ハルは好き、ハルは嫌い。

なめこのおみそ

ハルは好き、ハルは嫌い。


 ハルは好きだ。


 ハルは俺に温もりを教えてくれた。


 ハルは嫌いだ。


 ハルは俺からその温もりを奪った。


 ハルが去り、ナツが残る。


 嫌というほど騒がしかった通学路も、いつも温かった右手も、ハルが去ると少し、寂しい。


 久しぶりに石を蹴った。


 思うように飛ばなくて、何度も何度も石を取り換えた。


 ハルは大事なものを奪っていく。


 ハルが笑えば花が舞い。


 ハルが怒れば花は散り。


 ハルが泣けば雨が降る。


 目を奪い。


 耳を奪い。


 心を奪った。


 そして、ハルにハルは奪われた。


 ナツが残った。


 人気のない神社でハルと覗いた火の花も。


 アキが残った。


 何気なく帰りにハルと分けた焼き芋も。


 フユが残った。


 勇気をだしてハルに紡いだ言の葉も。


 ハルが去れば、ただの花火で、味気ない焼き芋で、言葉なんて所詮ただの言葉だった。


 フユが過ぎてまたハルが来る。


 周りでは丸い筒を持った学生達が集まり、記念写真を撮って居たり、親であろう人と抱き合って居たり、友達と二人泣いて居たり、色とりどりだった。


 親もいる、友達もいる、だけど俺はただ一人に向かい歩いて行く。


「久しぶりです、春名はるな先輩」


「……うん」


「また、後輩になりました」


「……うん」


 春名先輩には花が舞い、雨が降り、そして散っていた。


「夏樹君」


「はい」


「君ってさ、本当に強情だよね」


「はい」


「私……私がさ……君から離れるために、わざと難しい大学を選んだのは知ってるよね」


 春名先輩の花が散る


「知ってます」


「君に、夏樹君に甘え過ぎてしまうから、距離を取ったんだけどなぁ」


 春名先輩に雨が降る


「知ってます、だからこそ、今ここに居るんです」


「……うん」


「俺は、先輩と一緒に居たいです」


「……私がもうすぐ枯れてしまうと知っていても?」


「当たり前です」


 春名先輩に花が舞う


「多分、君が鬱陶しくなるぐらい、我儘を言うかもしれないよ」


「はい」


「……今以上に甘えるかもしれないよ」


「はい」


「……ッ先輩なのになぁ……情けないなぁ……」


「はい」


「……まったく、そこは、いいえって、いう所、だよ」


「……はい」


 今日は雲一つ無い快晴だというのに、ハルとナツの隙間に雨が降る。


「俺は、ハルが好きです」


「……私は、ナツが好きかな」


 ハルが笑い、ナツもまた笑った。

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