第4話

牢屋に入れられた私は、ただただうずくまった。


「失敗したわ・・・」


私とあろうものが、心のリミッターが決壊して罵詈雑言を吐いてしまった。アイシア、第二王子はもちろん、第一王子にも突っかかってしまった。周りから見れば、悪魔に乗り移られたように思えただろう。

全部自分のせいである・・・・いや、過去の行いはフィラーナのせいだけど。


「はぁ〜〜〜、第二の人生が2日で終了。どんな小説でも絶対こんな展開無いわよ」


明日、私は処刑される。多くの人々が集まる広場の真ん中でギロチンにかけられる。この小説内では決してありえないこと。

でも、私が変えてしまった。


コツコツコツ―――


不意に誰かの靴音が聞こえた。そちらの方に目線を向けると、そこには見覚えのある女性が一人で近づいてきた。


「どうしてアイシアがここにるのよ」

「ねえフィラーナ、いやあなたは転生者なの?」


唐突に質問されて、一瞬押し黙った。


「何のことよ?」

「誤魔化さないで。さっき、信号とか前世とか転生とか叫んでたじゃない」

「・・・急に来て何なのよ。私は死刑囚よ。未来の王妃が何の用?」

「私はあなたと同じ転生者よ」


「???ええ、知っているわよ」

「!!!ど、どうして!」

「どうしてと言われてもねぇ〜〜〜。話すと長くなるわ。だから説明は省く。でも、貴方のことならだいたい知っている。前世はOLで26歳。そこそこの大学卒業後はブラック企業に勤めるも過労で死亡。愛読していたこの小説の世界の悪役令嬢に転生してきた」

「どうしてそこまで知っているのよ!!!前世で知り合いだったの!?」

「知り合いではないわよ」


あくまで読者だった。


「それでも、どうして―――」

「まあそういうのはいいから要件だけ伝えてくれるとありがたいわ。私は明日処刑されるのだから、一秒一秒が大切なの」

「・・・分かったわ、質問させてもらうわ。貴方、どうしてこの体、アイシアを陥れたの?いつから転生していたの?」

「私はちょうど昨日転生してこの体になったから、どうして陥れたかは知らないわ」

「!!!昨日転生した!?どうして!?」

「知らないわよ!こっちが聞きたいわ!」


まだ怒りが残っている。


「転生したら処刑されるだって?ふざけんなよと思っているわ。あんたはいいよね。これから幸せになるのだから」

「・・・・・・」

「別に同情を必要としてないわよ」


沈黙が二人の間に流れる。


「貴方はどうしてあんなことを法廷で叫んだの?」

「さあ、日頃の鬱憤が爆発したからと言うしか無いわ。前世での私は容姿端麗でもなくスタイルもそれほどよくなかった。でも、前世は良くも悪くも資本主義社会だった。だから努力すれば社長にだってなれた。そうなると今度は金目当ての男どもが寄ってくる」

「???」

「貴方を羨ましく思ったし、憎くも思った。容姿端麗、家柄もスタイルもいい。何でも持っている人。楽をした、とはいえないけどその恩恵は受けていたはずでしょ?」

「・・・確かにそうかも」

「理不尽に転生して、しかもそこはもう断罪される寸前。色々と溜め込んでいたものが爆発してしまうわよ」


アイシアは口をつぐむ。


「あんたに一つ忠告よ。男にはしっかり気をつけるように。ほとんどの野郎はスケベで身勝手。もしクラウス王子がそういう人ならすぐさまに捨てるべき。女性は男の駒じゃない。あんたは常識観念をはね飛ばせる人でしょ?自分が幸せになる生き方をしなさい」

