『新作短編』妖怪のよっちゃん、渋谷へ行く
はた
第1話 「よっちゃん、コーデされる」
「…なんじゃこりゃあ…」
田舎暮らしの少年よっちゃん、渋谷のスクランブル交差点で重度のカルチャーショックを受ける。
そりゃあ今まで石川県の能登を出たことが無いこの子には、この人の波は刺激が強すぎた。話は彼が石川県の能登から、県庁所在地の金沢に来た時にまで遡る。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
「なんじゃこりゃあ…」
能登から交通機関を乗り継ぎ、やっとこさ金沢までやって来て、金沢駅の玄関、鼓門を見た彼の反応。そこで見たのはごった返す観光客。外国人を見たのも初めてだ。
…これは先述と同じリアクションと同じに見えるのだが、こちらはまだ都会に出た喜びが感じられた。
よっちゃんは北陸地方の石川県の北端、能登で育った少年。短髪黒髪で、シャツにハーフパンツのザ・地方民。これに虫取り網と虫かごを与えたら、昭和初期の時代の少年だ。
だがこれは仮の姿。彼の両親は共に指折りの妖怪で、その血を色濃く受け継いでいる。そんな彼はお使い案件を受けていた。しかし、如何せん子供。大人の引率は必要だ。
「お、よっちゃん!!こっちこっち!!」
「あーっ、エバタさーん!!お久しぶりやねー!!」
彼は駅で付き添いのエバタさんと合流する。長い黒髪と赤い瞳。ビシッとスーツに身を包み、スタイルも顔もいいカッコイイ女性だ。若い男衆が振り向きながら、通り過ぎて行く。
もちろん彼女も「百目」と呼ばれる妖怪である。今はキャリアウーマンとして、金沢で生活している。
「すごいやねー、こないな都会、身震いするよー」
「何言ってんの…。これから東京行くんだから、今からそんなんでどーすんのよ。ホントに大丈夫?よっちゃん?」
都会の洗礼…これから待ち受ける更なるカルチャーショックに彼は耐えられるのだろうか。そして何よりまず、エバタさんはよっちゃんの身なりが気になった。
「…うーぬ。ちょっとその服じゃ、東京では生き残れないわね…よっちゃん…これでは即死よ?開始2分で骨になるわ」
「ふ、服だけで命を落とすんけ?み、都では…」
都会の怖さがつのるよっちゃん。そこでエバタさんは、
「そうよー、死活問題ね。よし!!私がコーデしたげる!!」
「こ…こおで?」
「ん?テレビとかで聞いたことない?」
不思議な言葉によっちゃんは困惑していた。これくらいの単語、今なら能登でも使わないこともなかろうに。しかし、ここで両親の教育方針が見え隠れすることになった。
「ほれ、テレビちゅうんは魂、吸い取るっていうやろ?おっかなくて観たこたないがよー。父ちゃんも母ちゃんも、観るなっゆーて。ゲイノウジンってなんかようけ聞くけど、あれって何?」
「いや、それはテレビじゃなくてカメラね…いや、カメラも魂取らないんだけど…よし、決めた!!新幹線乗る前に!!」
エバタさんは、まだ新幹線の時間がある事を確認し、よっちゃんの手を引いて、バスに乗り込み、
「よーし、片町まで服、買いに行くわよ!!よっちゃん!!」
「お、おーっ!!」
こうしてエバタさんによる、よっちゃん改造計画が始まった。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
「どう?着替えたー?」
「こんなんでええのか…な?」
エバタさんに指定された通りに、着替えを済ませたよっちゃん。だが、その声には不安と不満が含まれている。
「か…かわいーっ!!え?子役モデル行けるんじゃない?これ」
「んー?そうなん?これがそんなにいいん?…わからんわぁ」
アロハシャツにビーチサンダル。サングラスに麦藁帽。どこのイケイケじーさんなんだか。だが、これでエバタさんのセンスが壊滅的なのは、はっきりした。
これなら、先ほどの服の方がまだマシである。火がついたエバタさんはさらに服を選ぶ。もう、着せ替え人形状態のよっちゃんだ。完全に遊ばれている、そして着替えると、
「いい…いいよ!!よっちゃん、素材がいいわ。やっぱり!!」
今度は昔ながらのオーバーオールに、首には赤いスカーフをなびかせ、やはり麦藁帽。これだけは外せないらしい。
…どこのオクラホマなんだか。
「エバタさん…この季節に、このカッコは暑いがよー」
「ん?そうか、じゃあ…」
最終的にエバタさんが選んだのは、迷彩柄のシャツに、ハーフパンツ。最初の格好を1ランクアップさせたようなもの。だが麦藁帽は外せないらしい。海賊王にでもさせたいのか?
「さーこれで、都も怖くないわ!!いざ行かん、北陸新幹線かがやき!!駅弁買って、GOGO!!」
「お…おー…」
今回のお使いの目的を忘れかけてるエバタさん。だが、忘れてはいけない。あの悲惨な能登の地震と大雨を。今回のお使いはこの件が、非常に重要なポイントだ。
その割にはエバタさんは、観光気分。新幹線車内で、笹寿司の駅弁とワンカップ酒を堪能している。
よっちゃんも明るく振る舞うが、それが偽りであると簡単に見抜ける。それ程に脳裏に能登の惨劇が焼き付いていた。いつかは昔通りの能登の風景が戻るよう信じて、一路、東京を目指した。
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