頭痛の種

山野エル

頭痛の種

 患者というものは千差万別だ。


 頭痛に悩まされていると相談をしに来た若者のCTを撮れば、頭の中に釘が4本くっきり写っている。


 腹痛を訴えて飛び込んできたかと思えば、肛門から7種の夏野菜が出てくる。


 一体何がどうなってそうなったんだという事例は事欠かない。

 これまで診てきた患者の体内から出てきたものを集めれば、ある程度の質のいい生活は送れるだろう。


 とにかく、人間というものは何をしでかすか分からないし、そういうことに後ろめたさがあるのか、事実が明らかになるまで隠していたりするのだ。


 少し観察してやれば、患者が抱えているものも見えてくる。


 それが医者の仕事だ。



 そして今日も私は新たな患者を診察室に迎える。


 黒ずくめの男がのっそりと椅子に座る。


「頭がガンガンと痛むんです」


 低い声で男は症状を訴える。


 首から上は蒼白と言っていい。


 そして、なぜか額には拙い十字架の落書き。


「昨夜はお酒なんか飲まれました?」


「いや、酒は苦手です……」


「昨夜は何を?」


「まあ、ちょっと遊び歩いてまして……」


 何か隠していそうだ。


「頭をぶつけたとか、殴られたりしました?」


「いや、殴られたりはしてないですね……」


 殴られたりはしていない、か。争いはあったのかもしれない。


 少し探りを入れてみる。


「お友達は一緒にいました?」


「友達じゃないです、あんな奴……」


 諍いがあったのか。彼の心に一歩踏み込んでみる。


「何かされたの?」


「友達のふりをして近づいてきたんです……」


「悪戯されたのかな?」


 男は険しい顔をする。頭痛がぶり返してきたのか、頭を抱える。


「とにかく、この痛みを取り払ってくれ……」


「原因を特定したいんだけど、何か他に話すことはある?」


 男は口をグッと結んだ。


 やはり何か隠している。


 しばらく考えて、看護師を呼んだ。


「クレンジングオイルあるかな?」


「多分どこかにあると思います」


「じゃあちょっと持ってきてくれる?」


 患者の方を向く。痛みは増しているようだ。


「とりあえず、顔をきれいにしようか」


「顔、ですか?」


「落書きされているよ。気づかなかったかな?」


「お恥ずかしい限りです……」


 患者というものは千差万別だ。


 色んな人間がいる。


「君は、悪魔だね」


 男が目を丸くする。


「どうして分かったんですか……」


「額に十字架が描かれてる」


「ええっ⁉︎」


「たぶん油性マジックだから、クレンジングオイルで落としてきて。それでよくなると思います〜」



 顔を洗ってきた男はスッキリしていた。


「お手数おかけしました」


「最近はエクソシストも意地悪な人多いからね〜」


「あ、そうなんですか。気をつけます」


 色んな人間以外もいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

頭痛の種 山野エル @shunt13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