悪役令嬢モノの公爵令嬢を陥れたヒロインに転生しましたが、どうやら断罪される前日のようです。

スクール  H

第1話

「―――ここはどこ!」


暗く汚れた地面の上。突然視界に入った薄汚い光景に意識が一気に持っていかれる。体の節々は痛く、ヒリヒリと乾燥する。体は薄い布でできた服だけしか着ておらず、寒さで体が徐々に震えてくる。


私は確かにさっきまで日本・・の横断歩道を歩いていたはず。そして信号無視をした車にぶつかり跳ねられたはず。

だけど、私の視界に写っているのはアニメの世界でしか見たことのない錆びついた鉄の棒で閉じられた、汚く狭い牢屋の中にいるのだと理解した。そして体も軽く若々しくなっている。


首を伝う長い髪の毛は、自分のものとは違うピンク色。肩に負担のかからない控えめの胸にほっそりとした手足。

私の体では無い。


牢屋の中にあった銀の皿の中に入っていた水を覗き込んでみると、そこには全くの別人の美人が映っていた。そして次の瞬間、大量の記憶が頭に流れ込んでくる、


この体の持ち主の名前はフィラーナということ。元王太子妃であること。今現在は多くの罪に問われて裁判を明日に控えていること。

色々な情景と記憶に残っている人々の名前を辿っていると、一つのとある悪役令嬢小説が頭に浮かんだ。



小説の内容はシンプルな悪役令嬢モノ。

とある小説内でヒロインをいじめる悪役として描かれていた第二王子の婚約者の公爵令嬢に転生した主人公。だが、実はほとんどがでっち上げであったが理不尽に罪を押し付けられて婚約破棄をされ断罪されてしまう。


両親からも見放されて辺境へと追いやられて主人公だが、そこでのびのびとスローライフを送っていた。そんな中で、第一王子と恋をしたり、ヒロインからの嫌がらせを跳ね返したりしていく物語。


最後は恋仲になった第一王子とともに、不正やその証拠隠滅、殺人未遂などを起こした第二王子とその婚約者となっていて、傲慢で贅沢ばかりをしていたヒロインを断罪して物語は終わる。



段々と自分を追い落とした奴らにざまぁしていくところがこの小説の醍醐味。最後にはヒロインを裁判にかけてこれまでの悪事を暴き白日の下に晒し、結果的にこれまで支持をしてきた民衆に嫌われ、誰にも助けられることなく辺境の地に追放される。


少し残酷な終わり方だが、それまでにヒロインの数々の悪事が描かれているため読者としてはむしろ気持ちよく読み終えることができる。


そう、この小説の中の悪ヒロインはクズ女。平気で嘘をつき男を誑かし罪をなすりつけて色々な男と不貞行為をして不正をして豪遊三昧で・・・。

当然そんな裏の顔を王子には見せずにいるのが腹黒いヒロインの凄いところ。まあ、結局はその悪事も断罪されるのだけれども。


で、そのヒロインの名前こそフィラーナ。地方男爵家の生まれながらあの手この手で第二王子の婚約者に成り上がる女。

そう、私はそんな女に転生した・・・・・え!?どうして!?!?!?!


まず整理しよう。

私は日本で交通事故にあって死んだ。→悪役令嬢小説世界に転生した。→転生体は断罪される悪ヒロイン。→しかも断罪裁判の前日。


こんなことがあって堪るか!!何で転生した先がこの女なのよ!

普通は悪役令嬢、又は王子やモブでは無いの!?転生ってこんなランダムなの!?そもそも何でこのタイミング!?

せめて主人公を断罪する前、もしくは断罪した後にしてくれる?!そうすればまだやりようがあったというのに・・・この現状をどう打破すればいいのよ!!!!!!!


現状は牢屋に閉じ込められている。明日は朝から裁判。つまり今夜脱獄するしか無い。でも、この世界に魔法はあるけど、フィラーナの使えるものでは脱出できない。もちろん私にピッキング技術もなければ、身体能力もそこまでいいとは言えない。


不測の事態には強いから今の状況も冷静に分析しているけど、そもそも私は泣き崩れてもいいレベルの理不尽を味わっているのよね。

文句を言っていても何も変わらない、かと言って行動も何もできない。


私の第二の人生はここに終わる・・・



なんて言う結末は絶対嫌だわ!必ず、私は生き残る!そして前世でできなかった自由と恋愛を謳歌したい!


原作通りにいくなら、私は裁判の場で最初は喚き散らし、途中からは惨めに言い訳と命乞いをして軽蔑の目を向けられる。それに哀れみがあったのか、結果的に国境ギリギリの山の奥深くの辺境に追放という処分で済んだ。もしかすると魔女認定されて処刑された可能性もあったのにだ。


で、あるならば最初から命乞いをすれば哀れみで近場への追放だけで済むのでは?浅い考えではあるけれど、主人公は結構寛容なところもある。惨めなことをするのは嫌だけど、それさえ耐えれば選択肢が広がる。


急に転生したかと思うと、こんな理不尽なタイミング。色々と文句はあるけど、今はまず生き残らなければならない。

私は必ずこの場を切り抜けてみせるわ!


そう意気込んで私は硬い床に体をあずけて眠りについた。

幸いにも脳がフル活動して疲れていたため、寝心地の悪さを気にせずに寝ることができた。



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