第54話 覚醒
「んっ……」
俺は意識を取り戻す。
どれくらい経ったんだ!?
俺はまだ生きているのか。
そうだ、ネロは?
俺は顔をあげる。
ネロの後ろ姿が見えた。
良かった。
「ネロっ!」
立ち上がろうとした時、俺は気付いた。
ネロのすぐそばに、ケルベロスが居ることに。
そして、その口元が血で真っ赤に染まっていることに。
ネロの全身からは血が溢れていた。
「う……嘘だ……ああああああああああああああああああああ!」
俺は両手で顔をかきむしりながら、ただ絶叫した。
俺の様子に気付いたのか、ケルベロスはこちらを見てにたりと笑った。
まるで次はお前だと言わんばかりに。
「殺してやる」
その言葉は驚くくらい口からこぼれ出た。
◇◇◇
ケルベロスは弱者をいたぶるのが好きだった。
敵が番(つがい)であれば、雌から殺し、怒った雄を返り討ちにして殺した。
今回も同じで、稀にしか見ない人間と黒豹など相手にもならない。
黒豹をいたぶって殺した後、最後に人間を殺そうと思った。
激昂した人間を見て、ケルベロスは大きな愉悦を感じていた。
(これでしか得られないものがある……あの人間も返り討ちにして仲良く殺してやろう)
「殺してやる」
リオルがそう呟いた時、ケルベロスは背筋が凍るような感覚を覚える。
リオルの姿が少しずつ変わっていく。
敵とも思っていなかった人間の圧を感じて、本能的に一歩下がったのだ。
(馬鹿な……たかが人間如きに、俺が……退くなどありえん!)
ケルベロスは焦り、その三つの口から全力で黒炎を吐いた。
その漆黒の火炎によって、周囲は一瞬で火の海に変わる。
(地獄の炎よ……これで人間如き、骨も残らんはずだ)
そう安心した瞬間、黒炎の中から何かが飛び出してきた。
それは、小さな火龍。
小型ではあるが、全身は深紅の龍鱗に覆われ、鋭い牙と爪を持っていた。
大きな翼を使い飛翔した火龍の目はケルベロスを確かに見据えている。
「よお」
火龍の姿に変わったリオルはそう言うと、その爪でケルベロスの肩を斬り裂いた。
「ガウウッ!」
(どういうことだ⁉ なぜ火龍が⁉ 尻尾はあったが、俺が戦っていたのは確かに人間だったはずだ!)
突然の火龍にケルベロスは混乱していた。
(人間は逃げたのか? それとも……)
人間が火龍になったのか?
そんなことあり得る訳がない。
だが……目の前に居るその堂々たる姿は確かに火龍だった。
(だが、火龍とはいえ所詮は子供。今なら俺の方が強いはずだ)
ケルベロスは再び、全力で黒炎を放つ。
「火力勝負といこうか」
リオルはそう言うと、口から火炎を吐いた。
両者の大炎がぶつかる。
それは凄まじい熱量であったが、リオルの吐いた火炎は黒炎を呑みこみ、そのままケルベロスを襲う。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!」
その火力は、炎に強いはずのケルベロスを灼いた。
叫んだケルベロスは気付けば全力で駆けだして逃げ出していた。
(なぜだ? 人間と黒豹の子供と遊んでいただけなのに……なぜ火龍が⁉)
ケルベロスは必死で駆ける。
ただ、それをリオルは逃がさない。
翼を使い一瞬で距離を詰めたリオルはその爪を振るい、易々とケルベロスの首の一つを落とした。
「ガオオオオオオオオ⁉」
残った二つの首は大きな鳴き声を上げ、必死で逃げる。
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