第52話 意味がないんだよ

 そして、サソリがひっくり返るように、無理やり前向に引っ張り上げる。


 重い……けど、ここまで不安定な体勢なら、ひっくり返すのは難しくない!

 俺は釣りの要領で、サソリを引っ張り上げる。

 そのまま俺は尻尾を前方に引き、サソリをひっくり返した。

 やっぱり腹部は他よりも薄い。


「終わりだ!」


 俺は再び霊気を尻尾に集中させると、そのまま回転して尻尾を振り下ろした。

 腹部の甲殻が大きく砕ける。


「ギュイイイイイイイイイイイイイ!」


 サソリが悲鳴を上げて暴れる。

 だが、中々態勢を立て直すことはできないらしい。

 それを待つほどお人よしではない。


 俺は剣を抜くと、砕けた部分を狙い斬り裂き、胴体を完全に両断した。

 両断されたにも関わらず、サソリは両の鋏をしばらく振り回していたが、最後には動かなくなった。


「ふう……」


 俺は疲れから息をつくも、サソリから霊胞を取り出す。


「いただきます」


 俺は霊胞にかぶりつく。

 体が熱くなる感覚。


 霊気が一気に増えた。

 やはり将級の霊胞が必要だ。

 このまま成長すれば……師匠だって。


 師匠にも伝えないとな。

 俺はもう将級中位すら倒せるんだから、安心してもらおう。

 俺はその硬い甲殻と鋏を獲って、住処に戻った。


「師匠、サソリの霊獣を倒しました!」


 と自慢げにその鋏を見せる。これを見せたら安心してくれるだろう。

 それを見た師匠が大きく口を開ける。


「これは……このサイズなら将級中位はあっただろう?」


「はい! 強かったんですけど、なんとか倒せました!」


「……まだ将級は下位までしか戦うな、と伝えたはずだろう?」


 師匠がこちらを睨むように見る。


「そ、それはそうですけど……倒せたならいいじゃないですか」


「馬鹿者が! まだお前の実力じゃ厳しいから言っているんだ! なぜ約束を破った!」


 師匠が怒鳴る。

 なんだよ……せっかく倒せたのに。

 少しは褒めてくれてもいいじゃないか。


「自分は勝てると判断しました。師匠が心配性なだけでしょう?」


 思わず、強い口調で反論してしまう。


「……私との約束は守れないのか? ならそんなお前に、指導することはもうない」


 師匠はそう言って、住処の奥に戻ってしまった。

 確かに約束を破ったのは俺が悪かったけどさ。

 師匠は何も分かっていない。このままゆっくりと成長していたら、その頃にもう師匠は……。


 それじゃ意味ないんだよ。


 もっと早く強くならないと。

 俺達は喰らえば喰らうほど強くなる。将級を中心に狩り続ければ、風龍にもいつか必ず届くはずだ。

 俺は強さを求めて、より強い霊獣を探すことに決めた。

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