはこの左目がある!君のその心を覗き込んで言い当てることもできるんだぞ」

「じゃあ、俺が今思っていることを言い当てられたらさっきの失言は取り下げて謝ろう」

「どれどれ~、生意気なロリっ子め、ブチ●したい。けど、本当の神だったらどうしよう…。何、もしかして焦ってる?」

「お、おいおい、教師たるものが生徒たちのいる前でそんなこと思えるわけないだろう」

「その割にはー、さっきから視線が太ももとか、ブカブカの胸元じゃない?」

「そ、そんなことないだろう」

「先生、嘘つく時のクセ出てますよー」

「うっ!?」


どうやら、先生は本当に女神様を性的な目で見ているらしい。ちなみに、今僕の目の前には女神様の太ももと少しのお尻がある。これも主神と眷属のスキンシップだと信じたい。


「い、いくら<始祖の女神>とはいえど、一個人の尊厳を叩き潰す行為は許されたものではないぞ!」

「私が女神だと名乗ってもそれを信じようとしなかった君が悪いと思うなぁ。世の中にはさ、“信じ者は救われる”って言葉があるでしょ」

「とはいえ…。ジード、これはお前の責任じゃないのか!?お前が校則違反をして部外者を学校に連れ込んだのがいけないのだ。これから学年主任と校長先生、理事長に事情を説明して退学してもらうぞ」


もしかして、女神様はずっとこういう展開が来るのを狙っていた?


「いいですよ、どうせ今日退学する予定でしたし」

「小説『明日退職のタナカ先生は無敵』みたいなヤツか?いや、ダメだ。自主退学の扱いではなく罰則による退学として登録してやる」


少しづつどこかから鳴り響くヒールの音。教室に足を踏み入れた途端、教室の雰囲気が一気に変化するのを肌で感じる。

およそ殆どの生徒よりも低い身長、煌びやかで清楚なドレスと深紅の髪、騎士団のマントを羽織る小麦色の髪の青年を連れて入ってきた女性は、誰もが見たことのある人物だった。


「先ほどから騒がしいわね、モラコナト先生」

「お、お久しぶりです、理事長」

「ところでお主、先ほどまでしていた話はどういうことかな?」

「い、いえ、ジード・エルメットという生徒が校則違反で招き入れた部外者が私のことを自身を性的な目で見る存在だと揶揄しまして…。立場の危うくなった私はジードの責任を追及しようという話を出したわけで…」

「確かに、部外者を入れてしまうことは校則違反かもしれぬ。しかし、それとお主がその部外者を性的な目で見ていたことは関係があるのか?実はこの話は殆ど外で聞いていたのだが、お主はその部外者が真実を見抜く力さえもっていなければその生徒の責任を追及して処分しようなどとは言いださなかっただろう?」

「そ、それはそうかもしれませんが…」

「それに、相手の容姿が幼子で、そして薄着だからと性的な目で見ようとは…。怖気おぞけが走る。本日を以てお主を解雇処分にしてやろう」

「そ、そんな…」


崩れ落ちる先生を見ると同時に、全員の視線は理事長に注がれていた。理事長は僕の方を見た。


「ジード・エルメットといったか?お主のような成績優秀者に抜けてもらっては、あたくしたちとしても心苦しい。世界の発展の為に尽くせる筈の人材の種が消えてしまうというのは。そこでだ、もう校則違反の処罰などはどうでもよい。だから、あたくしの、カンラナ・スニーニの騎士と戦って、制限時間内に一撃でも攻撃することができればお主の自由にしてもらって構わぬが、もし一撃も入れられないようなら退学を禁止とする。そして、その女神ナギをあたくしたちに渡してもらうとするわ」


うん、なんか面倒な展開になってしまった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【カクヨムコン10参加】始祖の女神と信仰世界(ファイスヲルド) glam@星詠み ボカロP @hoshiyomist

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画