第3話

私は顔を上げて一回アイシアを睨みつけた後、口を開いた。


「何ごちゃごちゃ言ってるのよ、主人公。婚約者を奪われた?家族から見捨てられた?地位も失った?ふっ、そんなの自業自得に決まっているじゃない!」

「はい?」


そもそも私は別にこの小説には何の愛着も無いわよ!たまたま読んだことがあるだけで、別に好きだった訳でもない。

つまり、アイシアに気を使う理由がない!


「あんた、この世界を舐めているわよね?婚約者を横取りして何が悪いのよ!?生き残るため、自分のためにやった。それの何が悪いのよ!」


そもそも、婚約者の横取りが卑しいことという固定概念自体、前世の世界・・・・・では当たり前のこと。一方でこんな黒く底のしれない貴族社会、しかも女性間ではいい夫を得るために取り合うのは当たり前の事。


「手綱も繋げずに野放しにしている時点で、王太子の婚約者として失格でしょ?悪ヒロイン如きに盗られるなんて、優秀な方という話は嘘だったのですか??」

「あ、貴方は、」

「公爵家に生まれて第一王子を落とせるだけの美貌、それに頭脳明晰。これ以上ないくらいに持っているじゃない。知っていますか?世界には圧倒的にそれほど持っていない人が多いんだよ。貧乏だったり、モテなかったり、勉強できなかったり。そんな人々ばっか。

あんたは何でも持っているのにも関わらず、私に負けた。それはあんた自身の責任よ!」


一拍おいて続ける。


「何純情になっているのよ!その大きな胸と綺麗なプロポーションさえあれば男なんてイチコロよ!」


フィラーナなんて顔が良くて声が可愛いだけで、胸は小さく背も高くはない。!そうか、バカ王子がロリコンなのか!


「婚約破棄されたのは私が悪いというの!」

「だ・か・ら、そう言っているでしょ。この社会の女世界は弱肉強食!婚約者ならかまってあげればよかったじゃん。取られたくなかったのなら、私を近づけさせなければよかったのよ。全部、全部あんたのミスよ!ハハハハ!」


私は大きく声を上げて嘲笑った。意味もなく。


「お、おい、フィラーナ。その辺で―――」

「貴様は口を開くなこの腐れ外道クズゴミ王子!」


私に喋りかけてきたバカ王子に罵声を浴びせる。


「貴様というクズはこの世からいなくなるべきだよ!あんなにも美しく聡明な婚約者がいるのに、顔だけが取り柄のぶりっ子女である悪ヒロインに目移りして。本当に男って同仕様もないとつくづく思うわ。地獄に落ちればいいのに」

「で、でも君が俺に知らなかった世界を教えてくれたんだよ!だから、」

「だから惚れた?単純すぎて意味が分からない。そもそも世界を教えたって、ただ市民街に連れて行っただけでしょ?たったそれだけで惚れるとか、バカ丸出しじゃん。一応王子なのだからそういう世界を知っとかなければいけないのに何で教えられてないのか・・・あ、そうか!主が馬鹿だと周りが馬鹿になるのか!」


新たな真実を見つけたわ!


「フィ、フィラーナ!」

「SHUT OUT!黙れ、腐れ外道クズゴミ男!」


私は同仕様もない男を一瞥もせず、再び正面へと向き直る。


「おい、第一王子!」

「な、何だ!不敬な―――」

「知るか、ボケ!あんたもあんただよ!そこの腐れ外道クズゴミ王子に比べればマシだけど、あんたも外から見ていて少し気持ち悪いわ」

「はぁ?それはどういう意味だ?」

「ずーっとべったりアイシアにくっついている。バカップルかよ!」

「バ、バカップルとは何だ?」

「いちゃこらしているうざい奴らよ!第一王子ならもっとシャキッとして妻となる人を支えるもんでしょ!」

「だ、だが、夫を支えるのが、」

「そういう前時代的な事を言うと炎上するわよ!そもそもあんたよりもよっぽどアイシアの方が優秀だと思うから」


ポカーンと口を開ける第一王子。そんな阿呆ヅラすらもかっこよく見えるのが、小説のイケメンたちか。


「さあ、ここで誓え! 俺は妻を支えるいい夫になります と! 浮気をせず、他の女性に目移りしないいい夫になる と!」

「な、何で、貴様に命令を―――」

「御託はいいから早くしろ!それとも誓えないのか?」

「わ、分かった!俺は妻アイシアを支えるいい夫になる!」

「クラウス、私は―――」


「はいはい、いちゃこらはベットの上でどうぞ!それよりもまだまだ言いたいことはいっぱいあるわよ!

そもそも何で私は裁かれないといけないのよ?寝取った、豪遊をした、暗殺未遂をした。そんなのこの世界では当たり前じゃない!っていうか、その証拠なんてまず無いはずよ。確か小説では暗殺者の自供が証拠となった。つまりそれが嘘なのよ・・・・っというか、全ての発端はどう考えても腐れ外道クズゴミ王子でしょ!いっつもいっつも遠征で失敗ばかりで常に傲慢で人にあたってばかり。悪ヒロイン何かに騙されやがって。信号トリオの赤と緑もそうよ!当たり前の優しさにコロッと転びやがって。でもそんな優しさをしてあげれてなかったり、気付かれていない時点でそんな女たちは盗られて当然よね。まあ悪ヒロインがクズゴミ女なのは変わりないけど。そもそも悪いのはこの国の制度よ。何で王政なんてやっているの、貴族が存在するのよ。前世の知識があるな今すぐ廃止するべきよ!もっと他にも―――」


「その女を早く黙らせろ!」


私の言葉を遮って叫ぶ第一王子の言葉にすぐに反応する兵士たち。一目散に私のところへと来た。


「まだ話したいことが、むぐっ」


まだまだ吐き出したいことがあるにも関わらず、口を無理やり封じられ、組み伏せられた。


「裁判長!」

「ええ、分かっております。これまでの行いを認めた上、更に反省の色も見えずに罵詈雑言を周囲へと浴びせたこと。これは許されざる行為ではない。よってここに判決を下す!」


全員が固唾を飲む。


「判決、死刑!魔女として即刻執行すべき」


「「「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」」」」


「魔女を殺せ!」「死刑ばんざーい!」「殺せ殺せ!」「さっきのあれは完全に魔女だった!」「殺せ!殺せ!」「死刑ばんざーい!」死んで報いろ!」「第一王子バンザイ!」「アイシア妃バンザイ!」「王国バンザイ!」「バンザイ!」


私は呆然とその言葉を聞いていた。

間違いなく裁判長は死刑を宣告した。私の第二の人生は終わった。


「ふざけるなよ!何で転生したのに、もう死ななきゃいけないのよ!」


引きずられて退席させられた私の声は、傍聴席の大きな歓声によってかき消されてしまった。



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