これは恋愛経験ゼロだとバレたくないカップルの物語

風巻

1章 嘘つきは波乱の始まり

第1話 プロローグ

 俺、天崎あまさきとおるは恋愛経験がゼロである。


 だけど高2で恋愛をしたことが無いのは別に普通のことだし、恥じる必要なんて無い。


 そもそもこの国には数百万人以上の高校生がいるわけで、全体的に見れば恋愛をしたことがない人の方が多いはず。


 そのはずだけど……。


(ウチの高校って異常にカップルが多いんだよなぁ……)


 そう、俺が昨年から通っているこの並坂なみさか高校はなぜかカップル率が高くて、毎朝幸せオーラ全開の連中で溢れているのだ。


 ほんと勘弁してくれよと思いながら、今日も校舎へと続く坂道を登っていく。


 右に左に視線を向けると、朝からイチャつく男女の姿。何がそんなに楽しいのか、二人で手を繋ぎながら談笑している。


 そんな光景の中で、一際目立つ女子が歩いていた。


 彼女が歩くたびに周りの視線が集まり、まるでスターのようなオーラを纏っている。


 彼女の名前は千歳ちとせ梨花りか


 ハーフらしい金髪は太陽に反射して煌めいており、化粧品のCMで起用されてもおかしくないほどの、透明感のある白い肌。


 昔、奇跡の美少女コンテストで優勝した経歴があるらしいが、それを疑う人間は誰もいない。


 それだけ今もその美少女っぷりは健在しているのだ。


 千歳梨花こそ、この並坂高校のアイドル的存在であり、数多くの男子生徒が彼女に告白したらしい。


 だけどその全ての告白を断っているらしく、風の噂では別の学校に彼氏がいるとか。


 まあ、本当かどうかは定かではないが、何にしても俺には関係のないことである。 


 千歳はたまたま同じクラスになっただけの同級生だ。


 だから陰キャな上にぼっちの俺とは無縁の人間なので、遠巻きに眺めるくらいの存在でしかない。


 俺は千歳から視線を切ると、足早に自分の教室に向かった。



 ——しかし、この数時間後。


 俺はあの千歳に彼氏のフリを頼まれていた。


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