第7話 妖界
要約すると、こうだ。
妖怪の住まう世界ここは、
扉が人間界と繋がる日にちは、それぞれの扉ごとに決まっているようだ。
そして、ここの街一帯を納める神様が
そこで、律さんのお店の扉を使って私を探し出されたようだ。
お嫁さん探しは、とても大切らしく。候補となる人を何人か探し出して、何年かかけて選別をするそう。その中で一番いいと思う人を白狐と黒狐が連れてくるそうだ。
詳しく話してくれた和さんでも、なぜお嫁さん探しが大切なのかまでは知らないと言われてしまった。
淡々とした話し方に、先ほどまでの
冷たい感覚に、和さんの温もりが消えかけてしまう。
――しかしここまで説明されても、私は腑に落ちないのだ。なぜなら、私は……選ばれるような人間では決してないから。
活力的な人ってもっといるはずだ。
(そんなことまでして、ここに連れて来られる人間じゃない……)
「ここの妖は人間が来やすい街になってるから、あまり人間がいても驚かないのよね」
その言葉に私は、瞬きを数回打ち頭の中が白くなってしまった。私の理解し難いという反応に、和さんは首を傾げている。
「ん? でも、律さんは久しぶりの人間だって仰ってませんでした?」
「うん! 久しぶりに来た、人間のお客さん!」
にこやかに律さんは、言った。それがどこか、清々しくて私は呆気に取られてしまう。
軽く口をぱくぱくとさせてから、声を発した。
「扉から入ってくる人間自体は、そんなに久しくないんですか?」
「お客さんとして人間の夢を取るのは、何年振りだろう? あ、でも扉から来るのだって、久しぶりだよ!」
「あぁ〜、もう! 律の言うことは適当だから、信じなくていいからね!」
こちらを振り向く和さんは、呆れの色を滲ませている。それに対して私は、「分かりました……」と何とか答えるので精一杯だ。
消え入るような声に、和さんは苦笑いを浮かべる。
「今から、暖さんのところに行くの?」
「そのつもりだよ〜。だから、着付けお願いね〜」
そう言って、逃げるように律さんは店先に出ていってしまった。先ほどまでよりも早口で、サクッと出て行ってしまったのだ。
「可愛くしてあげるからね!」
とても手際良く、和さんは私を着付けていく。帯飾りに金の鈴を付けてくれた。
きらりと輝き、小ぶりで可愛らしさと煌びやかさをかね揃えたそんな鈴だ。
動くたびに、リーンリンと可愛らしい音がする。自分の動きに合わせて音がするのが、どこか心地よさを感じさせる。
ぎゅっと結ばれた感じが、背中は見えなくてもおそらく華やかなリボン結びをしてくれていることがわかる。
「すごい素敵です! ありがとうございます!」
「本当にいい子ねぇ! 髪の毛もやってあげるからこっちに座って!」
手招きをされ鏡台の前に案内された。鏡に、私の茶色のウェーブの髪が鏡に映る。
どれだけ櫛を入れても、姉と違って真っ直ぐになってくれない好きになれない髪。その姿を見るのが嫌で、目を逸らしてしまう。逸らした先に、ランプが置かれている。
「素敵な髪の毛ね」
心の声が漏れたような呟きに、もう一度鏡で和さんを見る。飾りのついていないつげ
褒められたとして、好きになれるものではない。
「いえ……私の髪の毛は癖毛ですし」
「ダメよう。女の子は自分が可愛いって思うぐらいじゃないと! ……恋坡ちゃんは可愛いわ!」
櫛を化粧台の上に置いて、私のことを抱きしめた。
今度は、優しく包んでくれる腕に瞳に薄い膜が張るような気がした。
そんな自分を悟られないように、少し俯いてしまう。嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で私を埋め尽くしていく。
「ふふふ。……さっ! できたよ。鏡で見てみて!」
抱きしめられていた右手を離されて、頭にスッと髪飾りを差し込まれた。そして、そのまま促されるまま鏡に顔を向けられる。
ハーフアップにされて、着物と合わせた牡丹の花飾りが髪に付いていた。
「可愛いです。……こんなに素敵な着物に、素敵な髪飾り。ありがとうございます!」
「ここでの生活は、すぐに慣れなくても大丈夫よ。みんな少し変わってるけど……いい妖ばかりだから」
宥めるように私の頭を撫でて、眉をぐっと下げている。どこか切なさを感じて、頷くしかできなかった。
青色の憂いを帯びた瞳が、私を想ってくれるのがよくわかる。
「また、ここに遊びに来てね? 話をするだけでも、お茶をするだけでもいいから。私とはお友達。ね?」
「お友達! 嬉しいです」
どこか念をおす形で私に、言い聞かせるように言ってくれる。
こんな真っ直ぐに見つめてくれるその瞳に、それ以上の言葉を失ってしまった。自分の揺れる気持ちが、悟られないように心に蓋をした。
隔てたところにいる律さんが、この気持ちを察してくれたように声をかけられる。
きっと、律さんに私のこの気持ちはわからないだろうが……いいタイミングすぎて、伝わっているかのように感じてしまう。
「もう準備終わった〜? 恋坡ちゃん、そろそろ暖のところに行くよ〜」
「はい! いま、行きます!」
「このお洋服、預かっておいてあげるね! 暖さんのところへ行ったら、また取りにおいで〜」
綺麗に畳まれた私の白に赤のセーラー服。
――思い入れなんてない、ただの制服。
華燭のまつり 白崎なな @shirasaki_nana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。華燭のまつりの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます