第3話

 その夜、”彩音”の励ましを胸に俺は自室で自分を見つめ直した。


 確かに俺は傷ついたし、裏切られた。

 だけど、それで終わるのは奈緒たちの思う壺だ。俺を嘲笑った彼らに、その代償を払わせなければならない。


「もう、逃げるのはやめだ。……今度はお前らに苦しんでもらう!」


 復讐の炎が静かに俺の中で燃え始めた。


 まずは、彼らがどうやって俺を嵌めたのか、その証拠を集めることから始めた。奈緒が俺とのSNSやメッセージを通じて「お芝居」をしていた痕跡を、削除される前に全てバックアップした。


 そして、俺の復讐計画にみんなも協力してくれることになった。


「それは連中が悪い。危うく俺達も騙されるところだったぜ」


 奈緒はまだ詳しくは話していなかったようだが、俺の悪評をそれとなく流していたようだ。

 それでも、俺のスマホの記録や奈緒の弁明でみんなが俺の事を信じてくれた。


(勝手に決めつけていた、俺なんてどうせ一人だって。ちゃんと話し合えばよかっただけだったんだ……っ)


 それからは他のクラスメイトにも数日間協力し合って鈴島の身辺調査を行った。

 その結果、鈴島が不良仲間たちと裏でやり取りしていたことを掴み、決定的な証拠を確保するために動いた。


「悠斗を傷つけた人たちを、絶対に許さない。だよねみんな!」


 おお! と歓声の上がる光景に、自然と涙が零れた。

 彩音の真剣な言葉にみんなが。そしてそのみんなが俺の背中を押してくれた。7

 おかげで、俺は前に進むことが出来たんだ。



 証拠を握った俺は、奈緒と鈴島が逃げられないように準備を整えた。


 都合よく訪れた文化祭の日。

 クラスメイトや教師たちが開幕の挨拶で体育館に集まる中、二人の仕打ちを暴露する場面は整った。


 実行委員会の連中にも事前に話を付けた俺は、スマホからパソコンに映したデータを使って大画面に投影してもらった。……二人が俺をバカにしながら計画を立てる映像やメッセージを。


 不良の中にも鈴島を気に入らない奴がいて、訳を話すと快く協力してくれ、悪だくみの計画が入ったデータを渡してくれたんだ。


 会場中がざわめく。

 奈緒と鈴島は必死に弁解しようとするが、もう遅かった。


「こんなこと、していいと思ってたのか?」


 教師たちの怒りとクラスメイトたちの軽蔑の視線を浴び、二人の逃げ場はどこにも無かった。


 俺は最後に誰に聞かせるでもなく、静かに呟いた。


「お前たちが壊そうとした俺の人生だけど……もう二度と、お前たちに振り回されることはない」


「し、知らない! 私じゃない! 私じゃないもん!! ……私だけが悪いんじゃないっ!!」


 奈緒は泣きながらうずくまり、暴れる鈴島と共に教師に引きずられていった。

 俺は静かな勝利を胸に抱きながら、彩音の手を握った。


「ありがとう、彩音。それにみんな! みんながいてくれたから、俺やれたぜ……!」


「何言ってんの、友達でしょ。それに言ったじゃん! あんたみたいないい奴、放っておける訳ないって」


 奈緒がしたことは到底許されることじゃない。

 けど、そんな奴の本性にも気づけなかった俺だって相当な馬鹿だ。


 一緒に過ごしてた時間がだけが全てじゃない。それを教えてくれた事だけは感謝しておいてやる。


 だから……せめて大人しく報いを受けてくれ。


 ◇◇◇


 文化祭の後、俺と彩音は付き合い始めた。

 あの二人は停学をくらい、そのまま自主退学で学校から居なくなった。

 親にも連絡はいっただろうし、無理矢理辞めさせられたのだろう。


 仮に戻って来ても、もう以前の居場所は無かっただろうが。


「ん? 何考えてんの?」


「ああ、いや。俺って幸せだなって」


「そんなの当然じゃん! 私みたいないい女が彼女やってんだもん。彼氏として鼻が高いっしょ」


「へへっ、何だよそれ。ま、その通りだけどさ。――」


「ぁ……ん。ふふっ」


 放課後の帰り道、浮かれてキスをするカップルがいたって咎める人間は周りに一人も居ない。


 こんな青春が送れるんだから、あの時自殺しなくて本当によかった。

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信じていた彼女はただのクズだった。絶望した俺は本当の彼氏とやら共々畜生達に復讐する事を決める こまの ととと @nanashio

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