第2話 第二校舎の裏で
季節は五月。
2年1組の教室はすでにそれぞれのグループが出来上がり、俺は去年と同じでぼっちだった。
しかしぼっち歴4年目にもなると謎のプライドが出来て、今ではボッチこそ至高なのではないかと思うようになっている。
つまり俺はただのぼっちではない。孤高のぼっちだ。
そんなことを考えていたら、四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
俺はすかさず教室を出ると、お決まりのぼっち飯スポットに向かう。
教室だとだいたい女子が占領してるし、学食なんて人の多い場所に行くと緊張するので、もちろん向かう場所は人気のない落ち着いたところ。
それは、第二校舎の裏にあるベンチだ。
陽は当たらないけど、涼しい風が吹いて気持ちいし、何より誰も使わないので俺だけの特等席だ。
そう思って第二校舎の裏に回ろうとしたのだが、
「こんなところまで来てくれてありがとう。まさかほんとに来てくれるなんて思って無かったよ」
「いえ、こういうのには慣れてますから。それにちゃんと返事をしないと失礼なので……」
校舎の裏から聞こえて来たのは男女の声だ。
(おいおい嘘だろ……)
まさかこんな場所までカップルに占領されるというのかよ。
勘弁してくれ。
ここは俺にとって大切な癒しスポットなんだ!
「まあ、そりゃ慣れてるよねー。さすがモテる人は違うなー。てかさ、こんな所に呼び出すのって俺も初めてなんだよね。地味に緊張
するっていうか、結構ベタすぎたかな?」
「いえ……」
いや、今聞こえてきた感じだとどうやら二人はカップルでは無いらしい。
でもこの女子の声はどこかで聞き覚えがあるような……。
それにこの状況ってもしかしなくても告白する雰囲気だよな。
「もぉー、ちょっと冷たくない? 俺こう見えても割と緊張してるんだけどなー。でも、気になってる女子にはしつこいくらい積極的になるんだよ俺」
「そうなんですか……」
それにしても何だ、このやり取り。
全然、女子の方は気があるような感じがしないんですけど。
でも男子の方はモテ男特有のイケボだし、顔は見てないけどきっとイケメンなのが何となく分かる。
発言に俺様系が入ってるのに、なぜか板についているのはこのせいだ。
「もう少しくらいドキッとしてくれても良くない? やっぱり高校のアイドル様はつれないなぁー」
「いえ別に私はアイドルでも何でも無いですから……」
「またまたー」
「本当にそういうのじゃないので……」
「そんな謙遜しなくても良いのにー。可愛いのにもったいないよ?」
(ん……?)
今、高校のアイドルって聞こえたんだが……。
ウチの高校でそんな風に呼ばれている人物を俺は一人しか知らない。そう思うと少しだけ確認したい気持ちが出てきて、俺はこっそり壁から覗いた。
そして案の定、そこにいたのは千歳梨花。
と、あれは三年の山田海斗先輩だ。
山田先輩はサッカー部のエースで、校内にファンクラブが出来るほどの黒髪イケメンだ。きっとたくさんの女子にモテているのだろう。
「で、こっからが本題だけどさ……」
すると山田先輩は千歳を壁の方に追いやって、そのまま壁ドンをする。
こんなの少女漫画でしか見た事ないのだが、本物のイケメンがすると様になる。
「ここに呼び出したってことでだいたい察してくれてると思うけど……。俺、本気だよ。だから千歳さん、俺と付き合わない?」
「ごめんなさい。私は誰とも付き合う気はありません」
しかし千歳の返事はノーだった。それでも返事には誠意と気遣いが含まれている。
しかしあのイケメン王子からの告白も断るとか、千歳は一体どんな相手なら付き合うんだよ。
いやそんなことより、これ以上盗み見するのは人として駄目だよな。
興味本位で見てしまったが、ここにいるのはまずい。
Uターンして、さっさと教室に戻ろう。
そのつもりだったけど、何だか会話の雲行きが怪しくなってきた。
「ええーなんでよ、良いじゃん? 俺、自分で言うのもあれだけど割と優良物件だと思うんだよねー。俺じゃあ千歳さんのお眼鏡には合わない?」
「ごめんなさい先輩。でも私は人を容姿で選ばないので、そこは勘違いしないでください。それとこの手を離して……」
「まだダメ。俺はまだフラれた理由を聞いてないし、俺をフッたんだから納得するまで離さないよ。それともやっぱり俺と付き合っちゃう?」
「付き合いません。それとこういうのは迷惑なので、早く離してください」
「離さない。だって俺しつこいから。ちゃんと千歳さんの本心を聞くまでは絶対に」
「ほ、ほんとにやめてください………!」
教室に戻ろうと思っていたけど、聞こえてききたのは嫌がってる千歳の声。
また壁から様子を伺うと、山田先輩に両腕を掴まれて壁に押し付けられる千歳の姿があった。
(どうする? ここは止めに入るべきか? でもそんなことをすれば盗み聞きしていたのがバレるし……)
「ねえ、どうして俺と付き合ってくれないのかその理由を教えてよ!」
「それは、つ、付き合ってる人がいるので……」
「それ嘘でしょ。俺、そーいう嘘とかすぐ分かるんだよねぇ。だから俺が聞きたいのはそれじゃなくてさ……」
「うっ……。ほ、ほんとに離してっ……!」
千歳の口から微かに息が漏れる。
壁に押し付けられる彼女はどう見ても苦しそうで。
自分でも気づかない内に、俺は山田先輩の腕を掴んでいた。
次の更新予定
2024年12月26日 12:00
これは恋愛経験ゼロだとバレたくないカップルの物語 風巻 @kazemaki
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