「肝に銘じておくわ」


にっこりと笑った姿に思わず見惚れてしまう。やはり、主人公は美しい。


「要件はそれだけ?」

「・・・ここから逃げたいとは思わないの?」

「そりゃあもちろん思っているわ。でも、フィラーナは確かに大きな罪を犯してきた。それは簡単に許されるべきでは無いし、死をもって償うべき。

残念だけど、私の人生はこれで終わりみたいね」


私が転生した以上、抜け出すことは不可能なはず。それは感覚として分かる。あくまで悪ヒロインとして私は死んでいく。それが覆ることは無い。


「それじゃあ、一人にしてくれる?色々と物思いにふけたいし」


私はアイシアに背を向けてもう一度うずくまった。





次の日。


王都に住む大勢の民衆が、魔女が処刑されるところを一目見ようと広場へと集まる。ぎゅうぎゅうになった広場の真ん中には見えやすいようにギロチンがあった。


その上に堂々と立つ魔女ことフィラーナ。

一時は男爵令嬢ながら王子の婚約者となった人物だが、今では不正を働いて無実の罪を他人になすりつけた魔女として処刑されることになっている。


処刑前に洗われた髪はピンク色に輝き、白い肌の肩を伝う。まだ20歳の女は堂々と正面を見つめていた。


罪状が裁判官から読み上げられた後、処刑台にへと乱暴に連れてかれる。だがわめき散らさず大人しくしているためか、民衆は不気味に感じた。


首を固定されて鋭い刃がその首を襲う。次の瞬間、真っ赤な鮮血が吹き出し、首が地面へと転がると、大きな歓声が広場であがった。


皆が魔女の死を喜んで、抱き合ったり、叫んだり、帽子を投げ上げたり。



そんな民衆を二人の女性が遠くから見守っていた。


「民衆って愚かよね。あんなに、『真実の愛を貫いた王太子と男爵令嬢!』なんて騒いでいたくせに、いざ悪ヒロインのこれまでの行いが暴かれた瞬間に手のひらをくるっと返す。こういうところはどの世界でも同じなのね」

「ちょっと、国民の悪口を言わないでよ」

「あんたが一番の被害者でしょ?」


私はアイシアによって生かされた。

あそこで処刑されたのは私ではなく、幻覚魔法で作られた人形。それを知る者は私とアイシア、第一王子と裁判長だけ。


「そもそも、同情で助けなくていいんだけども」

「別に同情だけで助けたわけではないわ。こういう予定ではあったのよ。フィラーナは多くの罪を犯したけど、死刑にまではできない。何よりほとんど同じ罪のライースが追放刑なのだから同じぐらいの刑罰になるはずなのよ」

「でも、フィラーナの方が身分は低いわよ」

「そういう考え方はこれから変えていきたいわ。クラウスもそう思っている。でも、まだまだ法改正は先のこと」

「民衆の怒りの矛先をフィラーナに向かわすことで王家への不満を無くせるしね」

「・・・ええ、それも理由も」


まあ、何だかんだ生き残ってしまったわ。


「これからどうするの?」

「私は結局国外追放なのね」

「ええ。クラウスと話し合って決めたわ。・・・貴方のお陰でクラウスは私の意見も尊重してくれた。前までは私のことを思ってとはいえ、常に突っ走っていたのよ」


流石こういう系の小説の主人公溺愛イケメン。


「それは良かったわね。あんたはこの国をしっかりと導いてよね」

「もちろん、そのつもりよ」

「私は・・・田舎でのんびりと暮らすわ。前世では常に仕事仕事で疲れていたし」

「それがいいのかもね。私なんて転生してから常に仕事しっぱなしよ」

「それはご愁傷さま」


苦労もあるんだね。


「それじゃあ、もう行かせてもらうわ」

「もう行くの?」


私はそれに答えず、広場を背に王都の出入り口の門へと向かって行った。




その日王国は新しく生まれ変わった。

その裏に多くの物語があったが、ほとんどは誰にも知られずにいた。


もちろん、フィラーナは処刑されて傾国の魔女として語られている。


でも、ほとんどの人々は騙されていた。


悪ヒロインは、誰にも邪魔されない場所でスローライフを楽しんでいるのだった。







―――


悪役令嬢モノは面白いですが、たまにツッコミたくなるところもあったのでこの小説を執筆しました!

ここまで読んでいただきありがとうございます。


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悪役令嬢モノの公爵令嬢を陥れたヒロインに転生しましたが、どうやら断罪される前日のようです。 スクール  H @school-J-H

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