第41話 教皇様①

逃げ惑う人々…

抵抗虚しくアリのように踏み潰される者たち…

破壊される文明の名残り…


阿鼻叫喚の地獄絵図の中、レイナーはただひたすら目が覚めることを祈っていた。


−もう十分だ……わかった、わかったから、もうこれ以上、俺にこんなものを見せないでくれ。


それはまさに、人類が終わる審判の日。


−変えられるのか?あんな、絶望的な化け物相手でも、運命は変えられるというのか?しかも……あいつらは、あと二ヶ月もしないでやってくる!?


予知夢の中に、確信じみた時間感覚もあった。

今すぐ行動に移さなければ……




⭐︎⭐︎⭐︎




化け物のうちの一体は、オムニ・ジェネシスの外部装甲をもろともせず、合金を破って入ってきた。


全身が黒く、光沢を帯びている。

見た目はどこが頭か分からないクラゲの傘のようなものに手足が何本も生えている。


サイズは、聞き及んだディアボロほど大きくはないが、それでも10mほどの高さはあるだろう。突出すべきはその防御力と肉弾戦の戦闘力。


通常の銃はまったく効かない。弾の無駄だろう……

レザー砲ならば、皮膚が焼けるぐらいにはダメージを与えられそうだ。皮膚を焼いて、それから高周波刀で切ればもしかしたら、という印象だ。

しかし、パンチの一発がシャコのように速く、殴られた人間は跡形もなく消し飛んだ。近接戦は現実的ではないのかもしれない。


もう一匹の化け物は、船に無数の穴を開け、侵入してきた。


こちらの見た目は軟体生物を思わせるという意味ではディアボロに似ているが、深海タコにガマガエルの皮膚を当てはめたら似たようなものになるであろうか。


こちらも、サイズ的には10m前後で、さほど大きくはないが、身体のあらゆる場所からチューブのようなものが伸びており、ここから何か硬い弾丸のようなものが飛び出してくる。撃たれた人間は体の半分が吹っ飛んだ。


二体とも、人間を感知するセンサーでも付いているのか、人間を片っ端から追い込んで殺しまくっていた。


多少善戦するグループもあったが、物資不足な上に人材不足でたちまちやられてしまう。善戦と言っても、かすり傷をつける程度の抵抗であったと言えるだろう。


−擦り傷ぐらいなら負わせられるのか……そうだ、船の中の皆んなで協力すれば、何とかなるかもしれない。



⭐︎⭐︎⭐︎



レイナーの行動にはもう、迷いはなかった。


以前は狂人や嘘つきやのと騒がれ、刑務所にまで入れられた。

誰も自分のことを信じず、自暴自棄になった。


しかし、今は違う。

運命は変えられるかもしれないと知ってしまったから。


それが自分に課された孤独な使命なのだと……

船が不時着したあの日、レイナーは悲惨な運命には抗いつづけると心に誓ったのだ。


レイナーは先ずは第六区の集落で悶々と自分がやるべきことを考えながら、集落で情報を集めていた。


−第六区のリーダーとは話した。流石に鵜呑みにはしなかったが、しつこく言っても厄介者とされるだけであろう。今は、とりあえず出来るだけ船の民の戦闘力を上げることを促しつつ、皆の不安を煽るのが得策か?


はて、どうやってそれを達成するか?


ああそうだ、先ずは、ディアボロを討伐した隊のたちを奮起させなければ。


レイナーはそう考え、ウール、マニーシャ、バシリスクを訪れた。


デジャブが起こる。

予知夢の中でチラリとみた善戦したグループの人間たちが誰なのかは分からなかったが、この連中は確実に入っていただろう、とレイナーは直感した。


レイナーが訪れた時、ちょうど第六区の医者がディアボロ戦で折れてしまったウールの腕の按配を確認していた。


「ドクター…、この人の腕は、後1ヶ月ぐらいで完治できそうなのか?」


突然レイナーに話しかけられ、折れた腕に包帯を撒き直していた医者は面を食らう。


「え、ええっと、あなたは?」


「あ、ああ、俺はレイナーだ。」


ウールが胡散臭そうにレイナーを見る。


「あの、この方とはどういうお知り合いで…」


医者がレイナーに質問する。


「あ、会うのは初めてだ。でも、すぐにその腕を治す必要がある。あと、そっちの女の手も…」


レイナーがマニーシャの方をチラリと見る。マニーシャは微動だにせず前屈みに座ったまま、レイナーを無視した。


「は、はあ……全力は尽くしてはいますが。まあ、治るには治るでしょうが、ちょっと後遺症は残るかもですね。なんせ一番腕の良い医者はこっちに来てくれないんですよ。」


「ふむ……それは誰だ?」


「サンティティっていうお医者さんです。腕前は確かなんですが、この人たちの治療は拒んでて…」


レイナーはサンティティの行き先を聞くと、サッとその場を立ち去る。




⭐︎⭐︎⭐︎




「あなたがサンティティか?なぜヒーロー達の治療をしない?」


唐突に横から話しかけられて、広場で1人腰掛けて休んでいたサンティティは驚いて振り向いた。


「え?あ、あなたは誰ですか?」


「レイナーだ……ん?」


レイナーはサンティティの顔をじっと見つめる。

はて?夢の中であったか、それとも現実か…この男と会ったことがあるような気がする……


サンティティも、同様の様子だ。

どっかで会ったことがあるような気がする……が思い出せない。


似た顔の人も世の中には多くいるだろう、とサンティティは結論づけ、「なんのご用ですか。」と返す。


「今、船は未曾有の危機に晒され、化け物がやってくるって時に、なぜ強い人間たちを優先的に治療しないのだ。」


(本当は確実に化け物が来るんだけどな。)


医者には別に余計なことは言わなくてもいいだろう。


サンティティは眉を顰め、明らかな不機嫌になった様子が見てとれた。


「あのね、どちら様かは知りませんが、私がどうしようと、赤の他人のあなたには関係ないことでしょう。」


「……いや、そうはいかない。今、この船は、化け物が近づいてきていて、一刻も早く戦闘準備を整えていかなくてはいけないのだ。みんなが協力し合わなければ、到底生き残ることはできまい。」


「は、はぁ……確かに、あのディアボロみたいなやつがまた出てきたら、いよいよ持って大変でしょうが、レーザー砲も修理したらしいですし、でかい穴も塞ぎましたから、もうでっかいやつらは入ってこれないですよ。」


「いや、あいつらは船の装甲なんて破ってくるぞ。」


「あいつらって、誰のことですか?さっきから、よく分からないことを……ん?」


サンティティは、今度こそレイナーの顔をマジマジと見つめる。


「ああああーー!!あなた、前にうちに来た患者ですね!しかも、船長に絡んで捕まった人!!」


サンティティはレイナーを指刺し、大きな声をあげた。




⭐︎⭐︎⭐︎




*このサンティティが驚いた原因となったエピソードは、オムニ・ジェネシス第一部の第79話と第80話に当たります。リンクは下記のとおりです。


オムニ・ジェネシス第一部 79話「キチガイが現れた①」

https://kakuyomu.jp/works/16817330659312906674/episodes/16817330663860187988


オムニ・ジェネシス第一部 80話「キチガイが現れた②」

https://kakuyomu.jp/works/16817330659312906674/episodes/16817330663882474640


確認したい方、スルーしたい方、どちらでも大丈夫ですw

スルーしても読めますw


⭐︎⭐︎⭐︎



第42話「教皇様②」へと続く。



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