第53話 冥府の番犬
師匠と仲たがいをしてから数日が過ぎた。
あの日以来、気まずくて話していない。
俺は今日も師匠と言葉を交わすことなく、住処を出る。
「ガウーーーー!」
ネロが一緒について来た。
師匠と仲が悪くなったことに気付いて、気を遣っているのかもしれないな。
「ありがとな」
ネロの頭を撫でる。
ゴロゴロと鳴いているのが可愛い。
「行こうか」
俺はネロと共に、森に入った。
未だに森に入るのは、少し緊張する。
結局自分より強い霊獣にあったら、死ぬかもしれないからだ。
死の島にとって、死は日常なのだ。
もう長級程度だと強くなれない。
将級を探さないと。
森に潜り始めて数時間。
緊張感もあり、少し疲れてきた。
そろそろ一度戻るか?
そう考え始めた頃、ネロが突如前方を見て唸り声をあげる。
俺はまだ感じ取れないが、ネロは何かを感じ取ったらしい。
厄災級?
逃げるか?
いや、逃げてばかりじゃ意味がない。
俺はネロを連れ、前方に進む。
邪悪な気配を感じる。
俺は敵を見つけると同時に悪寒が体を襲った。
禍々しい漆黒の毛を覆われた巨大な体。
三つの首を持ち、蛇の尾を持つ冥府の番犬と言われるケルベロスだ。
師匠から聞いていた。
ケルベルスは将級の中でも最上位だと。
明らかに今までの将級より強い。
まだ気付かれてはいない。
まだ逃げられる。
どうする?
いや、奴は所詮将級だ。
将級に逃げていて、いつ厄災級に勝てるようになるんだ!
「ネロ……行くぞ」
「ワウー……」
俺の言葉を聞いて、ネロは不安そうに小さく鳴く。
俺は木の枝に飛び移ると、葉に隠れながら接近する。
そして範囲内に入った所で皮膚を獣化し、尻尾を生み出す。
上から飛び降りると、霊気を纏わせた尻尾で、渾身の振り下ろしを放つ。
同時に、ケルベロスの周囲からネロの影が放たれケルベロスを拘束する。
よしっ、決まった!
俺の一撃は見事にケルベロスの背に直撃する。
「ガウウウウウッ」
ケルベロスは小さく悲鳴を上げるも、すぐさま血走った目をこちらに向ける。
たいして効いていない⁉
俺はすぐさま立て直し、もう一撃を与えようと、距離を詰める。
「ガアアアアアアアアアアアアア!」
ケルベロスの咆哮と共に、ネロの影が消し飛ばされる。
ケルベロスは怒りのまま俺を思い切りその爪で斬り裂いた。
俺は咄嗟に両腕で体を守ったが、大きく吹き飛ばされ、転がる。
爪に斬られた部分は、鱗が殆ど砕け、血が溢れている。
強い……。
だけど、まだ負けてない。
俺は再度腕を鱗で覆うと、立ち上がる。
まともに戦うと勝てない。
狙うは頭だ。
俺は木の枝に跳び移ると、枝から枝へ移動し少しずつ距離を詰める。
ケルベロスの周囲を回り、一瞬の隙を探す。
すると、ネロが影で創造した槍を放った。
それにケルベロスの気がとられる。
今だ!
俺は枝から飛び降りると、真ん中の頭を狙って尻尾を振り下ろす。
だが、右側の顔がこちらに向き口を開けた。
ケルベロスの口から漆黒の炎が放たれる。
俺はその炎を直接浴びた。
「うわああああああ!」
全身が焼かれる。
俺は痛みで地面に転がり落ちた。
鱗があったから、なんとか致命傷じゃない。
まだ……やれる。
そう思い、体をあげると目の前にケルベロスの姿があった。
ケルベルスの渾身の爪での一撃を頭部に受け、俺は何回転もして吹き飛んだ。
全身から、頭から凄まじい痛みが襲う。
景色が歪んで見えた。
まずい……明らかに俺より強い。
「ネロ……逃げろ……」
俺は最後の言葉を振り絞って、ネロに伝える。
「ガウウウウウウウウウウウウウウウ!」
だが、ネロは俺とケルベロスの間に入って威嚇する。
駄目だ……ネロ……。
ネロは全身を影で覆うと、そのままケルベロスに襲い掛かる。
だが、そんなネロもケルベロスの一撃を受け、大きく吹き飛ばされる。
「ネロに……何をする!」
俺はふらつく体を無理やり起こし、ケルベロスに立ち向かった。
だが、一撃を浴びせることもできずに、逆に尻尾を叩きつけられた。
俺は再度地面を転がり、倒れ込む。
意識が……持たない。
俺は意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます