第2話
「出ろ!」
突然牢を開けたかと思うとズケズケと入ってくる甲冑に包まれた兵士。三人がこちらを睨みつけながら寝起きの私を起き上がらせて強引に法廷へと連れて行く。
大きな扉をくぐって連れてこられた法廷は、見たことのない大きさをしていた。裁判官の席を正面に周囲をぐるっと囲うようにある傍聴席。席には空きがないほど座っており、立っている人すら見受けられる。
百人以上がいるこの空間に何人か見知った(フィラーナの記憶で)人がいた。
まずは正面の裁判官から見て被告側の席、より一段上に座っている美青年。厳重に兵士に囲まれていてこちらをちらっと見てくる。
この金髪美青年こそ、私の婚約者でバカ男、第二王子のライース殿下。優柔不断だが、その割に自分勝手なところがある駄目王子。まんまと
次に目を向けたのはそのライース王子の隣に座る赤、緑をそれぞれ髪色としている美青年。赤髪の男は短髪の熱血系、緑髪の男は長髪を後ろで結んでメガネをかけている知的系。いかにも女性受けしそうな三人だが、どいつも
「「「フィラーナ、無事か!!!」」」
「え、ええ」
三人に声をかけられ、咄嗟に答える。もの凄く気まずいんだけど。
私は両側を兵士に挟まれて裁判官の正面へと座らせられる。
中央にぽつんと私一人だけ。みすぼらしく汚れた服一枚で、髪もボサボサしている。軽蔑と嘲笑。多くの傍聴者が私を見つめてくる。
「被告人、席に着いたな。それではこれよりフィラーナ元王太子妃の裁判を開廷する!」
正面のヒゲモジャ裁判長が大きな声で宣言をする。その言葉にざわざわしていた会場が静まり返った。まず始めに私の罪状が読み上げられた。
二十ほど読み上げられている途中に信号トリオが口を挟んだが、すぐに囲んでいた兵士に注意を受ける。私は知っている内容のため黙って聞く。
「被告人、フィラーナ嬢。今読まれた罪状に異論はないか?」
裁判長に聞かれた私は立ち上がった。
ここからが本番。私の演技力が試される。ここで加減をしながら命乞いをする。自分の非を認めつつも、同情を誘う。それが私に残された唯一の生き残る道。
私は膝を地面につき、両手を前で握って声を発した。
「確かに私はそれらの罪を犯しました。ですが、決して身勝手な理由ではございません!」
「ほぅ〜〜では、それなりの理由があると?」
「はい、私は国を思って―――」
「ふざけるな!それならば、アイシアを陥れたのは国のためなのか!!!」
私の弁論に割り込んできて怒鳴ってきた銀髪の美青年。
この国の第一王子で次期国王のクラウス殿下。クラウス王子とライース王子は兄弟だが、腹違い。兄であるクラウス王子は側妃の子でライース王子は王妃の子。母親の地位がライース王子の方が高いから、元々はライース王子は王太子であった。
クラウス王子はそのことで周りから疎ましく思われ、常に嫌な思いをしてきた。だからこそ主人公の気持ちをよく理解して、二人は結ばれる。
なによりも、クラウス王子の溺愛がこの小説内のメインになっている。
さて、その隣に座るクリーム色の長髪をした可憐な女性。歳のわりには落ち着いていて、じーっとこちらを見つめてくる。
主人公、アイシア・ウィルナード。ウィルナード公爵家の長女で、今は王太子妃。
真面目で勤勉。諦めず何事も真っ直ぐ向き合う、THE主人公。
「フィラーナ嬢。答えてください」
裁判長に言われて意識を引き戻される。そうだ、クラウス王子の質問に答えないと・・・いけないけど正直どんなこと言っても私は許されない。そもそも、アイシアを陥れたのはフィラーナの完全な私情であり、一切国のためではない。ましてや国の損害でしかなく、本当に自分勝手極まりない。
「沈黙は、そういうことだと捉えていいのだな」
口をパクパクさせるが喉から言葉は出てこない。どう答えても言い訳だ。
「さて、じゃあ俺の質問に答えろ。どうしてアイシアを暗殺しようとした?」
「そ、そんなことは、」
「証拠が出ているんだ!どうしてアイシアの領地に魔物を追いやった!どうして不貞行為を働いた!どうして麻薬などを密売していた!」
「そ、それは、」
「答えられないんだな!!!貴様は国のためなどと抜かしながら国民を騙し続けた悪女だ!」
「「「「「「そうだそうだ!!!!」」」」」」
「わ、私は何も悪くありませんよ!」
「何が悪くない、だ!証拠が出ているのだと言っているだろ!!!」
机を思いっきり叩いて前のめりになるクラウス王子。私はただただ震えて命乞いをするしか無い。
「どうか、どうか、お許しを!どうかどうか、、、」
「どうして貴方が涙を流すのよ!!!」
これまで沈黙していたアイシアの声に全員の意識が集まる。
「貴方は私から何もかもを奪った!婚約者も住む家も地位も名声も!理不尽に!泣きたい時もあったけど、それでも耐えてきた!なのにどうして貴方が涙を流すの!」
目には透き通った水のような綺麗な涙を溜めてこちらを睨みつける。その感情を私は小説を通して知っている。どれだけ苦しかったか、どれだけ辛かったか。
私はもう悪者でしか無い。逆にこの状況からどうやってフィラーナは生き残ったのか?
「泣きたいのも、怒りたいのも、殺したいのも、死にたいのも、全部全部
反論も何も無い。彼女が言っていることは全て正しい。私など喋る権利すら無い。
「悪魔の女!」「偽善者!」「人殺し!」「アバズレ!」「クソ野郎!」「死んでしまえ!」「消えていなくなれ!」「国外追放だ!」「いや、死刑だ!」「そうだ、死刑だ!」「そうだそうだ、死刑だ!」「死刑!」「死刑!」「死刑にしろ!」「殺せ!」「八つ裂きだ!」「魔女め!」「死刑!」「死刑!」「死刑!」「死刑!」
ひどく胸に突き刺さる罵声が私に降りかかる。会場中が私の敵。全員が私の死を望んでいる。誰も彼もがアイシアの味方。・・・・そしてそれは正しい。
信号トリオ共が私を庇おうと声を張り上げるが無意味。罵声にかき消される。
罵声を聞いていてどれだけフィラーナが嫌われているのか身を持って知った。
もちろん私もこんな女は死をもって償うべき。のうのうと生きてはならない。裁きを受けるべきである。
でもね、
「うるせぇぇぇぇぇえぇぇぇえ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
どうして私が罵声を受けなければいけないのよ!どうして私が代わりに裁きを受けなければならないのよ!どうして死ななければならないのよ!
そもそも理由もわからず転生してきて、裁かれろだと?前世で私を跳ね飛ばした車のほうが先でしょうが!私は何もやっていない!フィラーナがやっただけ!
私の叫びに全員が呆気にとられて静まり返る。頭は痛く、体の節々は硬い床で寝たため筋肉痛。それでも謎の怒りだけは強く激しく燃え盛っていた。
これまで、前世を含めて抑えていた心のリミッターが外れていく。
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