第80話 キチガイが現れた! ②
『コズモ船長、出勤中に襲われる!』
大きな見出しが動画付きのネット記事を飾った。
筆者はダニーである。
__________________________
掲示板は荒れた。
18 名前: 名無し
え!?何?精神異常者?
…
35 名前: 名無し
反ハルモニア侵略派の頭のおかしい連中やな。ちゃんと取り締まらんからこういうことになるんや。
…
55 名前: 名無し
>35 いや、むしろそんなんしたら、益々反発するよ。
…
62 名前: 名無し
>55 あ、きみ反ハルモニア侵略派なん?頭がおかしいようで同情するわ。
…
73 名前: 名無し
>62 なんでそうなる?別に違うけど。頭おかしいのどっち?
…
75 名前: 名無し
「わぁぁぁぁぁぁぁあ!船長〜、ダメだ〜。げ、原稿が〜、間に合わねえ〜。٩( ᐛ )و」
76 名前: 名無し
草
77 名前: 名無し
草
77 名前: 名無し
🌱
78 名前: 名無し
🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱🌱
…
85 名前:名無し
>78 草原いいな
…
93 名前: 名無し
>75 エタレや
…
104 名前: 名無し
>93 ヘタレや
105 名前: 名無し
orz
…
205 名前:名無し
暴れればSPの押さえ込みからも逃げられるという事実。
206 名前: 名無し
Σ੧(❛□❛✿)
207 名前: 名無し
船オワコン
…
994 名前: 名無し
このスレッドもそろそろ終わりか。もう八個ぐらい新しいの立ち上がってるし。
999 名前: 名無し
さらば、みなの者「わぁぁぁぁぁぁぁ!」
…このような調子で、暇を持て余しているオムニ・ジェネシスの住民たちにとって、この事件はかっこうのネタとなったのである。
そもそもオムニ・ジェネシスではこのような事件は極めて珍しい。
途方もなく長く生きているため、精神安定剤を飲んでいる者たちは大勢いるが、これが優秀過ぎる副作用がない薬であるためキチガイになるような人間は先ずいない。
この事件の晩にはさっそく心理学者を集めた討論会が行われ、酔っ払いでキチガイというのは、もはや撲滅した病気に近いようなものとして扱われた。
ハルモニア侵略という大事が迫っていることのストレスによる急性の精神疾患であろうと結論づけられた。
留置所に入れられた男は、まるで誰に喋るでもなく、船が終わる、とぶつぶつと独り言を続けていた。
留置所の看守たちも、気味悪がって彼には近づかなかった。
__________________________
事件のあった次の日、昼休みに休憩所でくつろいでいたサンティティは、謎の酔っ払いキチガイ男の顔をみて「あ!」と叫んだ。
大きな声をあげたので、一緒に休憩に入っていたグレースやドクター・ムニエルも一瞬ビクっとしてサンティティの方を見た。
「この人、僕がここに来る直前に、うちの病院に来た人ですよ。」
「・・・ほう、興味深い。近年稀にみるキチガイは、あなたの患者でしたか。」
ドクター・ムニエルはゆったりとした動作でコーヒーを口にする。
「いや、それが、患者、というか、本当に妙な人だったので、忘れもしないですね。」
休憩所に入っていた全員の注意がサンティティへと向く。
「ちょっと!詳しく教えてよ。」
野次馬根性に火がついたグレースがサンティティを急き立てる。
「いや、なんというか、あの人はアポなしでいきなり来たんですよね。あの時は、あそこまでおかしい人だとは知らなかったですけど、ちょっと変な人でした…」
皆が聞き耳を立てているのをみて少しバツが悪そうな表情を見せた。
「いきなりやってきて、脳の精密検査をしてくれというんですよ。やけにおどおどしていましてね。なんで精密検査をしたいのかの理由も聞いたのですが、確認したいことがあるとか言っていまして、それでそれが何かと尋ねても、『いいから早くしてくれ』と言われましてね。」
サンティティは、ここが肝ですよ、という感じで人差し指を立てる。
「それで、『俺の頭がおかしいのか、確認したい』とか言うんですよ。」
サンティティは苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「とりあえず、何か気になることがあるなら教えてくださいと言ったら、今度は『気になっていることは君とは関係ない』とか訳のわからないことを言い始めるんです。」
話を聞いている側も混乱して、目尻を上げる。
「…まあ、お客さんですし、手術などをするなら別ですけど、ただの検査に対して理由を聞く義務もないので、とりあえず精密検査をやりました。」
「…そ、それで、どうなったんですか。」
まじまじと聞き入っていたスタッフの一人が尋ねる。
「精密検査の結果、彼の脳はいたって正常でした。」
なぁんだ、というスタッフをよそに、サンティティは声を潜める。
「でもですよ、おかしかったのはこの後です。検査が終わって、異常なし、と伝えるために、モニター室に案内したんですよ。するとですね、突然キョロキョロし始めて、『ここはなんだ!?』と大きな声を出すんですよ。」
サンティティは彼の真似をしてキョロキョロし始める。
「『ここで映像を見ながらあなたの脳の状態を説明します』と伝えたら、急に彼の血の気が引いたようになりましてね。」
サンティティは目を細めた。
「まあ、何かを勘違いしているのかと思って、すぐに『あの、ご心配されているような異常は何一つないと思いますよ』と伝えました。すると、『いや、この場が異常だ!?』と言い始めるんですよ。」
「変な人だなと思いましたが、本当に脳の状態は健康的でした。強いていうなら、セロトニン数値は少々低かったと思いますので、不安な状態なのはなんとなくは分かりましたが…」
「…それでですね、一応ですが、ちょっとした精神安定剤を処方しようと考えたわけですよ。まあ、病院のプロトコルですね。なにかの薬を出せば、患者は安心するもんですから。それで、『少しセロトニンの分泌量が低いようですから、お薬を処方しますね』って言ったんですよ。」
そう言ってから、サンティティは少し続きを言うのを躊躇った。
「すると、ですね…『パイプロペンザックスか?』と彼が聞いてくるんですよ。精神安定剤はたくさんありますから、ピッタリと言い当てたのには驚きました。まさにそれを処方していようとしていたわけなので。『はい、なんで分かったんですか!?』と尋ねたら、いきなりクックックっと笑いだすんですよ。そしてフラフラと立ち上がり、部屋から出ていくんですね。もう不気味で怖くなっちゃったんで、早く出て行って欲しいと正直思いましたね。そのまま会計して、ぴったりの金額をお支払いして帰られましたね。まさか、こんな事件を起こす人だとは思いませんでしたが。」
休憩所でこの話を聞いていた職員の半分は腕を組み出して、何かを考えているようだった。みんな、何も言わずにじっとしていて、その沈黙が少し続いたあと、ピピっとドクタームニエルの時計がなる音がする。
「うむ、休憩時間は終わりだ。職務に戻りましょう。」
ドクター・ムニエルは、飲みかけのコーヒーを右手に持ったままスッと立ち上がり、スコスコとドアを開けて出て行った。みんなまだ何かを考えているようだったが、すぐに考えるのをやめて職場へと戻った。
第81話『誰がために… ①』へと続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます